友だちに「白石がのことを好きだという噂がある」と言われて3日が経った。
あの日から、白石のことを気にしてみたけど、私のことを好きなんて素振りはないような気がする。
ただ、この3日間(休みを挟んでいるから正確にはそんなに経っていないけど)、何回も女の子から「白石くんがさんのこと好きって本当?」と聞かれた。
何でこういうこと私に聞くんだろう、私はエスパーじゃないんだから白石の気持ちなんてわかるはずもないのに。
「気になるなら白石に聞けば」そう言いたいところだけど、その言葉は喉で詰まってしまう。
人によっては、”一晩中泣いてしまいました”と言わんばかりの真っ赤な目で問い詰めてくるのだ。
そんな子に対して、冷たくあしらうなんて、そんなことはできない。
「ただの噂だからさ、気にしないほうがいいんじゃない?」
無理矢理笑顔を作ってそう答えるしかなかった。
はっきり言って、疲れる。

「じゃあ直接白石に聞いたらええやん」

私にその噂を教えた本人に聞けば、あっさりそう返されてしまった。まあ、それは、そうなんだけど。
3日前と同じように屋上でご飯を食べながら、この間と同じ話題をする。
はあ、もう溜め息しか出てこない。

「聞くって言ったってさあ…私のこと好きなの?とか聞いて違ったら赤っ恥じゃない」
「そりゃそうやけど。でもだって気になるんやろ?」
「まあ、このままじゃ困るっていうのはあるけど…」

購買で買った紙パックのレモンティーを飲みながら頭を抱えた。
違ったら赤っ恥、と言ったけど、違わなかったらそれはそれでとんでもないことなんだよね。
どちらにしろ、白石に直接聞く、という選択肢はありえない。

「あ、噂をすれば、じゃない」
「え?」
「白石、来てるよ」

友人の指差す方向を見ると、確かにそこには白石がいた。
白石もここにお弁当でも食べに来たんだろうか。

「白石ー!ちょっといい?」
「何や?」

わ、何言うの!と慌てて友だちの口を塞いだけれど時すでに遅し。
白石はすたすたとこちらにやってくる。それに比例するように私の心臓の音は大きくなる。

「ね、白石ってさ…」
「わーわーわー!!!」
「どうしたん?」
「何でも!何でもない!」
「?」
「えっと、えー…あ、し、白石もお昼ここで食べるの?」
「?そやけど」

友人の言葉を遮るために、とりあえず思いついたことを慌てて言う。
ぱっと思いついただけなので、もちろんその先のことは考えていない。
少し間が空いた後、友人は何かを思いついたような顔をした。

「せやったら一緒にご飯食べる?」
「ちょっ…!何言ってんの!」
「別にええよ」

友人の言葉にもびっくりしたけど、白石の返しにさらにびっくりした。
白石だって、真偽はどうあれ当然あの噂は知っているだろう。
その白石と一緒にお昼なんて、きっと心臓がもたない。

(せっかくのチャンスじゃない!)
友人はそう耳打ちをしてきたけど一体なんのチャンスだって言うんだ。
寧ろ私には好機ではなく悪機な気がする。そんな言葉ないけど。

「じゃ、お邪魔虫はいなくなりますよ〜」
「ちょっと!?」

白石が私の隣に座った次の瞬間、友人は立ち上がってその場から去っていった。
…ノリのいい彼女のことだから、こういう事態になることはある程度想像はできたけど。

「お邪魔虫?」
「いや、その…気にしないで」
「そ。じゃ、いただきます」

白石はお弁当箱のふたを開けて食べ始める。
お弁当の中身は冷凍食品なんてなさそう。

「どないしたん?弁当足りん?」

白石にそう言われて今までお弁当に手をつけていなかったことに気づいた。
しかも視線は白石のお弁当で固定されているから、白石のお弁当が欲しいみたいだ。

「いや、そうじゃなくて…。えっと、白石、なんでお昼ここに食べにきたの?いつも教室で忍足とかと食べてるよね?」
「あー、たまには静かなところで食べたいなあ思て。教室は賑やかやからなあ」
「じゃあ、1人で食べたかった?ごめんね」
「いや、は謙也みたいにうるさないし。話相手はおるほうが弁当もうまいし」

本当は、「ごめんね」と言ったところで即座に立ち去ろうとしたけど、白石が間髪入れずにそう言ってくるものだからその計画は不発に終わった。

、人見知りなん?」
「えっ、なんで?」
「なんかめっさ緊張しとるみたいやから」
「まあ…男の子と二人きりで話すなんて滅多になかったし」

私が人見知りなのは事実だ。
事務的な会話なら平気だけど、ほとんど話したことがない人とこういう他愛もない会話をするのは苦手。
しかも噂の白石が相手となればなおさら。

「白石は人見知りとかしなそうだね」
「んー、確かに。あんまりせえへんな」
「いいなあ、ちょっとうらやましい」

さっきより少しだけ緊張も取れてきて、箸も進むようになってきたのに、次の白石の言葉で私はその箸を落とす羽目になった。

「せやったらの人見知り克服のために、俺が一肌脱いだるわ」
「え?」
「明日から一緒に昼食べようや」

私の口は「え?」と言ったときのまま塞がらない。
目の前の彼は一体どういうつもりで誘ってきてるんだろうか。
白石も恐らくあの噂を知っているだろうし(テニス部は顔が広いから噂が広まるのも早い)、
そんな中で一緒にお昼食べるって一体その何事なんですか。

「や、やめておきます」
「遠慮なんていらへんよ」
「遠慮じゃなくて!」
「いやいや、そないなこと言うてたらいつまで経っても人見知り直らんで?」

人見知りなんて直らなくてもいいよ!と言おうとしたけど時すでに遅し。
白石はいつの間にか食べ終わっていたお弁当をしまい「明日、またここでな」と言い残して去っていってしまった。

今までよく知らなかったけど、白石は意外と強引でお節介な人なようだ。
まだ半分以上残っているお弁当を見ながらそう思った。



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09.10.01