「ひ、氷室、あの」
「ん?」

公園に来てからどれくらい経っただろう。
何度も何度もキスをされて、少し苦しいぐらいだ。

「キスをするのは…その、嫌じゃないけど、ちゃんと話もしたいよ」

そう言うと氷室はようやく私を解放してくれる。

「話?」
「うん、その、聞きたいことが」

そう、聞きたいこと。気になること。

「氷室は、いつから私のこと、その、…好きなの?」

そう聞けば氷室は微笑んで、私の頭を優しく撫でる。

「最初に見たときかな」
「さ、最初?」
「うん。ほら、ボールからかばったとき。あのときに可愛いなあと思って」

つ、つまり一目惚れというやつ?
そんなたいそうな顔立ちじゃないんだけど…と思って自分の頬を抑える。

「あのときはクラスも何もわからなかったから、どうにかして捕まえておきたいなと思って、マネージャーに誘ってみたんだ。そしたら受けてくれるし、しかも真面目にバスケの勉強してくれて、それで好きにならない方がおかしいよ」
「つ、捕まえて、って…」
「毎日一生懸命にやってくれて、どんどんのこと好きになったよ」
「…そんなに?」
「最初は夏休みだけの約束だったから、急いで囲っておこうかと思ったんだけど」

捕まえるだの囲うだの、な、なんか、そんないろいろ考えていたのか。
恋心を自覚した後ひたすら慌ててた私とは大違いだ…。

「夏休み終わってもマネージャー続けてるって言ってくれて、すごく嬉しかった。バスケを好きになってくれたのもそうだし、クラスも一緒だから新学期始まったらもっと一緒にいられるかなって思って。…そんなこと、なかったけど」
「…うん」
「新学期始まったら、思いの外忙しくなったから。ともあまり話せなくなった」

それを聞いて私は俯く。
そう、新学期が始まってから、すごく、寂しかった。

「新学期始まってから、元気がなかったのは寂しかったから?」

氷室は小さな声で聞いてくる。
私は小さく頷いた。

「それと、その、氷室に好きな子いるのかも、って、そう思って」
「ああ、さっきの神崎さん?」
「いや、それもそうなんだけど、夏休み最後の日に一緒に映画見たでしょ。あのとき、言ってたから。『恋してる感覚がわかる』って。だから、なんか一気に不安に…」

そう言うと、氷室は珍しく声を出して笑った。

「あ、ひ、ひどい!」
「はは、ごめんごめん。オレが好きなの、自分だとは思わなかった?」
「…欠片も思いませんでした」
「手繋いだり、名前で呼んだりしてたのに?」
「……う」

しょうがないじゃない。確かに自分でもネガティブすぎるとは思うけど、やっぱり人を好きになると、不安で仕方なくなってしまう。

「だって、氷室アメリカで育った時間長いじゃない。だから、こう、帰国子女はそういうの普通にするのかなって…」
「しないよ。だけにしかね」
「…うん」
「それに、それはこっちの台詞だ」
「え?」
「名前で呼ばせてくれると思ったら次の日にはやっぱりやめって言われるし、手を繋げば離してって言われるし」
「う」
「これでも結構不安だったよ」

言われてみれば、確かに。
私、結構、ひどいことをしている…。

「ご、ごめんね。あの、ただ恥ずかしかっただけで」
「うん。今はもうわかるさ。だって」

そう言って氷室はまた私にキスをする。

「今もキスだけでこんなに赤くなる」

その言葉で私はまた顔を赤くして、氷室はそれを見て楽しそうに笑う。

「…っ」
「可愛い」
「ま、またそういうこと言うんだから」
「本気だよ」

そう、本気で言ってくれてる。
だから余計に恥ずかしい。

「今度はオレの番だ」
「え?」
はいつからオレを好きになってくれたの?」
「…えっと」

いつから、か。
そういえば、私はいつから氷室を好きなんだろう。

「いつの間にか…?」
「そうなの?」
「うん。気付いたのは合宿のときだけど、多分もっと前から好きだったよ」
「合宿?」

合宿と言っても5日間。
いつ?と氷室は聞きたいんだろう。
でも、少し言いにくい。

「あの…」
「?」
「2日目に、その、話をしてくれたでしょ。あのとき」

そう言うと、氷室はやっぱり顔を曇らせる。
多分、氷室にとってはあまり触れてほしくないことだろう。

「…あのときか」
「うん」
「あれ、あんまり思い出してほしくないんだけどな」

寂しそうな顔をする氷室の手を思わず握る。
そんなことを言ってほしくは、ない。
私にとっては、大事な大事な思い出だ。

「氷室、あのね。氷室は思い出したくないかもしれないけど、私はうれしかったよ。氷室が思ってたこととか、つらいことを、私に話してくれたのが」
「……」
「それに、私、あのときうまく言えなかったけど、今でも氷室のことすごいと思ってるよ、本当に。だから、あの…」

あのときだけじゃない。今もうまく言葉にできない。

「私には、才能とかそういうの、よくわからないけど、氷室がすごくバスケを好きで、頑張ってるのはわかるよ。それがすごいって、そう思うから」

うまく言えずに、だらだらと話していると、氷室は私の言葉を遮るかのように、あのときみたいに私を抱きしめる。

「氷室」

今度は私も躊躇わずに氷室を抱きしめる。
どこまで伝わってるか、伝えられているかわからないけど、少しでも、私の思ったことが伝わっているといい。

にだから、話したんだよ」
「…うん」
「今も、あのときも、ああ言ってくれて、嬉しかった」
「……うん」

氷室は私から少しだけ体を離して、またキスをする。

が好きだよ」
「…私も、好きだよ」










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13.01.11