怒濤の一日から一夜明け、初仕事日。 バスケ部は強豪らしく朝早くから夜まで練習しているようだ。 だけど気を使ってくれたのか、最初から最後までいなくてもいいと言ってくれた。 ちょっと心苦しい気もするけど、やっぱり有り難い申し出だったので素直に受けることにした。 練習開始から約一時間後、私は体育館に着いた。 「おはようございまーす」 ちょうど休憩中だったようで、入り口付近で休憩してた人たちが一斉にこちらを向いた。 「おお、!来てくれたか!」 主将が私の肩を叩きながら嬉しそうに言った。 「まあ、まだわからんことも多いだろうから、とりあえず今日はあいつらと一緒にやってくれ」 指さした先には(おそらく)一年の子が3人。 多分マネージャー業の代わりをしている子たちだろう。 早速その子たちのところへ行って、何をすればいいか聞く。 「あ…とりあえずポカリ作ってもらえますか?」 「ああ、この粉から作るやつ?」 「そうです。ちょっと薄目でお願いします」 「薄目?」 「はい、そのほうがいいので。すぐなくなっちゃうんでこまめに補給してください」 熱気溢れる体育館。 こんなところで激しいスポーツをしてればそりゃすぐなくなっちゃうだろう。 「あと、洗濯もお願いします。洗濯機は…」 「あ、それなら大丈夫」 昨日の今日、さすがに覚えてる。 さて、初仕事。 一発気合いを入れる。 * 「ふう…」 ため息をついて、ぐるぐる回る洗濯機の前にしゃがむ。 ポカリはさっき補充したばかりだし、洗濯は後数分でおわるはず。 その間にさっき主将から渡された部員名簿を見る。 「顔写真なしだから顔と名前一致させたりはできんけど、ないよりはマシじゃろ」と言われて渡された。 部員名簿にはそれぞれ学年とクラス、名前、身長、体重が乗っていた。 まあ、今名前がわかるのは主将の岡村先輩と副主将の福井先輩、あと氷室くんくらいのものだけど。 「…あれ?」 その氷室くんの名簿を見て不思議なことが一つ。 「どうしたの?」 突如上から降ってきた声の主は、今まさに考えていた氷室くんだ。 ちょうどいい。 「あ、それ名簿?」 「うん、この名簿だと氷室くん私と同じクラスなんだけど、すっごく申し訳ないことにあなたに見覚えないんだよね」 「ああ、それね」 氷室は私の隣に座って部員名簿を見た。 「オレ、9月から転入するんだよ」 「え?そうなの?あれ、じゃあ今は」 「うん。部活は先に夏休みからやらせてもらってるんだよ」 たまに聞く、新入生が春休みから練習参加したりするようなものかな? 「じゃあ、9月からはクラスメイト?」 「そうだね、よろしく」 「そうなんだ、よろしくね」 そんな会話をしていると、洗濯機から洗濯終了の電子音が聞こえてくる。 「洗濯、終わったみたい」 「それじゃオレもそろそろ戻らないと」 「あ、そういえば何しに来たの?」 「タオル、洗濯してもらおうかと思ったんだけど、もう終わったんだろ?」 「あ、そうなの。ごめんね」 「大丈夫、替えのもたくさん持ってるし」 氷室の言葉通り、彼の持っているタオルはぐっしょり濡れている。 そういえば、バスケ部の面々はみんな複数タオルを持っているようだ。 …なんか……。 「どうしたの?」 「あ、っと…いや、なんでもない。練習頑張ってね」 「うん、もよろしくね」 洗濯機から洗濯物を出してカゴの中へ。 今日、最後までいなくていいと言われてはいるけど、なんだか…。 うん、今日は最後までいよう。 役に立ってるかはわからないけど、一生懸命頑張ろう。 ← top → 12.08.03 |