合宿も終わり、夏休み最終日、今日の部活は午前中だけで終了。
せっかくなので、学校近くのファミレスで友人と一緒にお昼ごはんを食べることにした。

「やっぱりマネージャー、続けることにしたんだね」
「やっぱり?」
「うん。だって電話とかで部活の話するとき楽しそうだったもん」

楽しそう、か。
確かに楽しかったけど、そんなに話のテンションに出ているほどだったのか。

「で、楽しかった原因は何かな?」
「え」

友人はなんだかいやらしい視線を送って来る。
げ、原因って。

「普通に部活楽しかっただけだよ」
「えー、夏祭りで会った氷室君のせいじゃないの?」

友人の思わぬ一言に、私は思わずむせ返る。

「え、な、なんで氷室が」
「だって、好きなんじゃないの?氷室君のこと」

追い打ちのような言葉に、持っていたスプーンを落としてしまう。

「…あの、なんでわかったの?」

友人にまで秘密にする必要はないので否定しない。
それより、この子が氷室と会ったのは花火大会のときだけ。
あのときは、まだ氷室のことを好きだと自覚していなかったわけだし、どうして気付かれたんだろう…。

「だって、っていつも落ち着いてるのに、あのときは様子違ったし」
「…うん、まあ、そりゃ…」

そりゃ、私だって好きな人の前となれば普通じゃいられない。
それに、氷室はいろんなこと言ってくるし…。

「で、どうなの?」
「どうって?」
「うまくいきそうなの?」
「そ、そんなのわかんないよ」

うまくいくか、なんて。
そりゃ、うまくいったらうれしいけど、そんな簡単に行くもんじゃないだろうし。
それに、今はそれどころじゃないというか、すでにいっぱいいっぱいというか…。

「でも、氷室君のこと名前で呼んでたじゃない」
「あれは、氷室はずっとアメリカにいたから苗字だと呼びにくいっていうから」
「…ふーん」

この説明をするのは何度目だろう。
友人は訝しげな目でこちらを見ている。

「…あのさ」
「うん」
「…花火のときさ、あんたたち手繋いでなかった…?」
「!」

ま、まさか見られていたとは…。
あのときのことを思い出して思わず顔を手で覆う。

「いや、あれは、混んでてはぐれそうだったから」
「…それ、氷室君が言ったの?」
「まあ、そうだけど…」
「…ねえ、言っていい?」
「な、何を?」
「…あんたたち、付き合っちゃえばいいのに…」
「え、な、なんで」
「だって、私には苗字だと呼びにくいとか、はぐれるからとか、私には口実にしか聞こえないんだけど…」
「そりゃ、嫌われてはいないと思うけど」
「いや、好かれてるでしょ、それ」

そう、好かれてはいると思う。
自惚れとかじゃなく、きっと確実に。

だけど、それが私と同じ意味なのかはわからない。

「だってほら、花火の時にも言ったけど、帰国子女じゃない、あの人。そういう意味で好きじゃなくても、普通にやるのかもしれないし」
「まあ、それはそうかもしれないけど」

友人は氷がほとんど溶けてしまったお茶を飲みながらそう言った。

「でも、もっと自信持っていいと思うけど」
「…そう?」
「うん」

友人の言葉に、胸の奥が熱くなる。
自信、か…。

「あ、噂をすれば」

友人がそう言って窓の外を指さした。
その先の道路の向こうに氷室が見えた。
学校からの帰り道だろうか。

「ほら、自信を持って行ってきなさい!」
「え、どこに」
「どこへでもよ!どこか誘ってデートの一つでもしてきなさい」

友人は私の背中を力強く押した。
え、ちょっと、待って!
そんなことを言う暇も、自分の分の会計を払う間もなく外へ押し出される。

「え、な、なにこれ…」

ほ、本当にノリのいい子だ…。
窓から見える友人は「行け!」と身振りをしている。
これは行かなくてはいけないんだろう…。

横断歩道を渡って、道路の向こう側へ。
少し走って氷室のところへ行くと、氷室は私に気付いたようだ。

?」
「氷室、今帰り?」
「うん。明日から学校始まるから、いろいろ手続きとかね」
「あ、そっか…」

どこか誘え、なんて言われたけど、忙しそうだ。
まあ、そもそも誘う勇気もないんだけど…。

?」
「あ、いや、なんでもない」

そう言って駅までに道を歩き出す。
どこか誘ったりなんてできないけど、こうやって一緒に帰るのも久しぶりだ。
友達には今度今日の分のお会計を払うとき、ちょっと色を付けておこうか、なんて思う。

はどこか寄ってたの?」
「友達とお昼食べてたの」
「この間の子?」
「うん、あのときのうちの一人だけどね」

そんな会話をしながら歩いてく。
自信、かあ。
うん、間違いなく好かれてると思う。
何を考えてるかよくわからない人だけど、それだけはわかる。
もし、その「好き」が私と同じだったらいいなあ、とそう思う。

、なんか嬉しそうだね」
「え?」
「何かいいことあったの?」

氷室は優しい笑顔で聞いてくる。
いいこと、は今のこの状態のことなんだけど。

「うん。友達と話したり遊んだりするの、楽しいからね」

嘘じゃない。本当のことだ。
友達と話すのは楽しかった。

「でも、明日から学校だから、こういうのもあんまりできないね」
「そっか。じゃあ、どこか寄ってく?」
「え?」
「午前中で部活終わるなんてなかなかないし、学校始まったら忙しくなるし、ね?」

まさかの言葉に反応が鈍くなる。
友達からは自分から誘えと言われたけど、まさか氷室から誘ってくれるとは。

「うん、その、行きたい」
「じゃあ、決まりだ」

胸の奥が熱くなる。
さて、どこに行こう。

















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12.11.30