ダイゴさんと海に行く話

 私の目の前に広がる青い海、白い砂浜、広い空。夏のビーチに相応しい、鮮やかな光景が広がっている。
 恋人であるダイゴさんに連れられて、私はトクサネシティからさらに離れた小島のビーチに海水浴にやってきている。先日ぽつりと「海水浴、しばらく行ってないなあ」とつぶやいた私の独り言を、ダイゴさんは覚えてくれていたのだろう。「海に行こう、水着を用意しておいで」というダイゴさんの誘いに、私は心を弾ませ新しい水着まで揃えてこの日を待っていた。
「お気に召したかな」
 フリルのついたブルーの新しいビキニを身に纏い、砂浜に座っていると、ダイゴさんがひょいと私の顔をのぞき込んでくる。ダイゴさんもいつものスーツではなく濃紺の水着を着用し、夏の装いを見せている。
「お気に召すというか、なんというか……」
 ダイゴさんの問いに、私は口ごもる。
「なにか問題が?」
「いや、その……誘われたときはふつうの海だと思ってたので。まさかプライベートビーチとは……」
 そう。ここは私たち以外誰もいない、ダイゴさんが所有するプライベートビーチなのだ。
 ダイゴさんに誘われたとき、私はてっきりカイナやトクサネの海水浴場に行くものだと思っていた。いくらダイゴさんが御曹司とはいえ、「海に行こう」と言われてプライベートビーチに行くなんて思ってもみなかったのだ。
「こっちのほうがゆっくりできない?」
「それはもちろん、そうですけど……」
 ここなら夏のビーチにありがちな混雑はない。さらにはビーチのすぐ後ろにはダイゴさんの別荘もあり、冷たい飲み物もすぐに持ってくることができる。お気に召すもなにも、私に不満などあるはずもない。身の丈に合っていないように感じてしまうことを除いて。
 まあ、ダイゴさんと一緒にいてこう感じることは慣れっこだ。ただの小旅行のつもりが五つ星ホテルに連れて行かれたり、果ては豪華な別荘に案内されたり。洞窟で採掘に勤しむ姿はふつうの登山客のようだからときどき忘れてしまうけれど、ダイゴさんはホウエン随一の大企業デボンコーポレーションの御曹司なのだ。私もダイゴさんと付き合い始めてそれなりにたつ。いい加減、高級な場へ突然飛び込むことも慣れてきた。
「気に入ってますよ。海も綺麗だし、人目も気にしなくていいし」
 ダイゴさんはデボンの御曹司であるだけれなく、ホウエン地方のチャンピオンでもある。有名人のため、デート中に声をかけられることも多い。特に子供たちにはチャンピオンは憧れの的のようで、子供の多い場所では注目の的になりがちだ。それ自体はいいのだけれど、私たちだけでのんびりできる空間は、やはり居心地がいい。
「そうだね」
 ダイゴさんは私の答えに微笑んだ。そして、すっと私の唇にキスを落とす。
「誰もいないと、こういうこともできる」
「……もう」
「水着も似合ってるよ。綺麗だね」
 ダイゴさんは私の肩紐をそっと撫でた。
 今着ているブルーのビキニの水着は新調したばかりのもの。トップスはフリルがついて、ボトムはミニスカートのような形状になっている。露出が少なめとはいえ、じっと見つめられると頬に熱が集まってしまう。
「……誰にも見せたくないとか、言わないんです?」
「うーん。どっちかっていうと世界中に自慢したいな。こんなに可愛くて綺麗な女性がボクの恋人なんだよって」
 ダイゴさんが微笑みながらそう言った。ダイゴさんらしい言葉に、私はなんだかくすぐったくて一度目を伏せる。
「ダイゴさんってば」
 すぐそういうことを言うんだから。その言葉は、ダイゴさんのキスで遮られる。
 熱いキスが、何度も降ってくる。幾たびも唇を重ねれば、だんだん頭が惚けてきた。太陽の熱と、内側から溢れる熱情で全身が熱くなっていく。
「でも、のこんな色っぽい表情は、ほかの誰にも見せたくないな」
 ダイゴさんは私の唇を指でなぞる。妖艶な笑みと仕草に、私の心にまた火が灯る。
 今度は私からダイゴさんにキスをする。
 ああ、誰もいないビーチでよかった。ダイゴさんのこんな表情、私だって誰にも見せたくないから。