部活が終わり、自主練も終了。
副主将と言えど油断してると足をすくわれる。
きっちり練習しねーとな。
ま、でも今日はそろそろ帰るか、と思って部室のドアを開ける。
そこには夏休みに入ってからマネージャーを頼んでいると、こちらもまた夏休みから練習に参加している氷室がいた。

「福井先輩」
「お前ら何やってんだ?」

そう聞くと、はバスケの教本を見せてみた。

「ルールとか教えてもらってたんです。私ほとんど知らないので」
「はー、お前すげえ真面目だな」

の持っていた教本を見せてもらうと、そこには蛍光ペンやら赤ペンやらで印や下線が書き込まれている。
正直、マネージャーに誘ったときはここまでやってくれるとは思わなかった。

「いやあ、にマネージャー頼んでよかったわ」
「いや、そんな」

オレは素直に感心する。
をマネージャーにどうか、と言い出したのは氷室だったけど、こいつ見る目あるっつーかなんつーか。

「あ、すみません。先輩着替えますよね。居座っちゃって」
「ああ、悪いな」

は鞄に本と筆記用具を詰めると氷室に「ちょっとトイレ行ってくるから待ってて」と行って部室を出ていった。
「待ってて」って…。

「え、お前ら一緒に帰ってんの?」
「ええ、まあ」

氷室はプレイヤーからDVDを取り出しながらこともなげに答える。

「…仲いいんだな」
「駅も一緒ですし、クラスも一緒になりますし」

岡村じゃないけど、「このイケメンめ…」と内心毒づく。

「…何、付き合ってんの?」
「いや、違いますけど」
「へえー…」

まだ知り合って4日だし、そりゃそうだろうけど…。
でも、毎日一緒に勉強して、一緒に帰って…か。

「なあ、実際どうなん?」
「何がですか?」
「そういうつもりねーの?付き合ったりとか」

軽い気持ちでからかうように聞いてみる。

「実際どう思ってんだ?のこと」
「いい子だと思いますよ」

氷室は特に照れた様子もなくサラッと言う。

「仕事も一生懸命やってくれるし、ルールも覚えようとしてくれるし」
「まあなあ」
「可愛いですし」
「まあ……って」

すっげー普通に言うから流しそうになっちまったけど、こいつ…。

「可愛いって、お前」
「可愛いじゃないですか、別に顔だけってわけじゃなく、さっき言ったみたいに性格とか含めて」
「まあそうだけど、すげえあっさり言うなお前…」
「そうですか?」
「すいません、いいですか?」

部室のドアをたたく音。
あ、やべ、だ。

「いいぞ」
「はい…って、先輩まだ着替えてないんですか」
「ああ。ちょっといろいろ話してたらな」
「なんの話してたんですか?」

まさか「の話」と言うわけにもいかず、適当に「今日の練習について」とか言おうとしたけど…

の話だよ」
「え」
「お、おい…お前」

氷室は間髪入れず正直に言う。しかも笑顔で。
お前…マジで…。

「何話してたの?」
「頑張ってくれてありがたいなあって話」
「お、おう、そういうこと」

あ、なんだそっちな。
さすがに氷室もそんなこと言わねえか。

「あと、可愛いなって話」
「な…っ」
「お、おい、氷室」

って思ったら、こいつ…。
は顔を赤くして肩を強張らせてる。
オレは慌てて氷室を部室の奥に引っ張り込んだ。

「おま、何素直に話してんだよ」
「本当のことですよ」
「そういうことじゃねーよ!普通言わねーだろ、何考えてんだお前!」
「別に悪口言ってたわけじゃないですし」
「あの、二人とも」
「おわっ」

いつの間にかはオレたちの後ろに立っている。

「…今度は何を話してるんですか」
「いや、今はマジでそんなやましい話ではなく」
「…ふうん」

訝しげに見つめてくる
いや、本当のことなんで…。

「はあ…もういいや。帰れる?」
「うん。先輩、お疲れ様でした」
「お、おう」

そう言って二人は部室から出ていく。
マジで一緒に帰ってんだな…。

氷室の「可愛い」発言は本音なんだろうけど、本気なんかな…。
やけにあっさりしてるっつーか、なんつーか。
初っ端会った時から思ってたけど、読めねーやつだよな…。

「はあ…」

…なんでオレがこんなに疲れてんだ?





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12.08.23