中学2年、夏。 最近の夏は暑い。 燦々と照り付ける太陽が痛いぐらいだ。 「あっつ…」 「こりゃ倒れるわ…」 今日は蔵も部活がないので、二人で一緒に帰っている。 あまりの暑さに会話も途切れ途切れだ。 「今日寄ってくか?」 「あ、うん」 家の前まで来たところで、蔵にそう言われる。 今日お母さんパートだし、家に一人でいるより蔵の家にいたほうがいい。 「お邪魔しまーす」 「どーぞ」 「あれ、おばさんいない?」 「そうみたいやなあ。多分買い物やろ」 靴を揃えて蔵の家にあがる。 中学生になっても相変わらず、私たちはお互いの家を行き来している。 「あー!クーラー気持ちいい!」 「麦茶でええか?」 「うん!」 蔵の家のリビングの椅子に座って、クーラーと扇風機の恩恵を存分にうける。 「ちゃんと水分取らな熱中症になるからなあ」 「最近多いもんね」 言いながら蔵は麦茶の入ったコップを二つ持ってきて、私の前に座る。 二人してコップの麦茶をあっという間に飲み干してしまう。 「もうペットボトルごと持ってくるわ」 「あ、ごめん」 確かにこのペースじゃペットボトルごと持ってきたほうがいいだろう。 蔵が立ち上がった瞬間、彼の隣に置いてあった鞄が椅子から落ちた 「あ」 蔵にしては珍しく鞄が開いていたらしく、中身が床に散乱する。 拾おうと思って椅子から降りてしゃがみこんで机の下に顔を出す。 「悪いなあ」 「いえいえ」 英語の教科書を拾い上げる。 その下に、封筒を見つけてしまった。 白い封筒に、ピンクのハートマークのシールが貼られている。 「あ…」 「……」 机の下で、気まずい沈黙が流れる。 蔵はその封筒を手に取ると、机の下から出た。 「…えっと」 「……」 非常に気まずい。 蔵がモテるのは知っている。 小学校の高学年になってから女子に騒がれるようになって、中学生になった今では告白なんて何度もされているはずだ。 でもそれはあくまで伝聞の話であって、実際こうやって蔵に宛てられたラブレターを見ると、ショックが大きい。 「…モテモテやね〜」 居た堪れなくてからかうように言うと、蔵は顔を曇らせた。 「…」 「っ!」 蔵は真剣な顔つきで、私の腕を掴む。 突然のことに、声が出ない。 「く、蔵」 「…俺はなあ」 私の腕を掴む力が一層強くなる。 ドキドキ、する。 「にそう言われるんが一番傷つくんやけど」 蔵の顔は真剣そのものだ。 目を逸らせない。 「…俺は幼稚園のころからちっとも気持ちは変わってへんのやけど」 幼稚園の頃。 大きくなったら結婚しよう、大好きだと言い合っていたあの頃。 「…蔵」 「だからなあ、に『モテるね〜』とか『友達がかっこいいって言ってたよ〜』とか言われんのめっちゃへこむねん」 「…ごめん」 蔵がそんなにショックを受けているなんて知らなかった。 思わず謝罪の言葉が出てしまう。 「今俺が聞きたいんはそれやなくて」 「?」 「はあのころから変わっとるのか、そうやないんか、なんやけど」 蔵のまっすぐな視線が痛いぐらいだ。 私は目を逸らさずに言った。 「…私も、変わらんよ。なんも」 「」 「ずっと、蔵のこと、」 「あ!タンマ!」 そこまで言うと、蔵は慌てたようにそう言ってくる。 「な、なに?」 「俺から聞いといてなんなんやけど、やっぱ男から言わんと締まらんやろ」 蔵の言葉の意味を理解して、私は崩していた足を正座にした。 「…」 「う、うん」 「好きやで」 「…私も、好き」 蔵の顔が近付く。 私はゆっくり目を瞑った。 ← → |