昼休みの屋上に行かなくなると、オレとの接点は驚くほどない。
クラスメイトではあるが席も離れてるし委員会も違う。
出席番号からして日直が一緒になることもない。

12月に入ってから、とオレは一言も話していない。
年が明けて、1月。



「なあ、黛」

昼休み、教室でラノベを読んでいたらクラスメイトの男子生徒が話しかけてきた。
本は閉じずに顔だけ上げた。

「何?」
「お前本詳しいよな?よく読んでるし」
「別に普通」
「でもオレより詳しいだろ?図書室の前にディスプレイあんじゃん?あれの本決めなきゃいけねえんだけどさ、どういうのがいいかわかんねーんだよ」

そういえばこいつは図書委員だったか。
ディスプレイ向きの本を詳しいやつに選んでほしいということか。

「そういうのだったらのが詳しいと思うけど」
?」

オレはラノベ専門だから図書室のディスプレイに飾るような本は詳しくない。
その点はラノベだけじゃなく普通の本も読んでいるし、何より読む速度が速いから多くの本を読んでいる。
当然知っている本も多いだろう。
明らかにその役割はオレよりが向いている。

「へえ、詳しいんだ。なー、ー」

そう言ってやつはの席へ向かった。
でかい声でしゃべるから嫌でも声が聞こえてくる。

本詳しいの?」
「まあ…それなりかな」
「図書室前のディスプレにお勧め本飾んだけど、どういうのがいい?」
「うーん…あれ!サッカーのやつ!」

今度はサッカーか。
前にもサッカーを題材にした小説を読んでいたが、今度はサッカー部の違うやつなのだろう。

は相変わらずだった。








3月、修了式が近付いてきた頃。
気温も高くなってきたのでまた屋上で本を読むことにした。

昼飯を終え、読みかけの本を開いた。
そのとき、後ろからドアの開く音がした。

「あ、やっぱいた」

ドアの方を向けばが本を持って立っていた。
温かくなってきたからも屋上で本を読むことにしたのだろう。

「なんか久々だね、こういうの」
「寒かったからな」

そう言っては定位置に座る。
持っているのはこの間出たばかりのファンタジーラノベだ。

「これ、黛くんは読んだ?」
「ああ」
「へー、面白かった?」
「それなり」
「そっか。期待しよう」

は一ページ目を開いた。どうやらまだ一文字も読んでいなかったらしい。
温かくなってきたからまたこういうことが日常になるのだろう。

柄にもなく、心を弾ませている自分が悔しい。







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15.05.11