「実はさ、28日からインターハイなんだよな」
「え」

マネージャー開始から2日目、昨日よりも慣れて来たな、と思っていたら福井先輩からまさかの発言。

「え、そんなすぐなんですか」
「ああ、…来る?」

福井先輩は小さな声でそう聞いた。
夏休みの間だけ・一日中じゃなくてもいい、ということを話したときに、インターハイも泊りになるし無理して参加しなくていいと言う話をした。
だけど、練習は一日中いますと言ったし、一応聞いてくれたんだろう。

「行ってもいいんですか?」
「来てくれるんか?」
「でも、いきなりで大丈夫なんですか?」

インターハイということは当然泊りになるだろう。
私はいきなりマネージャーを頼まれても毎日来られるように暇人だから大丈夫だけど、部側はこんないきなりで大丈夫なんだろうか。
そう思い聞いてみると「なんとかすっから気にすんな」と言われた。

ということで、マネージャー開始からたった一週間でインターハイの大舞台へ赴くこととなった。





「じゃあ、これはファウルになるの?」
「その場合は…」

部活後、昨日と同じく、氷室にルールを教えてもらう。
でも場所はファミレスではなく、部室。
バイトもしていない学生だから、そんなに毎日どこかのお店に行けるはずもない。
それにここならテレビとDVDプレイヤーがあるから、映像を見ながら教えてもらえるので非常にわかりやすい。

「今日はこの辺にしておく?」
「そうだね、もう時間も遅いし」

教本を閉じてテレビとDVDの電源を落とした。
はあ、とため息を一つ吐く。

「疲れた?」
「あ、いや」

部室には二人だけ、もうテレビから音もしないとなれば小さなため息の音だって聞こえてしまうだろう。

「まあ、疲れたは疲れたけど…」
「何かあった?」
「いや、インターハイもうすぐって聞いてさ」
「ああ、も来てくれるんだよね?」
「うん、それはいいんだけどね」

なんというか、プレッシャーというか…。
私がプレイするわけでもなんでもないのに妙に緊張してきた。

「選手のほうが緊張するのはわかってるんだけどね…」
「緊張してるの?」
「うん、なぜか私までね。氷室は緊張しないの?」
「オレ、試合出ないから」
「え?」

氷室は一軍で練習してるし、素人目から見てもかなりうまいのに、なんで試合に出ないんだろう。

「転入後半年は試合出られないんだよ。高体連の規則があるから」
「へえ、そんなルールあるんだ」

そんなルールがあるとは全く知らなかった。

「じゃあ残念だね。せっかく大きい大会なのに」
「まあ、でもこれからもたくさんあるから。も緊張しなくて大丈夫だよ。来てくれるだけでありがたいし」
「先輩達もそう言ってくれたけどさ、やっぱり緊張しちゃうんだよね」

何か失敗したらどうしようとか、とにかく不安でいっぱいだ。

「…ということで、インターハイまでできるだけ知識をたたき込みたいのでよろしくお願いします」

そう言って顔の前で手を合わせると、氷室は少し笑った。

「いいよ、そんな。ちょっと役得だし」
「役得?」
「練習終わった後もといられるんだから役得だろ?」
「はっ…!?」

思いもしなかった言葉に思わず顔を赤くする。
一方の氷室は特に顔色を変えない。
…ああ、そうだ。そういえばアメリカからの帰国子女だっけ。

「あのさ、日本であんまりそういうこと言わない方がいいよ」
「?」
「勘違いしちゃうでしょ」

まだ少し高鳴る胸を抑えながら、ささっと帰り支度を進める。

「もう、帰ろ。遅いし」
「そうだね」

ふう、と少し深呼吸して部室を出る。

「勘違いじゃないんだけどな」

私より遅れて部室を出た氷室が、何かを言ったようだったけど、よく聞き取れなかった。

「何か言った?」
「いや?」









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12.08.17