強豪バスケ部と言えど、さすがにお盆はお休みとなる。 地方から来ている生徒もいるし、当たり前と言えば当たり前。 その盆休みの間に近所で花火大会がある。 そんな大がかりなものじゃないけど、毎年友達と行っている。 せっかくの休み。これに行かない手はない。 「ー、なんか久しぶり?」 「ねー、久しぶりだねー」 友人2人と駅で待ち合わせ。 久しぶりなのも当然。本当は講習で毎日会うはずだったのが私がバスケ部のマネージャーを引き受けてしまったものだから、ほとんど会えなくなってしまったのだ。 メールや電話はしてるけど、ちゃんと会うのは久しぶりだ。 「、浴衣着たんだねー」 「せっかく久しぶりに遊び行くんだし!気合入れたよ!」 「そっか〜マネージャー大変?」 「まあ大変は大変だけど、楽しいこともあるよ」 なんでもない会話をしながら目的地である土手へ向かう。 ああ、やっぱり楽しいなあ。 バスケ部の人たちといるのもそれはそれで楽しいけれど、やっぱり女の子同士の話っていうのは楽しいものだ。 「それでねー、そのときに…」 「あっ!」 友人の一人が昨日見たテレビの話を手振りを付けながら話していたとき。 その手振りが後ろの人に手が当たりそうなのに気付いて、思わず声を出したけど間に合わなかった。 「わっ、ごめんなさい!」 「いや、大丈夫ですよ」 「あ」 「あれ」 え まさか… 「氷室…」 「え、、知り合い?」 まさかこんなところで会うなんて。 まあ、駅は一緒なんだし会ったっておかしくないとは思うけど。 「あ、うん、バスケ部の人で」 「へえ…」 友人は私にこっそり耳打ちで「ちょっとかっこいいじゃない」と言う。 確かに、整った顔立ちをしていると思ったけど、やっぱり他の人からもそう見えるのか。 私は友人たちに簡単に氷室の紹介をした。 「で、こっちは私の友達。クラスメイト」 「よろしくね」 「よろしく〜」 9月から彼女たちともクラスメイトになるわけだし、紹介しておいて損はないだろう。 仲良くなれるだろうか、なんて心配をちょっとしてみたり。 「これからどこか行くの?」 「うん、あそこの土手で花火大会やるの。屋台も出るし」 「へえ、だから浴衣なんだ」 じっと浴衣姿を見てくる氷室。 う、うん。男子に見られると思っていなかったからちょっと照れる。 なんとなく目線を逸らして友人に向けると、彼女は何か思いついたような顔をする。 「ねえ、氷室くん。よかったら一緒に行かない?」 「え?」 思ってもみなかった発言に私も氷室も目を丸くする。 「だって9月からクラスメイトになるんだしさ!せっかくだし」 楽しそうに友人は言う。 ノリのいい子だとは思ってたけど、ここまでとは… 「いいよ、ちょっと興味あるし」 「じゃあ、決定ね!」 というわけで、合計4人で土手までの道を歩き出す。 狭い道、4人並んで歩くわけにもいかず、前に友人2人、その後ろに私と氷室が並んだ。 カランコロンと下駄の音を響かせていると、氷室がまた私を見る。 「どうしたの?」 「いや、浴衣いいなあと思って。ヤマトナデシコ?」 「そ、そんな大層なものじゃないよ」 大和撫子って…。 ただ浴衣着てるだけでそこまで言われるとなんだか申し訳ない。 「可愛いね」 「え」 「すごく似合ってるよ」 優しい笑顔でそう言われ、私は顔を赤くする。 「あの、ありがとう」 「いいえ」 普段はしない格好だし、せっかく着たんだし、褒められるのは嬉しい。 嬉しいんだけど…。 「あの」 「なに?」 「な、なんでそんなに見るの?」 さっきから氷室の視線をものすごく感じる。 そりゃ、会話してるんだからこっちを見るのは当たり前なんだけど、必要以上というか…。 「見ちゃダメ?」 「ダメって言うか…少し恥ずかしいというか…」 氷室を見ると目が合う。 ぱっと顔を赤くすると、氷室はくすっと笑った。 「…氷室」 「なに?」 「…楽しんでるでしょ」 「そりゃもう」 くすくす笑いながら氷室は言う。 もう何も言わないでおこう…。 土手はそんなに遠くない。 あっという間に着くと、そこはすでに人ごみで賑やかだった。 「すごいね」 「まあ、こういう機会あんまりないからね」 「で、とりあえず何か食べる?」 