合宿5日目、実質合宿最終日。
今日で練習は全部終わって、明日の朝帰ることとなる。

今日で最後だから、と練習の後、夜にみんなで花火をすることとなった。
朝食のときにそう言われ、そこかしこから歓声が上がった。
やっぱりみんな花火好きなんだなあ。
私も楽しみにしながら、箸を進めた。





「いえーーーーい!」
「おーい、はしゃぐ気持ちはわかるけどうるせーぞー」

すっかり日が沈み、練習も終了、夕ご飯も食べ終わったところでみんなお楽しみの花火タイム。

「これ、が買って来たの?」
「あ、うん、お昼の買い出しのときにね」

端の方で適当に花火を選り分けていると、氷室がやってきた。

はしないの?花火」
「もうちょっと…こんなもんかな」

とりあえず花火を全部袋から出して、適当に並べる。
まあ、これでみんなやりたいのを取って行くだろう。

「どれにしようかな…」

せっかくだから派手なものを、と思って、それっぽいのを取る。

「はい、火」
「ありがと」

氷室の持ってる花火から火をもらって点火する。
予想通り、なかなか派手な色だ。

「いいね。この間は打ち上げ花火だったけど、こういうのも楽しいな」
「この間のって、花火大会?」
「うん。毎年やってるんだよね?」
「やってるよ、私は毎年行ってるから」
「そうなんだ。じゃあ、来年も一緒に行こう?」

思いがけない言葉に、私は思わず花火を落としそうになる。

「う、わ」
「危ないよ」
「あ、う、うん…」
「で、返事は?」

氷室は真っ直ぐ私を見てくる。

「…行きたいです」
「来年も浴衣がいいな」
「う、うん。頑張ります」
「なんで敬語?」
「…なんとなく」

氷室はくすくす笑ってそう言った。
すごくとんでもないことを言われているような気がするけど、気のせいじゃないよね…。

「室ちーん、火ちょうだーい」

そんな会話をしていると、敦がやってきた。
たくさん花火を抱えて、ずいぶん楽しそうだ。

「はい」
「ありがとー、…あれ?」

火をつけたけど、敦の持ってる花火はちゃんとつかない。

「あれれ〜?」
「敦、それ逆じゃない?」
「え、そうなの?」
「うん、多分。ちょっと見せて」
「はい」

敦から花火を受け取って見つめる。
ああ、やっぱり。

「間違えやすいけど、これ逆だよ。こっちつければちゃんとできるよ」
「ほんと?室ちん、もう一回」
「…はい」
「ありがと〜」

無事花火がついたのを確認して、敦は笑ってお礼を言った。

「あんまり振り回しちゃだめだよ」
「は〜い」

わかったかわかってないのか、適当に相槌を打って去っていく。
相変わらずだなあ、と思いながら大きな背中を見送った。

「敦、嬉しそうだね」
「…、アツシのこと名前で呼んでるんだね」
「え?」

氷室にそう言われ、そう言えば、と思う。

「そう言えば、いつの間にか呼んでたね。なんか『紫原』って長いし、みんな名前で呼んでるし」
「…ふうん」

氷室は少し伏し目がちになる。

「氷室?」
「なに?」
「なんか、不機嫌じゃない?」
「…そう見える?」

氷室はいつもの穏やかな笑みを浮かべてるけど、なんというか目が笑ってないと言うか。

「なにかあったの?」
「…大丈夫だよ」
「ほんとに?」

氷室の顔を覗きこむ。
やっぱりちょっと表情が暗いような。
目が合うと、氷室は口を開いた。


「うん」

「う、うん」


氷室は真っ直ぐこっちを見て、私の名前を何度も呼ぶ。
そんなに呼ばれても、私は何をすればいいのか…。
それに、そんなに見つめられながら呼ばれると、少し恥ずかしい。

「あの、氷室?」

「は、はい」
「顔が赤いよ」

氷室は少し笑いながらそう言った。

「ちょ、ちょっと、そうじゃなくて!」
「大丈夫だよ、もう元気出たから」
「なんでこれで元気出てるの…!」
「だって、楽しいからね」

クスクス笑う氷室。
もう、本当にこの人は…!
なんか、心配して損した気分だ…。


「………」
「ひどいなあ」
「………」

氷室はまた私の名前を呼ぶけど、つんとそっぽを向いて無視をする。
「ひどいなあ」なんて言ってくるけど、ひどいのは氷室の方だ。
せっかく心配してたのに…!


「……」
「返事してくれるまで呼ぶよ?」

ぷい、と顔を背ける。
もう知らない…!


「……」
「花火、消えてるよ」
「え。…あ…」

氷室の言葉で、自分の手元を見ると確かに花火の火は消えている。
いつの間に…。

「はい、花火」
「…あ、ありがとう」

氷室は一つ花火を取ってくれる。
氷室の花火もすでに消えていて、火を探す。

「岡村さん、火、いいですか?」
「おお、そりゃ」

氷室は近くにいた岡村先輩に火をもらう。
花火に火をつけると、氷室は私の花火に火をつける。

「…ありがとう」
「うん」

氷室はじっと私を見る。
…そんなに見られると、恥ずかしい。

「あ、あの、氷室」
、もう怒ってない?」

氷室はまた眉を下げてそう聞く。
そんな顔をされると、私は言葉に詰まってしまう。

「…お、怒ってるよ」
「でも、今日は謝らないよ」
「え?」
「最初にひどいことしたのは、だ」

???
わ、私、何かしたっけ?

「氷室、私、何かした?」
「…いいよ、もう。大丈夫だから」
「でも、気になるよ。わからないとちゃんと謝れないし」

そう言って私は氷室をじっと見つめる。
何か悪いことをしたならちゃんと謝りたい。でも、本当に思い当たる節がない。

「知りたい?」
「うん」
「…本当に知りたい?」
「え」
「後悔しない?」
「…え、っと」


氷室は私のほうを向いて言う。
段々、私に近づいてくる。

こ、これは、この間の。

「ひ、氷室!」
「どうしたの?」
「いい、いいです!聞きませんごめんなさい!!」

赤くなってそう言えば、氷室は楽しそうな笑顔を浮かべる。

「うん、そのほうがいいよ」
「…そんなに変なことなの?」

氷室は妖しく笑うと、花火を持ってない手で私の頭を撫でる。

「いつか、教えてあげるよ」

いつかって、いつだろう。
気になるけど、なんとなく、聞かないでおいた。

















top 
12.11.22