私がやります、と言い出したものの、洗濯なんてやり慣れていない。 しかも強豪バスケ部となれば部員数も相当。 干し終わるまで結構な時間が掛かってしまった。 まあ、夏だし乾くよね…。 「あのー…」 バスケ部の活動している体育館へ行くと、バスケ部はみんな練習中。 みんな汗だくだ。 この暑い中、これだけ激しい運動をしてるんだから当たり前だけど。 誰も体育館に部外者である私が入ってきたことに気付かない。 集中してるんだろう。 なんだか、すごいな。 そんなことを考えていると、監督らしき人が笛を吹く。 どうやら休憩の合図のようだ。 「あ」 集中が切れたからか、副主将が私に気付いたようで、こちらにやってきた。 「さっきの…えーと…そういや名前聞いてなかったな」 「2年のです。洗濯終わったので報告に」 「マジ?ほんっとありがとな!めちゃくちゃ助かった!」 副主将は顔の前で手を合わせてお礼を言う。 そこまでされるとちょっとむず痒い。 「おお、洗濯終わったんか」 「あ、はい」 そんな会話をしていると主将もやってくる。 「いやあ、本当にありがとう!」 肩をバンバン叩かれながらお礼を言われた。 ちょっと痛いくらいだ。 「あの、それじゃ私はこれで…」 「あ、ちょっと待ってくんね?」 そそくさと帰ろうとしたけど引き留められてしまった。 「なあ、って部活入ってる?」 「いや、何も入ってないです」 「今日学校来たのは?」 「夏期講習で」 「なるほど…」 暇人なわけか…と呟いたのが聞こえたけど、聞こえないふりをする。 …悔しいけど事実だし。 「あの、何か?」 「…っとな…」 副主将は妙に言いにくそうに口ごもる。 「どうしたんですか?」と聞こうとしたら後ろから氷室くんが突然現れる。 そしてきっぱり言い放った。 「『バスケ部のマネージャーやってくれないか』って言いたいんだよ」 「ですよね?」と彼は副主将に確認する。 「まあ、な」 「え?………え?」 あんまりにも意外な発言に、思わず二度聞き返してしまう。 ………え? 「まあ、そういう反応だよな…」 そりゃそうだ。 何でいきなりマネージャーやってくれなんて話に…。 「いやなあ、うちマジで困ってんだよ。今までずっとマネージャーいたのに急にいなくなっちまってさ。 1年で仕事回すのも限界あるしさ。もう夏だから、1年もなるべく練習させてえし」 「いや、だからってなんで私が…」 「前からマネージャー募集してたんだよ。でも全然来ねえの。で、半分諦めてたら今日氷室がな…」 副主将がそう言うと、氷室くんは続けて言う。 「わざわざ無関係のバスケ部の洗濯しますっていうくらい気遣いできるんだし、適任じゃないかなあ、と」 「いや、洗濯に名乗り出たのは罪悪感と感謝の念からでして、そんな気遣いとか買いかぶられるとなんか申し訳ないんですが…」 「でも、ちゃんとやってくれただろ?」 「ま、まあ…」 「それに、主将ともちゃんと話せるし」 「それすっごく普通のことじゃ…」 「いや、あんまりいないよ。2メートルある男に全く脅えず話せる女の子って」 「ああ、そういうこと…」 確かに、あまり相手が大きいとか年上だからとかで構えたりはしないけど。 「肝が据わってるよね」なんて言われることもしばしば。 だからと言って、申し出を受け入れられるかはまた別の話。 「でも、さすがに…」 「直感だけど、さんがいいと思ったんだよね」 氷室くんは少し首をかしげてそう言った。 最初に見たときから思ってたけど、ずいぶん綺麗な顔立ちだ。 そんな顔でそんなこと言われると断りにくい。…うん、すごく。 私は確かに肝が据わってる方だ。据わってる方なんだけど。 なぜかNOと言えない日本人の典型みたいな性格でもあり、「無理です」ときっぱり言えない。 「別にさ、ずっとやってくれってんじゃないんだよ」 私が口ごもってるのを見てか、副主将が氷室くんの後を続ける。 「せめて夏休みの間だけでもさ。新学期になればまた募集かけられるし」 「な!」と副主将に頼み込まれる。 そして氷室くんの「ダメかな?」がトドメだった。 私は夏休みだけ、という条件付きでマネージャーをすることになってしまったのだった。 ← top → 12.07.29 |