会場に響く試合終了の合図。 陽泉高校のインターハイはベスト4という結果で終わった。 悔しがる人もいれば、すでに次の目標のウィンターカップに照準を合わせる人もいる。 一方私は、そんな選手たちに掛ける言葉が見つからず、呆然と立ち尽くしていた。 会場からホテルに戻り、私はいつもの通りホテルのロビーで携帯を弄っていた。 「メールか?」 「あ、岡村先輩」 今日は岡村先輩がやってきた。 本当にここにいるといろんな人がやってくる。 岡村先輩は私の向かい側のソファに座った。 「家族と友達に、今日の結果のメールを」 「そうか、勝利報告できればよかったんだがなあ」 岡村先輩は少し顔を曇らせたけど、すぐ笑ってこう言った。 「まあウィンターカップで借りは返すからな!」 「そうですよね!」 力強く言う先輩に同意する。 本当に頑張ってほしい。素直にそう思う。 「ウィンターカップは東京じゃけど、も応援に来てくれたら嬉しいの」 「え…あ、そっか。そうですよね」 そうか、マネージャーは夏休み期間中だけ。 そういう話だったから、冬に行われるウィンターカップの頃にはもうマネージャーじゃないのか…。 2週間も経っていないけど、その日々がやらた濃かったためすっかり忘れていた。 「応援、行きたいですね」 「そうか、それは嬉しいの」 そうだ、夏休みが終わるまでだから、あと1か月。 1か月、か。少し寂しいな…。 「あ、主将」 「おお、氷室」 そんな話をしていると、氷室がやってくる。 「そうじゃな、冬には氷室も公式戦出られるだろうし、目指すは優勝だな」 「?…ああ、ウィンターカップの話ですか?」 「頼むぞ」 「そりゃ、もちろん」 氷室は私の隣に座る。 「ウィンターカップ、楽しみですね」 「ああ、も応援に来てくれるっていうし、ますます頑張らんとな」 「…ああ、そうか」 氷室は私に視線を向ける。 その目が、少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。 「応援は来てくれるんだ」 「うん、そりゃ、ね」 「そっか」 少し暗い雰囲気が流れる。 「ああ、もうこんな時間か。そろそろ戻らないとな」 岡村先輩の言葉で時計を見ると、いつの間にやら遅い時間。 私がソファから立ち上がると、二人も席を立つ。 「今日も送って行くよ」 「あ、うん。ありがとう」 「おまえら、本当仲良いなあ」 岡村先輩は笑ってそう言う。 「ワシも彼女欲しいのう…」 「あの、違いますから。付き合ってませんから!」 「え?そうなの?」 先輩は目を見開く。 …もしかして、これみんなに思われてるの? 「氷室も何か言ってよ」 「何を?」 「何って…勘違いなんだから、否定してよ!」 「ああ」 氷室は「そういうこと」と言って私を見る。 「だって、否定するのももったいないしね」 「なっ…」 氷室は穏やかに笑いながら、そう言った。 岡村先輩は口を開けたままこちらを見てる。 も、もったいないって…! 「違う!違いますから!」 これ以上ここにいたら何を言われるかわからない。 必死に否定しながら、氷室の背中を押して急いで部屋へ続くエレベータへ向かった。 「…はあ〜…」 「、疲れてる?」 そりゃあもう。と答えたいのをぐっと堪えた。 氷室は、私をからかうときに見せるいたずらっぽい笑みを浮かべてる。 またこれか…。 私も慌てずスルーできればいいんだろうけど、そんなこともできない。 「いや、大丈夫、大丈夫だから」 「そう?」 ならいいけど、と氷室は言う。 誰が疲れさせてるの…! 「残念だったね、今日」 「え、」 突然替えられた話題に一瞬付いて行けない。 え、っと。そうだ。残念ってことは、今日の試合。 「たくさん応援してだろ、も悔しいんじゃない?」 「それ言ったら氷室だって」 「オレは大丈夫だよ」 「そう?」 「悔しいことは悔しいけど、それよりウィンターカップでリベンジしたいって感じかな」 「あ、そっか」 みんなすごいなあ。 氷室も岡村先輩も、他の部員も悔しがってはいてもすでに次の目標に向かってる。 でも、次の目標のウィンターカップに私はいない。 「応援行くよ、きっと」 「うん、楽しみにしてるよ」 そう言いつつ、さっきと同じような、寂しそうな顔をする氷室。 「じゃあ、おやすみ」 「うん、おやすみなさい」 そのまま氷室に別れを告げる。 最初から夏休みまでという約束だったし、私もそれだったら、ということで了承したはず。 だけど、毎日みんなが一生懸命練習しているのを見て、試合に勝って喜んでいたりしているのを見て、今日みたいに負けて悔しがっているのを見て、それで、何も感じないはずがなくて。 あと一ヶ月経たないうちに、私はバスケ部から離れて、みんなが練習しているのを手伝ったり、試合に勝って一緒に喜んだりできなくなるのか。 たった2週間、されど2週間。 随分と濃い2週間を過ごしてしまったものだなあ、と思いながら眠る準備をした。 ← top → 12.09.20 |