ダイゴさんが自分のぬいに嫉妬する話
※ポケマスのサロンにトレーナーのぬいぐるみが実装されて「えっじゃあダイゴさんがサロン招待されたらダイゴさんのぬいぐるみも飾れるの!?」とテンション上がって書いた産物です。細かいところはご容赦ください。
ダイゴさんからダイゴさんのぬいぐるみをもらった。ダイゴさんのぬいぐるみって一体なに、と思ったけれど、どうやらデボンが試しに作ったものらしい。
「自分の部屋に飾るのもね……」
私の部屋に来てこのぬいるぐみを渡してきたダイゴさんは、珍しく苦笑しながら頬を掻いている。本当に戸惑っているのだろう。さすがのダイゴさんも、自分のぬいぐるみを自室に置くのは躊躇われるらしい。
とはいえ、私も恋人のぬいぐるみをもらっても……と思ったのだけれど、ダイゴさんの「きみのエネコの遊び道具にいいかなって」という言葉で受け取ることにした。確かにこのぬいぐるみは大きさはだいたい二十センチぐらい、エネコがじゃれるのにちょうどよさそうだ。
「じゃあ……いただきますね。ありがとうございます」
さっそくエネコに見せたかったけれど、エネコは今日はずっと眠ったままだ。仕方ないのでダイゴさんから受け取ったぬいぐるみをそっとソファの上に置いて、ぬいぐるみの話もそこでいったん置かれることとなった。
「お風呂借りるね」
ぬいぐるみの話が置かれたまま、夜は更けていった。夕飯の後、お風呂に入るダイゴさんの後ろ姿を見送って、一人リビングで過ごしている最中にふと目に入ったのはソファの上に置かれたダイゴさんのぬいぐるみ。
「よくできてるなあ」
手持ちぶさたな私は、ソファに座ってそのぬいぐるみを手に取った。私の手の中にある、柔らかい布の素材で作られた、二等身ほどのぬいぐるみ。大きさはルリリと同じぐらい。
持ち上げてぬいぐるみと自分の目線に合わせてみる。改めてしっかりと見ると、彼の特徴をとらえていることがよくわかる。淡い水色の頭の部分は髪型もそのままダイゴさんそのもので、黒と紫のスーツもいつも彼が着ているものにそっくりだ。簡素な作りなのに、一目でダイゴさんだとわかるほど。
「綺麗な顔……」
ぬいぐるみは顔つきを含めて可愛らしくデフォルメされているけれど、それでもやはり整った顔。まさにミニチュアダイゴさん。私の手の中にダイゴさんがいるのがなんだかおかしくて、私は小さな笑い声を漏らした。
ふと出来心で、ツンとぬいぐるみの頬を指で突いた。ツンツンと何度かつついたあと、親指でムニムニと頬を揉んでみる。
「……可愛い」
ぬいぐるみなんてもらっても……と思ったけれど、意外と楽しいかもしれない。頭を撫でたり、小さな手を掴んだり。小さなダイゴさんを撫で回すの、少し楽しい……かも。
調子に乗り始めた私は、ぬいぐるみを両手でしっかりと掴んで、右手と左手両方の親指で頬を揉む。むにむに、むにむに。柔らかくて気持ちいい。本物にはこんなことできない分、撫で回すのが楽しい。
「エネコに渡すの、ちょっともったいないかな……」
頬を撫でてみれば、心なしかぬいぐるみが笑った気がする。可愛いなあ、なんて思いながら、今度は頭を撫でてみた。
「よしよし」
「楽しそうだね」
「わぁっ!?」
突然後ろから聞こえてきた声に、私は大きく体を揺らした。慌てて振り向けば、そこにはニッコリと笑顔を浮かべたダイゴさんがいる。
「あ、あの……いつからそこに」
まずいまずいまずい。私がぬいぐるみを撫で回していたところ、ダイゴさんに見られた。どうしよう、最後だけならまだセーフ!?
「五分ぐらい前かな」
その答えに私のかすかな期待は砕かれる。それ、一部始終じゃないですか……!
「で、ずいぶん楽しそうだったね」
「あっ」
ダイゴさんはわたしの手からぬいぐるみを奪い去る。そしてそのまま、彼にしては珍しく乱暴な様子でぬいぐるみをソファの上へ放り投げた。
「あの、ダイゴさん……」
「ん?」
「怒ってます?」
ぬいぐるみの扱いもそうだけれど、私の隣に座ったダイゴさんからはいつもの穏やかな雰囲気が感じられない。恥ずかしいところを見せた自覚はあるけれど、怒らせるようなことをした覚えはない。ピリっとした空気に、私は戸惑いを隠せない。
「いいや、嫉妬してるんだよ」
ダイゴさんは指先で私の頬をなぞる。冷たい感触に、私は思わず肩を揺らした。
「、ボクはね。きみが照れ屋でなかなか素直になれないことも知ってるし、そんなところも好きなんだけど」
淡々としているけれど、少し熱を帯びたダイゴさんの声。彼は言葉を続けながら、じりじりと私との距離を詰めてくる。私がソファの端に体一つ分移動すれば、ダイゴさんもその分こちらへ体を動かすという具合に。二人掛けのソファでは、あっという間に私は追い詰められてしまう。
「ボクにしてくれないことを他のやつにしてるのを見たら、さすがに黙ってられないな」
他のやつ。私は思いがけない言葉に目を丸くした。
「でも、ぬいぐるみですよ……?」
これが他の男ならわかるけれど、あくまでぬいぐるみ。しかもダイゴさんを模したぬいぐるみだ。
「ぬいぐるみでも、だよ」
ダイゴさんは私の頬を大きな手で包んだ。そのまま私の顔を持ち上げて、しっかりと目線を合わせる。
「ねえ、ボクにもしてくれる?」
「えっ」
ダイゴさんの言う「ボクにも」は私がぬいぐるみにしたことだろう。私が、本物のダイゴさんに、あれを。
「え、えっと」
「してくれない?」
別に頭を撫でたり頬を指でつついたりするぐらい、なんてことのないスキンシップであるはずだ。しかし、こう、改めて構えられると、なかなか手を伸ばしにくいというか。あれを見られたあとでやるのは、とんでもなく恥ずかしいというか。
「それならボクからしようかな」
戸惑う私をよそに、ダイゴさんは口角を上げたどこか食えない笑みを浮かべて、私の頬を両手で包む。笑顔の中に、鋭い瞳が見えるのはきっと私の気のせいではない。
「あ、あの、ダイゴさん」
「。ボクはね、きみが思っているよりずっと嫉妬深いんだよ」
ダイゴさんの低い声が耳元で響いて、私は思わず体を跳ねさせた。
「それを教えてあげるよ」
*
後日、ぬいぐるみはダイゴさんに没収されました。エネコへ代わりとしてラブカスのぬいぐるみを持ってきてくれたダイゴさんは、満面の笑みを浮かべてこう言った。
「触りたくなったら、ボクのところにおいで。いつでも歓迎するよ」
触らせてくれるのは、もちろんぬいぐるみではない。