全中優勝。夏が終わり、私たちは引退した。
毎日のようにあった練習がなくなり、受験勉強の日々が始まる、と思いきや。

「虹村!」

夕方、虹村と公園で待ち合わせた。

「監督、どうだった?」

全中の直後、監督が倒れたと聞いた。
虹村はじめ一部の部員がお見舞いに行ったので、どうだったのか聞こうと思い、虹村を呼び出した。

「思ったより元気」
「そっか、よかった」
「でも復帰は難しいらしい。割と重い病気みてーでな…」
「……」
「…ったく、ビビらせんなよな」

虹村はベンチに座って天を仰ぐ。
…監督の知らせを聞いたとき、一番脅えたのは虹村だろう。

「…病院なんか、そんなぽんぽん行くとこじゃねーだろ」

…多分、虹村はお父さんのお見舞いやらで病院にはよく行っているんだろう。
監督が倒れたと聞いたとき、虹村は何を思ったんだろう。

「…あ、…っと、そうだ、コーヒー飲む?」

何を言えばいいかわからず俯いていたけど、数か月前のことを思い出す。
虹村が主将を赤司に譲った日。
あの日、この公園で虹村と一緒にコーヒーを飲んだ。

あの日のことを思い出して、そう持ちかける。

「いや、いい」
「遠慮しなくていいって」
「…いいって」

虹村は低い声でそう言うと、私の肩に頭を乗せた。
あの日みたいに。

「に、虹村」
「…こうすんの、落ち着くんだよな」

虹村のこんな姿、ほとんど見ない。
…虹村が落ち着くのなら、こうしていよう。

「…お疲れ様」
「疲れてるよ」
「…だよね」
「優勝したけど後輩の心配は尽きねーし、監督はぶっ倒れるし」
「うん」
「それに…」

虹村は言いかけて、目を瞑る。

ああ、この人は、やっぱり帝光バスケ部の主将だった。
いつまでもみんなのことを気にかけて、背負い込んで。

「…虹村」
「ん?」
「肩くらい、いつでも貸すから、なんかあったら、いつでもどうぞ」

私には、虹村の背負うものはわからない。
両親は健在だし、後輩や監督のことは心配だけど虹村の言う気持ちとは少し違う気がする。

だったら、せめて、虹村の負担を軽くできたらな、と。

「…本当だな?」
「え、うん」
「意味わかってんのか」
「え?」

虹村は起き上がると、私を真っ直ぐ見つめる。
え、な、なに。

「いつでも借りるぞ」
「う、うん。いいってば」
「…お前なあ」

虹村はため息を吐くと、また私を見つめてくる。

強い眼。
目が、逸らせない。

虹村の顔が、近付いてくる。

「…っ」

キスされた。
そう思った瞬間には、唇は離れていた。

「に、虹村」
「意味、わかったか」
「…は、はい」
「…で」
「…」
「答えは」

答え。
そんなの、一つ。決まっている。

「…いつでも、どうぞ」

いつでも肩ぐらい、貸すよ。
これから先、いつでも。

「本当に借りるぞ」
「うん」
「めちゃくちゃ頼るぞ」
「うん」
「…あー…」

虹村はもう一度私の肩に寄りかかる。
穏やかな顔だ。

「…お前といると」
「…うん」
「…緩むんだよ、いろいろ」
「…光栄ですね」

少し、誇らしい。
いつもしっかりしてる、およそ中学生とは思えない虹村が、こう言ってくれることが。

「…ほんとに、いつでもどうぞ」
「…おう」

虹村は優しく笑う。
空が赤い。
胸が、張り裂けそうだ。









揺らぐことのない君へ
 
13.12.10