11月の後半あたりから、オレは屋上には行かなくなった。 理由は単純に寒いからだ。わざわざコートを着てまで屋上で本を読もうとは思わない。 昼飯を食い終わった後、教室、もしくは図書室にラノベを持ち込んで読んでいた。 11月最後の金曜日。 今日はやけに温かい。冬服では少し暑いぐらいだ。 地球温暖化だと騒ぐつもりは毛頭ないが、この温かさは少し異常だろう。 とはいえ、せっかくの晴天にこの気温だ。 学食で昼飯を食べながら、今日は屋上で読んでもいいかと思った。 この気温なら屋上で読んでも支障ないだろう。 そう思い、昼飯を食べ終えた後、少し心を弾ませながら屋上へ向かった。 「…っ」 屋上のドアを開ける。 飛び込んできた太陽光に思わず目を背けた。 さて、屋上には誰もいない。教室や図書館で読むのも特に嫌なわけではないが、やっぱり屋上が一番落ち着く。 いつもの場所に腰を下ろして、栞を挟んだページを開く。 「あれ、黛くん」 文章が目に入るより先に、聞きなれた声が聞こえてきた。 の声だ。 「黛くんも来たんだ。あったかいもんね、今日」 も片手に本を持っている。 考えることは同じというわけか。 「もうなかなか外じゃ読めないもんね」 その言い方から、も今まで屋上に来てなかったことが窺える。 確か2週目の金曜からオレは屋上に来なくなったが、がどうしているかは知らなかった。 「最近どこで読んでたの?」 「教室か図書室」 「そうなんだ。私は美術室で読んでるんだけど」 「美術部だったっけ?」 「ううん。自由に入れるから勝手に入ってるだけ」 そう言ってもいつもの場所に座った。 開いた本は至って普通の推理小説だ。 「…ちっ」 内心安堵している自分に気付いて思わず舌打ちをする。 は聞こえていないのか、聞こえていないふりをしているのか、何も言わずに本に視線を落とした。 * 二人して本を読みふけっていると、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。 「あー…もうお昼終わりかあ」 は残念そうな声でそう言った。 立ち上がって伸びをする。そうすると少しスカートが上がるのが目に毒だ。 「さすがに屋上で本読むのは今年はもうないかなあ」 「読みたきゃコート着て読めば」 「さすがにそこまではちょっと」 は頭を掻きながら笑った。 「春になったらまた屋上で読みたいな」 「屋上好きなの?」 いつもはさっさと先に行ってしまうところだが、が話しかけてくるものだからさすがに歩調を合わせる。 は笑顔のままオレの質問に答えた。 「うん。外だと開放感あっていいし、黛くんいるし」 「は」 の言葉に、口をあんぐりと開けて立ち止まってしまう。 何言ってんだ、こいつ。 「黛くん、ラノベ私より全然詳しいからさ。オススメ聞けるし」 ああ、そういう意味。 別に期待してたわけじゃないけど、そう言う意味。 「……」 わざと足音を立てて階段を駆け下りた。 別に期待してたわけじゃない。断じてない。 ただ少しイラッと来ただけだ。 ← top → 15.04.07 |