次の日、昼休み、購買で買った昼飯とラノベを持って屋上のドアを開ければ、そこにはがいた。
今日は木曜日、がいつもいる日ではない上に、オレより早く来ているとは。

「…珍しい」
「…あ、黛くん」

はオレの声が聞こえたことでようやくオレの存在に気付いたようだ。
慣れたことだが、今は喉の奥が詰まったような気分になる。

は横に弁当、膝の上に一冊の本を置いている。
本をよくよく見れば剣道の指南書だ。

「…剣道でも始めんの?」

今までは惚れたやつに関連した本を読んでいたが、今回は指南書とは。
の本気度が現れているようだ。

「いや、始めないけど…やっぱり知りたいなって」
「…ふうん」
「やっぱりその、…好きな、人が一生懸命やってるものがどういうのか、知りたいって言うか」

は照れたように笑って頭を掻く。
が噛みながら言った「好きな人」発言が、重くオレの心に圧し掛かる。
昨日は言わなかった言葉だ。もうこれで「もしかしたら違うかもしれない」という幻想は打ち砕かれたわけだ。

「ずいぶん殊勝なことで」
「そうかなあ。普通だよ、きっと」

そうですか、全く興味のないオレが部活を辞めただの結局在籍してるだのは興味なくて当然ってわけか。
言えるはずもない悪態を心の中でついた。







人間観察をしろ、というのは赤司からのお達しだ。
ミスディレクションに必要だからとかなんとか。
人から一歩引いて、そいつの癖を探る。
最初こそ面倒だと思ったが、割と自分の性分に合っていたようで、今はそれなりに楽しんでやっている。

そのせいか、それとも自分の感情のせいか。
いつも視界に入るとを目で追ってしまう。


今日は部活がない。
今日は部屋でゆっくりとラノベでも読もう。その後に受験勉強か。
そう思いながら昇降口を出る。
昇降口から校門までの間には武道場がある。
武道場の2階のギャラリーに見えた女子生徒は、紛れもなくだ。

「……」

今日武道場で部活をやっているのは剣道部だ。
クソ。どうしてこういう見たくもない光景を見てしまうのか。

悔しいことにオレの視線の先にはいつもがいる。
認めたくないがこれが事実だった。どんなに自分で否定しようと、己に嘘は吐けなかった。

そしてそのの視線の先にはいつも剣道部の野郎がいる。
これもまた、抗いがたい事実だった。
見ないふりをできたなら、どんなに楽だっただろうか。










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15.07.21