インターハイが終わり陽泉高校に帰ってきて、インターハイ前と同じように練習漬けの毎日。
私も同じようにポカリを作ったり洗濯したり、テーピングの補充とか、今までと変わらないマネージャー業。

そんなことをしていれば、一日はあっという間に過ぎてしまう。


「お疲れー」
「お疲れ様でしたー」

部員のほとんどが帰ったところで、部室でまた氷室にルールや戦術を教えてもらう。

「今のところがね」
「あ、うん」

体育館では何人かが自主練をしている。
自主練しているのは大抵一軍レギュラーたち。
じゃあ、氷室は


「え、あ、はい」
「なんかボーっとしてない?」
「してない、してません」

慌てて否定すると、氷室は持っていたシャーペンで私のおでこを小突いた。

「してたよね」
「…はい、すみません…」
「いいよ、それは。疲れてるんだろう?この間までインターハイだったし」
「いや、大丈夫」
「いいって、今日はもう帰ろう?続きはまた明日にしよう」
「あ、そのことなんだけどね」

今言わなくちゃ、と慌てて切り出す。

「あのね、明日からはもういいよ」
「え?」
「だって、みんな全体練習の後、自主練してるでしょ?氷室もしたいんじゃない?」

氷室は少しだけ言葉に詰まった。やっぱりそうなんだろう。

「だから大丈夫だよ。もう大分わかってきたし。邪魔しちゃ悪いから」
「別にいいよ、気にしなくて」
「氷室がそう言っても、私は気にするの」

少し言い難いかったけど、きっぱり言う。
別に氷室に教えてもらいたくないわけじゃない。むしろ感謝している。
だからこそ、彼の邪魔をあまりしたくないのだ。

「でも」
「だけど、わからないことでてきたら、また教えてくれる?」

多分これからもわからないことは出てくるだろう。
そんなときは、やっぱり教えてほしいな、と我儘だと思いつつも聞いたんだけど、氷室は手で口を押えて下を向いて しまった。

「あ、あの、ごめんね我儘言って。ダメだったらいいから」
「ダメなわけないよ。ただ、随分卑怯な手を使うなあと思って」
「卑怯?」

卑怯っていったい何が…

「そんな可愛い顔で、可愛い我儘言われたら断れるわけないだろ?」
「なっ…」

氷室の言葉に赤くなると、氷室は少し笑う。
あ、またか…!

「……だからからかうのは勘弁してください…」
「本気だよ」
「…もう」

赤くなる私を尻目に氷室は楽しそうに笑う。
本気だったらそれはそれで…あれなんだけど。

「じゃあ帰ろうか」
「え、っと、まだ大丈夫だよ。さっきボーっとしてたのも、今言ったの考えてたからとだし」
「そう?」
「うん、だからもうちょっと教えてもらっていい?」
「もちろん」

一応これで最後だし、聞きたいことは全部聞いておきたい。
氷室は嫌な顔一つせずに教えてくれる。
優しい人だな、と思う。
だから、やっぱり邪魔はしたくないのだ。
この時間がなくなっちゃうのは、寂しいけれど。

「…ん?」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでも」

寂しいって、何が。
別に練習後のこの時間がなくなっても、部活やるんだし、会えなくなるわけじゃあるまいし。

寂しいって、何が。

自分で自分に突っ込みを入れつつ、目の前に教本に集中する。








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12.09.27