「はあ…」

なんという怒涛の一週間。
インターハイへ向かうためあれやこれや準備している間にあっという間に当日に。
中学時代は運動部に所属していたものの、全国大会なんて夢のまた夢のような部だったため、
マネージャーとはいえ生まれて初めて「全国の舞台」に立っている。
開会式はあっという間に終わり、とうとう明日から試合開始。
私も初めてマネージャーとしてベンチに座るわけだ。

そこで出てくる、一番の不安事。


「氷室、スコアの書き方、これで合ってるよね?」

そう、ベンチに座ってスコアシートを書かなくてはいけないんだけど、公式戦で書くのは初めて。
一応練習中のゲームで書いたことはあるけれど、正直不安でいっぱいだ。

「大丈夫、合ってるよ」

ホテルのロビーのソファに座って、氷室に確認してもらう。
練習後にルールを教えてもらってるし、氷室は試合には出られないから準備する必要もないし、彼が一番聞きやすい。

「そんなに心配しなくてもいいのに。、覚えるの早いし」
「それでも不安なのは不安なんだよ」

うーん、とソファに背もたれに寄りかかる。

「あれ〜?室ちんとちんだ」

天を仰いでいると紫原がやってきた。

ちんって…まあいいや」
「何やってんの?」
「スコアの書き方の確認だよ」
「へえ〜。そんなの適当でいいのに」

紫原はお菓子を食べながら私たちの前のソファに座った。
ちんって呼び方はちょっと…って何度も言ってるけど、一週間経っても変わらないのでもう諦めた。
しかし、インターハイだというのに余裕綽々だ。
中学時代に全国に何度も行ってるからなのか元々の気質なのか。

「ていうか仲良いね、二人。よく一緒にいない?帰るのも一緒だし」
「地元駅一緒だし、ルールも氷室に教えてもらってるから」
「へえ〜。付き合ってるの?」
「はあっ!?」

思ってもみなかった言葉に思わず大声を上げて立ち上がる。

「あ、慌ててる。あやし〜」
「いやいや、そりゃいきなりそんなこと言われたら慌てるわよ。そういうんじゃないから」
「そうなの〜?」

そりゃバスケ部の中では仲がいい方だ。
バスケ部の中では一番最初に会ったし、9月からは同じクラス、地元駅も一緒となれば一番話しやすい。
でもあくまで仲がいいだけ。それだけ。
というかまだ会って一週間だ。
違う違う、と否定すると、紫原はつまらなさそうに「そうなんだ〜」と言って去って行った。
…で、さっきから何も言わない隣の氷室が怖いんですけど。

「…氷室、なんで無言なの?」
「ああ、がこんなに慌ててるの初めて見るなあと思って」
「いや、寧ろなんで氷室はそんな冷静なの?」

普通、付き合ってるだのなんだのって話が出たら慌てると思うんだけど。

「なんでだろうね」
「…もともとそういうタイプなのね…」

はあ、とため息を付いてソファに座りなおす。
慌ててる私がバカみたいだ。

「…それで、スコアの話に戻すんだけど」
「うん」

まだ少し心配な点を聞く。
不安な点は今日のうちに解消してしまいたい。
まだちょっとドキドキするけど、気にしないようにする。

「…はあ、こんなところかな」
「そう?」

とりあえず聞きたいところは全部聞き終えた。
「ありがとう」とお礼を言うと、氷室は「どうも」と言ってスコアシートをしまった。
…うん、大丈夫。ドキドキは収まってきた。

、なんかまだ慌ててる?」
「え、そりゃ、まあ…」
「へえ」

氷室はちょっと楽しそうに笑ってる。

「氷室、笑ってない?」
「そう?」
「なんか楽しそうなんだけど…」
「まあ、楽しいからね」

何が?と聞こうとしたところ、氷室が顔を覗き込んで、


「ん?」
「可愛いね」
「はあっ!?」

本日二度目の大声。
それもそうだ。何をいきなり。

「え、…ええっ!?」
「オレ、ちょっとツボったかも」
「な、何が?」
の慌てた顔」

氷室は楽しそうに笑う。
た、楽しいってこのことか…!

「…氷室って意外と…」
「何?」
「…もっと穏やかで優しい人と思ってたんだけど」
「そうでもないよ」
「だよね…」

氷室は明らかに私をからかっている。
この間からちょっと感じてたけど、今確信した。
氷室って、意地悪というか、なんというか…。

「でも、本気で可愛いと思ってるよ」

その言葉に赤くなると、氷室はまた微笑むように笑う。
本気なのかからかってるのか、わからないのがまた困る。






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12.08.30