怒濤の一日から一夜明け、初仕事日。
バスケ部は強豪らしく朝早くから夜まで練習しているようだ。
だけど気を使ってくれたのか、最初から最後までいなくてもいいと言ってくれた。
ちょっと心苦しい気もするけど、やっぱり有り難い申し出だったので素直に受けることにした。

練習開始から約一時間後、私は体育館に着いた。

「おはようございまーす」

ちょうど休憩中だったようで、入り口付近で休憩してた人たちが一斉にこちらを向いた。

「おお、!来てくれたか!」

主将が私の肩を叩きながら嬉しそうに言った。

「まあ、まだわからんことも多いだろうから、とりあえず今日はあいつらと一緒にやってくれ」

指さした先には(おそらく)一年の子が3人。
多分マネージャー業の代わりをしている子たちだろう。
早速その子たちのところへ行って、何をすればいいか聞く。

「あ…とりあえずポカリ作ってもらえますか?」
「ああ、この粉から作るやつ?」
「そうです。ちょっと薄目でお願いします」
「薄目?」
「はい、そのほうがいいので。すぐなくなっちゃうんでこまめに補給してください」

熱気溢れる体育館。
こんなところで激しいスポーツをしてればそりゃすぐなくなっちゃうだろう。

「あと、洗濯もお願いします。洗濯機は…」
「あ、それなら大丈夫」

昨日の今日、さすがに覚えてる。
さて、初仕事。
一発気合いを入れる。





「ふう…」

ため息をついて、ぐるぐる回る洗濯機の前にしゃがむ。
ポカリはさっき補充したばかりだし、洗濯は後数分でおわるはず。
その間にさっき主将から渡された部員名簿を見る。
「顔写真なしだから顔と名前一致させたりはできんけど、ないよりはマシじゃろ」と言われて渡された。
部員名簿にはそれぞれ学年とクラス、名前、身長、体重が乗っていた。
まあ、今名前がわかるのは主将の岡村先輩と副主将の福井先輩、あと氷室くんくらいのものだけど。

「…あれ?」

その氷室くんの名簿を見て不思議なことが一つ。

「どうしたの?」

突如上から降ってきた声の主は、今まさに考えていた氷室くんだ。
ちょうどいい。

「あ、それ名簿?」
「うん、この名簿だと氷室くん私と同じクラスなんだけど、すっごく申し訳ないことにあなたに見覚えないんだよね」
「ああ、それね」

氷室は私の隣に座って部員名簿を見た。

「オレ、9月から転入するんだよ」
「え?そうなの?あれ、じゃあ今は」
「うん。部活は先に夏休みからやらせてもらってるんだよ」

たまに聞く、新入生が春休みから練習参加したりするようなものかな?

「じゃあ、9月からはクラスメイト?」
「そうだね、よろしく」
「そうなんだ、よろしくね」

そんな会話をしていると、洗濯機から洗濯終了の電子音が聞こえてくる。

「洗濯、終わったみたい」
「それじゃオレもそろそろ戻らないと」
「あ、そういえば何しに来たの?」
「タオル、洗濯してもらおうかと思ったんだけど、もう終わったんだろ?」
「あ、そうなの。ごめんね」
「大丈夫、替えのもたくさん持ってるし」

氷室の言葉通り、彼の持っているタオルはぐっしょり濡れている。
そういえば、バスケ部の面々はみんな複数タオルを持っているようだ。

…なんか……。

「どうしたの?」
「あ、っと…いや、なんでもない。練習頑張ってね」
「うん、もよろしくね」

洗濯機から洗濯物を出してカゴの中へ。
今日、最後までいなくていいと言われてはいるけど、なんだか…。

うん、今日は最後までいよう。
役に立ってるかはわからないけど、一生懸命頑張ろう。





top 
12.08.03