「白石君ってかっこいいよね」

小学5年生の春。
休み時間、同じクラスの友達と話していると突然そんなことを言われた。

「わかるー!イケメンやし、足も速いし!」

もう一人の友達がそう言ってくる。
4年生になったあたりから、こういう会話が増えた。
誰がかっこいいとか、あの人が好きだとか。

は白石君と家隣なんやろ?」

その話が出れば必ずと言っていいほどこれだった。

「うん、まあ…」
「ええなあ〜。…な、ここだけの話なんやけど」

友人が手招きするので3人で縮こまる。

「…昔ちゅーとかせえへんかったの?」

友達の言葉に、一気に顔が赤くなる。

「しとらん!しとらんよ!?」
「ホンマ?」

もう言葉が出てこず、ひたすら首を上下に振るしかできない。
多分周りから見たら滑稽な光景だろう。

「そういうのなんもしとらんの?」
「う…手つないだりはようしたけど、そんなん幼稚園の頃他の男子ともしたやろ?」
「まあ、あの頃はそないな意識しとらんかったもんなあ」

友人はなーんだ、と残念そうな声を出す。
キスはしていない。本当に。
…結婚しようとか、大好きとか、そういうことはしょっちゅうお互いに言い合っていたけど。

いつの間にか、私も蔵もそういうことは言わなくなった。
段々恥ずかしくなって、少しずつ距離が開いてしまった。
開いたといっても、昔みたいに手をつないだりいつも一緒にいるわけではないというだけで、お互いの家に遊びに行くし、たまに一緒に帰ったりもする。

だけど、前とはやっぱり違う。



「お邪魔しまーす」
「どーぞ」

その日の夕方。今日も蔵の家に来た。

「カルピスでええ?」
「うん」

リビングで二人でくつろぐ。
キッチンでは蔵のお母さんが夕飯の準備をしているようだ。

「ゲームせえへん?」
「あー、あれ私途中の奴?」
「そう」
「やるやるー」

蔵はテレビとゲーム機の電源を入れる。
セーブデータ2のところには私のプレイ中のデータがある。

「スタート〜」

スタート画面がテレビに映し出される。
いつもの光景だ。

「…そういえばさあ」

冒険を進めながら、だらだら会話をする。

「ん?」
「今日友達が蔵のことかっこいいって」

ほんの世間話のつもりで話し出したのに、蔵の顔は一瞬で曇った。

「…嬉しくないん?」
「…別に」

普通、女子にかっこいいと言われてたと知ったら喜ぶものじゃないんだろうか。
蔵の顔はそれとは正反対の表情だった。

「…の口から聞きたなかったなあ」

蔵が呟く。
テレビの中の私のキャラクターは死んで、リスタート画面が映し出された。