屋台で何か食べようと思ってきているのでみんなお腹が空いている。 何が食べたい?という話になって出たのは「焼きそば」と「たこ焼き」だった。 「結構並んでるよね、あんまりのんびりしてたら花火始まっちゃうし。手分けしようか」 「そうだね」 友人二人の会話。手分けしようという意見に反対する理由はない。 そして当然、二手に別れると言うことは、私と氷室、友人二人の組み合わせになるわけで。 「じゃあ、焼きそばよろしく〜」 「そっちもたこ焼きおいしいの買ってきてね〜」 待ち合わせ場所は花火がよく見える広場の大きな木の前。 去年もそこで見たから、会えないことはないはず。携帯もあるし。 焼きそばを買ったらそこへ行こう。 「で、どこで売ってるの?」 「こっちのほう。あそこのがおいしんだよ」 毎年買ってる焼きそば屋に氷室を案内する。 奥の方に看板が見えるのでそれを指さす。 「混んでるね」 「うん、いつもはここまでじゃないのになあ」 ここのお祭りには毎年来ているけどこんなに混んでいるのは初めてだ。 「う、わ」 「あ」 人ごみに押し流されて、氷室が少し遠くなる。 まずい、はぐれる。 そう思った時、氷室に手を掴まれる。 「大丈夫?」 「あ、ありがと」 氷室は私を引っ張って、離さないように強く握ってくれる。 自然と氷室と手をつなぐ形になった。 「こっちだっけ?」 「うん…っていうか、その」 「なに?」 「手、このまま行くの?」 男子と手をつなぐのなんて恥ずかしながら幼稚園以来。 正直緊張してしまって仕方ないんだけど…。 「はぐれたら大変だろう?」 「…そうだね」 確かにはぐれないためにはこれが一番。 うん、わかってはいる。手をつなぐのはぐれないためだと。 それでも、やっぱりドキドキは止まらない。 「の友達、面白いね」 「え?ああ、うん。いい子たちだよ。その、ノリもいいし」 ちょっとよすぎるけど、と心の中で付けしつつ。 「ちょっと新鮮だったな、部活のときのしか知らないから」 「それはこっちだって」 考えてみれば、部活関係以外で氷室に会うのは初めてだ。 それは当然、氷室からしても同じ。 そんな会話をしてる間も、手は繋いだままだ。 なんだか氷室の顔がうまく見られなくて、ずっと俯いたまま返事をする。 「」 「な、なに?」 「こっち向いて?話すときに顔が見えないのは寂しいな」 「え、っと、そうだよね、ごめん」 そう言われて恐る恐る顔を上げる。 ぱっと目が合って、顔が赤くなるのを感じた。 「あの、氷室、もうそんなに混んでないし、手、つながなくてもいいんじゃ」 さっきみたいにもみくちゃにされるような混み具合ではなくなった。 手を繋ぐのが嫌なわけではないけど、手を繋いでるだけでなんだか頭が沸騰しそう。 恥ずかしくてどうにかなりそうだ。 「ダメだよ」 そう言ってはみたものの、優しい顔で、きっぱりと断わられる。 「ほら、念には念を、ね」 「それはそうだけど…」 「それに、離したくないし」 「え」 「あ、ほら、ここだろ?」 さっきの言葉は、と聞く前に焼きそばの屋台に着いた。 片手でもスムーズに買う氷室。 なんというか、すごい…。 「行こうか」 「う、うん」 また人ごみに入って行く。 さっきより、少し強く手を握られる。 「…氷室ってさ」 「ん?」 「けっこう強引だよね…」 「今頃気づいた?」 クスクス笑いながら氷室は言う。 そんな会話をしつつ、待ち合わせ場所に着いた。 まだ友達は来てないようだ。 「あの、さすがに、手、離さない?友達もすぐ来ちゃうし…」 「そう?残念」 「ざ、残念って」 「じゃあ、来るまで、ね」 氷室は優しく笑ってそう言った。 「あ、、氷室くーん!買って来たよー!」 「あ、来たね」 氷室の視線の先には大きく手を振る友人たち。 氷室はすっと手を離した。 「あ、」 「どうしたの?」 「…なんでもない」 離された手が熱くて、少し寂しい。 手を繋いでドキドキしたのは、男の人と手を繋いだからなのか、氷室と手を繋いだからなのか。 手を離した後、寂しいと感じたのは、どうしてなのか。 そんなことを考えながら、夜空に上がる花火を見上げた。 ← top → 12.10.04 |