「今日の練習はこれで終わりだ。わかってると思うが明日から合宿だからな。全員遅刻のないように。それじゃ、解散」 盆休みも終わって、通常の部活動に戻って数日。 明日からついに夏休みの仕上げの合宿だ。 今日の練習は監督の声で一旦部活は終了。 自主練する奴もいるけど、オレは…今日はやめとくか。 ちょっと疲れが溜まってるし、明日からは合宿。怪我でもしたらシャレになんねー。 「福井先輩、帰りですか?」 今日はとっとと帰るか、と思って部室を出ると、ちょうど帰るところだったのかに会った。 「。おお、今日はちょっと疲れてっからな、自主練はなし」 「そうなんですか」 とは途中まで帰り道が一緒だ。自然と一緒に歩き出す。 「そういや、と氷室、最近一緒に帰ってねーな」 「氷室、自主練の時間潰して私にバスケのこと教えてくれてたので。申し訳ないし、私からもういいよって言ったんです」 「…はー」 ずいぶん健気だねえ、と思いながら息を吐く。 つーか、そういう理由で一緒に帰らなくなってるってんなら、やっぱ付き合ってねーのか? でもなあ… 「先輩、どうしたんですか?」 「あ、いや…」 言っていいもんか、まあ、別にいいよな…。 「なあ、、この間の花火大会、氷室と一緒に行ってたよな?」 「え?」 この間、男だらけのむさ苦しい集団で花火大会に行ったときのこと。 人混みの中、頭一つ飛び出ているのはこの夏毎日のように顔を合わせていた氷室だ。 誰と来てんだ?なんて考える間もなく、すぐ隣にいる人物に気づいた。 浴衣を着て少しいつもと雰囲気が違うけど、隣にいるのは間違いなくだった。 んでもって、の右手と氷室の左手はしっかりつながれていたわけで…。 「お前ら結局付き合ってんの付き合ってねーの」 「つ、付き合ってないですってば」 「付き合ってねーのに手繋いで花火見に行くのかよ」 「!」 はぱっと顔を赤くする。 「あれは、その、違くて」 顔を赤くしたは大げさに身振り手振りをしながら必死に話す。 「たまたま友達と行くときに会っただけで、それに、人がすごくてはぐれそうになったからで」 「お、おう。わかったから」 ってどっちかっつーとしっかりしてて落ち着いてるイメージだったんだけど、こうも慌てるもんなのか。 「何してるんですか?」 に「落ち着けよ」と声を掛けようとした瞬間、後ろから聞きなじみのある落ち着いた声が。 「ひ、氷室」 いつの間に。 確かオレが部室出たときはまだ自主練してたはず。 「お前、ずいぶん早くね?」 「練習しようと思ったんですけど、明日から合宿ですからやめたんですよ」 「ああ、そういうこと…」 と話しながら帰ってたから歩くスピードは遅めだったし、一人で歩いてた氷室が追いついても不思議じゃねえか。 一方、は自分の顔を赤くしている張本人を見て、うつむいてしまった。 こういうのを罪な男っつーのかね…。 「で、何の話してたんですか?」 「え?いや、別に大した話じゃ」 「…へえ」 氷室はいつもと変わらない表情をしているが、なんつーか、目が笑ってない。 ぶっちゃけ怖い。 「あ、あの、私ちょっと飲み物買ってきます」 はそう言って小走りで目の前のコンビニへ向かった。 こりゃあ、弁解タイムだな…。 「あのな、オレマジなんもしてねーからな」 恐る恐る氷室に告げる。 が赤くなったのはオレのせいじゃないと。むしろお前のせいだと。 「お前ら、花火大会一緒にいただろ。その話したらあーなっただけだから、そう怒んなって」 「別に怒ってませんよ」 絶対嘘だろ…。 「つーかさ、お前、やっぱり本気なの?」 一緒に帰ったり、名前で呼んだり、手を繋いだり。 普通に考えりゃどう考えてもそうなんだけど、全部顔色一つ変えずにやってるもんだからよくわかんねー。 また帰国子女っつーのがな…。 「実際どうなんだよ」 この質問をするのはもう二度目。 でも、なんか気になっちまうんだよな…。 はわかりやすい(というかあっちのが正常だと思うけど)反面、氷室はわかりにくいんだよなあ。 「すみません、待たせて」 氷室の答えを聞く前に、が帰ってきた。 こりゃ答えは聞けねーな。…まさか言ってこねーよな? 「明日から合宿だからな、とっとと帰るぞー」 変なこと言われる前に話題を変えよう。その変な話題は自分から振ったんだけど。 二人の背中を押して歩くよう促すと、氷室は「楽しみですね」と言った。 「楽しみにするもんじゃねーぞ、普段の練習の100倍きついからな」 「でも、楽しみですよ」 「…本気か?」 合宿なんて、マジ楽しみにするもんじゃねえ。 思い出しただけで恐ろしい、そう告げると氷室はオレの方を向いて真剣な眼で言った。 「本気ですよ」 結構な迫力に、一瞬怯む。 「…なあ、それ、どっちの話だ?」 「どっちですかね」 もう、下手なこと聞くのやめよう…。 ← top → 12.10.12 |