「お疲れ様でしたー」

練習が終わり、後片付けをしながら氷室の姿を探す。
今日も自主練するのかな。そう思っていると、氷室が私の方へ駆け寄ってくる。


「氷室、今日も練習していく?」
「いや、今日はいいよ。最近ずっとやってたから疲れてるし。無理に練習してもよくないしね」
「そっか」
「じゃあ、待ってるね」

そう言うと氷室は部室の方へ向かった。
片付けをして帰る準備をしたら私の方が遅くなるだろう。
早くしよう。私は片付けの手を早めた。



「氷室」

帰り支度をして校門へ向かえば、氷室は門に寄りかかって私を待っていた。


「ごめんね、待った?」
「ううん、大丈夫」

氷室は優しい目と声でそう言ってくれるから、私の胸は熱くなる。
期待をしても、いいのか、と。

「行こう」
「…うん」

氷室の隣を歩きながら、彼に付いて行く。
どこに行くんだろう。

「…ここでいいか」
「ここ?」
「うん、誰もいないし」

氷室が目を向けたのは小さな公園。
氷室はそこの小さなベンチに座ると、その隣に手を置いて私に座るよう促した。

「また離れてる」
「え、あ…」

氷室に指摘され、少し離れて座ってしまったことに気付く。

「なんかもう、く、癖?」
「ひどいなあ」
「だ、だって氷室がいつも変なこと言うから」

少し抗議をしてみれば、氷室は笑っていた表情を真剣のものに変える。

「氷室?」
「変なことじゃないよ」

氷室は離れていた私に近づいて話し出す。

「今まで言ったこともしたことも、全部、オレは本気だよ」
「ひ、氷室」
「可愛いって言ったのも、手を繋いだり、名前で呼びたいって言ったのも、いい加減な気持ちじゃないよ」

胸がうるさいくらいにドキドキ言って、頭が割れそうだ。


「…うん」

少しの不安と、期待を抱えながら氷室の言葉を待つ。


「好きだよ」

その言葉に、大きく心臓が跳ねる。
買い出しの後に話したときからもしかして、と思っていたけど、実際に聞くとまるで現実感がなくて。

「いたっ」
「あ、ご、ごめん」
「なんでオレのほっぺつねるの?」

氷室は苦笑しながら頬をつねっていた私の手を優しくつかむ。

「いや、なんか、ゆ、夢?かなって」
「普通は自分のほっぺつねらない?」
「あ、う、うん。そっか、そうだよね」

そりゃそうだ。混乱したまま自分の手を引っ込める。

「夢じゃないよ」

氷室はそう言って、もう一度私の頬に手を当てる。
つねられる?と思って構えると、氷室の顔が近づいた。

「…っ…!」

何を、そう思っている間に、唇に優しい感触を感じる。
キスをされた。そう思った瞬間には、すでに唇は離されていて。

「ひ、氷室」
「夢じゃないって、わかった?」
「え、あ」

まだ頭がふわふわして、うまく答えられない。
言いよどんでいると、氷室はまた顔を近づける。

「まだわからない?」

私の答えを聞く前に、氷室はもう一度私にキスをする。
夢じゃない。そう、夢なんかじゃない。
もうキスなんてしなくてもわかってるけど、でも、やめないでほしい。
さっきより長く唇を合わせていると、私の目から涙が一つ零れた。

「氷室」

「…っ夢じゃ、ないよね」
「うん。夢じゃない。が、好きだよ」

氷室は優しく微笑んで、私を抱きしめる。
だから、私も氷室の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめた。

、オレも、の気持ちをちゃんと聞きたいよ」
「う、うん」

そうだ、私もちゃんと言わないと。
少し体を離して、氷室の顔を見る。

「…っ」

だけど、やっぱり少し恥ずかしくて顔を下に向ける。

、ちゃんとオレの顔を見て言って」

…うん、そう、顔を見ないと。
わかってるけど、氷室の顔を見ると照れてしまって、顔が赤くなる。

「…ひ、氷室」
「うん」
「あの、私も、そう、一緒だよ」
「うん」
「…、氷室が、好きだよ」

必死にそう言えば、氷室は再びキスをする。

「…っ、氷室」
「そんな顔でそんなこと言われたら、止まらないよ」

氷室は私の目から零れる涙を拭いながら、何度も何度もキスをする。

「ひ、氷室」
「ん?」
「も、もう、夢じゃないってわかってるから、大丈夫だよ」

真っ赤になってそう言えば、氷室はクスリと笑った。

「夢じゃないとか、信じられないとか、そういうのじゃなくて」
「…、う、うん」
「せっかく、オレがを好きで、もオレを好きだってわかったんだ。だから、キスしたいって、そう思ったらダメかな?」

ダメなわけがない。私だって、同じ気持ちだ。だけど、

「で、でもね」
「?」
「なんか、心臓が爆発しそうで」

さっきから心臓が痛いくらいに鳴っていて、死にそうだ。
このままじゃ、心臓が破裂しちゃうんじゃないかと思うくらいに。

「爆発しないよ、大丈夫」
「う、うん、そうだけど、あの…」
「それとも、オレとキスするの、嫌?」

その言葉でまた顔を赤くする。
その聞き方は、

「…氷室のバカ」
「え?」
「その聞き方、ずるい」

そんな聞き方されたら、嫌なんて言えないの、わかってるくせに。


「…うん」
「キスしていい?」

あんな聞き方されて、そんなふうに言われてしまったら、もう心臓がどうとか、言っていられない。
私は小さく頷いて目を閉じた。









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13.01.03