合宿5日目、実質合宿最終日。 今日で練習は全部終わって、明日の朝帰ることとなる。 今日で最後だから、と練習の後、夜にみんなで花火をすることとなった。 朝食のときにそう言われ、そこかしこから歓声が上がった。 やっぱりみんな花火好きなんだなあ。 私も楽しみにしながら、箸を進めた。 * 「いえーーーーい!」 「おーい、はしゃぐ気持ちはわかるけどうるせーぞー」 すっかり日が沈み、練習も終了、夕ご飯も食べ終わったところでみんなお楽しみの花火タイム。 「これ、が買って来たの?」 「あ、うん、お昼の買い出しのときにね」 端の方で適当に花火を選り分けていると、氷室がやってきた。 「はしないの?花火」 「もうちょっと…こんなもんかな」 とりあえず花火を全部袋から出して、適当に並べる。 まあ、これでみんなやりたいのを取って行くだろう。 「どれにしようかな…」 せっかくだから派手なものを、と思って、それっぽいのを取る。 「はい、火」 「ありがと」 氷室の持ってる花火から火をもらって点火する。 予想通り、なかなか派手な色だ。 「いいね。この間は打ち上げ花火だったけど、こういうのも楽しいな」 「この間のって、花火大会?」 「うん。毎年やってるんだよね?」 「やってるよ、私は毎年行ってるから」 「そうなんだ。じゃあ、来年も一緒に行こう?」 思いがけない言葉に、私は思わず花火を落としそうになる。 「う、わ」 「危ないよ」 「あ、う、うん…」 「で、返事は?」 氷室は真っ直ぐ私を見てくる。 「…行きたいです」 「来年も浴衣がいいな」 「う、うん。頑張ります」 「なんで敬語?」 「…なんとなく」 氷室はくすくす笑ってそう言った。 すごくとんでもないことを言われているような気がするけど、気のせいじゃないよね…。 「室ちーん、火ちょうだーい」 そんな会話をしていると、敦がやってきた。 たくさん花火を抱えて、ずいぶん楽しそうだ。 「はい」 「ありがとー、…あれ?」 火をつけたけど、敦の持ってる花火はちゃんとつかない。 「あれれ〜?」 「敦、それ逆じゃない?」 「え、そうなの?」 「うん、多分。ちょっと見せて」 「はい」 敦から花火を受け取って見つめる。 ああ、やっぱり。 「間違えやすいけど、これ逆だよ。こっちつければちゃんとできるよ」 「ほんと?室ちん、もう一回」 「…はい」 「ありがと〜」 無事花火がついたのを確認して、敦は笑ってお礼を言った。 「あんまり振り回しちゃだめだよ」 「は〜い」 わかったかわかってないのか、適当に相槌を打って去っていく。 相変わらずだなあ、と思いながら大きな背中を見送った。 「敦、嬉しそうだね」 「…、アツシのこと名前で呼んでるんだね」 「え?」 氷室にそう言われ、そう言えば、と思う。 「そう言えば、いつの間にか呼んでたね。なんか『紫原』って長いし、みんな名前で呼んでるし」 「…ふうん」 氷室は少し伏し目がちになる。 「氷室?」 「なに?」 「なんか、不機嫌じゃない?」 「…そう見える?」 氷室はいつもの穏やかな笑みを浮かべてるけど、なんというか目が笑ってないと言うか。 「なにかあったの?」 「…大丈夫だよ」 「ほんとに?」 氷室の顔を覗きこむ。 やっぱりちょっと表情が暗いような。 目が合うと、氷室は口を開いた。 「」 「うん」 「」 「う、うん」 「」 氷室は真っ直ぐこっちを見て、私の名前を何度も呼ぶ。 そんなに呼ばれても、私は何をすればいいのか…。 それに、そんなに見つめられながら呼ばれると、少し恥ずかしい。 「あの、氷室?」 「」 「は、はい」 「顔が赤いよ」 氷室は少し笑いながらそう言った。 「ちょ、ちょっと、そうじゃなくて!」 「大丈夫だよ、もう元気出たから」 「なんでこれで元気出てるの…!」 「だって、楽しいからね」 クスクス笑う氷室。 もう、本当にこの人は…! なんか、心配して損した気分だ…。 「」 「………」 「ひどいなあ」 「………」 氷室はまた私の名前を呼ぶけど、つんとそっぽを向いて無視をする。 「ひどいなあ」なんて言ってくるけど、ひどいのは氷室の方だ。 せっかく心配してたのに…! 「」 「……」 「返事してくれるまで呼ぶよ?」 ぷい、と顔を背ける。 もう知らない…! 「」 「……」 「花火、消えてるよ」 「え。…あ…」 氷室の言葉で、自分の手元を見ると確かに花火の火は消えている。 いつの間に…。 「はい、花火」 「…あ、ありがとう」 氷室は一つ花火を取ってくれる。 氷室の花火もすでに消えていて、火を探す。 「岡村さん、火、いいですか?」 「おお、そりゃ」 氷室は近くにいた岡村先輩に火をもらう。 花火に火をつけると、氷室は私の花火に火をつける。 「…ありがとう」 「うん」 氷室はじっと私を見る。 …そんなに見られると、恥ずかしい。 「あ、あの、氷室」 「、もう怒ってない?」 氷室はまた眉を下げてそう聞く。 そんな顔をされると、私は言葉に詰まってしまう。 「…お、怒ってるよ」 「でも、今日は謝らないよ」 「え?」 「最初にひどいことしたのは、だ」 ??? わ、私、何かしたっけ? 「氷室、私、何かした?」 「…いいよ、もう。大丈夫だから」 「でも、気になるよ。わからないとちゃんと謝れないし」 そう言って私は氷室をじっと見つめる。 何か悪いことをしたならちゃんと謝りたい。でも、本当に思い当たる節がない。 「知りたい?」 「うん」 「…本当に知りたい?」 「え」 「後悔しない?」 「…え、っと」 「」 氷室は私のほうを向いて言う。 段々、私に近づいてくる。 こ、これは、この間の。 「ひ、氷室!」 「どうしたの?」 「いい、いいです!聞きませんごめんなさい!!」 赤くなってそう言えば、氷室は楽しそうな笑顔を浮かべる。 「うん、そのほうがいいよ」 「…そんなに変なことなの?」 氷室は妖しく笑うと、花火を持ってない手で私の頭を撫でる。 「いつか、教えてあげるよ」 いつかって、いつだろう。 気になるけど、なんとなく、聞かないでおいた。 ← top → 12.11.22 |