とりあえず最初に向かったのは、一番近い敦の模擬店。 「あ、室ちんとちんだ〜」 「アツシ、どう?繁盛してる?」 「多分ね〜」 「多分って…」 まあ、敦らしいと言うか…。 敦のクラスは「お祭り」をやっているというだけあって、射的やらヨーヨー釣りやらいろんなものが揃ってる。 「室ちんたち何かやってく?」 「うん。どれにしよう」 射的は正直得意じゃないし、ヨーヨー?輪投げ?宝釣り? 「オレ、どれもやったことほとんどないな」 「あ、そっか…」 「じゃあオススメはね〜宝釣りかなー。ただの運試しだし」 「んー…やめとくよ」 「そう〜?」 「輪投げにしようかな」 「私も輪投げにする」 輪投げは一応去年やったし、他のより行ける気がする。 「じゃあ、ちんから。女子はこの線からね」 「うん」 敦に金券を渡して欲しいものを吟味する。 奥にあるアシカのぬいぐるみが可愛いけど、奥だし…。 手前にある小さい猿のキーホルダーで妥協するべきか。 「ちん、妥協すると後で後悔するよ〜」 「…敦、心読まないで」 敦はときどき妙に聡いから困る…。 まあ、確かにせっかくだし欲しいものを狙うべきだよね…。 「はい、賞品でーす」 「……どうも」 去年文化祭で輪投げやったから、ちょっといけるかなって…思ったんだけど…。 最後の一つがかろうじてぬいぐるみに掠っただけであとは全滅。 ゲットしたのはその隣にあった可愛いとも言い難いマリモのキーホルダー。 ……携帯にでもつけようかな…。 「次室ちんね。男子は後ろの線だよ」 「ああ」 「ここでセイウチのぬいぐるみ取ったらかっこいいよ〜」 「さらっとプレッシャー掛けてくるな」 「敦、あれセイウチじゃなくてアシカだと思う」 「どっちでもいいじゃん」 よくない。私のツッコミをスルーして敦は氷室に輪っかを渡す。 「はい、スタート」 「すごいね〜室ちん。ほんとに取った」 「すごい!」 氷室は最初こそ慣れていないためか暴投してたけど、段々と慣れて行き、最後の一個で見事アシカのぬいぐるみをゲットしてみせた。 「はい」 「…ありがとう」 氷室はそのままそれをくれる。 ちょっとブサイクな、愛嬌のあるぬいぐるみ。 きゅっとそれを抱きしめた。 「じゃあ、これくれる?」 「え?」 氷室が手に取ったのは、さっきとったマリモのキーホルダー。 「いけない?」 「いいけど…ほんとにいる?」 「がくれるなら、欲しいな」 そう言われれば、断る理由なんてない。 氷室にキーホルダーを渡した。 「あれだねえ、室ちんがアザラシのぬいぐるみ取れたの、アレ」 「あれって、何よ。それにアシカね」 「あれはあれだよ、愛の力」 敦の言葉に手に持っていたぬいぐるみを思わず手放してしまう。 「ああっ」 「ちょっと〜せっかくの賞品雑に扱わないでよー」 「あ、敦が変なこと言うから」 慌ててぬいぐるみを拾ってホコリをぽんぽんとはたく。 な、何をほんと…変なことを…。 「でも、本当にそうだと思うけどな」 「え?」 「愛の力で取ったよ」 今度は氷室が笑ってそう言うものだから、思わず力が入ってぬいぐるみが軽く変形する。 敦の「トド、苦しそうだよ」という言葉は右から左だった。 * 「岡村先輩」 「おお、お前ら」 次に向かったのは腹ごしらえも兼ねて岡村先輩のところ。 アシカのぬいぐるみは文化祭を回るうちに落としてしまいそうだからと、ロッカーにしまってきた。 「焼きそば2つ下さい」 「おお、ちょっと待ってろ。大盛りにしてやるぞ!」 そう言って岡村先輩は鉄板で焼きそばを作る。 なんというか、様になってる。 「岡村さん、似合いますね」 「おお、よく言われるぞ」 焼きそばのいい匂い。 岡村先輩は2つをちゃっちゃと詰めてくれる。 「お前ら、ほかにどこか行ったのか?」 「アツシのところに行きましたよ」 「そうか。楽しかったか?」 「はい」 「いいのう。ワシもお前らみたいに回りたい…」 「?少ないけど休憩ありますよね?」 そう言ってみれば、岡村先輩は苦笑いをする。 「いや、そうじゃなくてな…」 「?」 「、それ以上聞くと岡村さんの傷を抉ることになる」 「氷室おおお!十分抉っとるぞ!!」 一瞬考えた後、ハッと思い至る。 え、えっと…何を言えば…謝る?いや、余計に傷を抉りそうだ。 「…あの、焼きそばありがとうございます」 「…味わって食えよ」 何も言わないでおいた。 ……それが一番だろう。 * 「おー、お前らか」 焼きそばを食べる場所を探して、辿りついたのは福井先輩のところだ。 休憩所、というだけあって机と椅子、畳を敷いたところはお座敷になっている。 「これ、茶」 「ありがとうございます」 そう言って福井先輩はお茶を出してくれる。 どうやら休憩所の店番の仕事はお茶を出すことのようだ。 「…先輩、暇そうですね」 「暇だよ」 福井先輩は即答する。 ですよね…。 「休憩所自体は賑わってんだけどな。することねーんだよ」 確かに教室のテーブルはほぼ埋まっている。 食べる場所ってそんなに多くはないし納得だ。 だけど、ここで店番しててもお茶を出すことくらいしかすることがないようだ。 「まあ、ゆっくりしてけよ」 「…ありがとうございます」 そう言って座敷に座ると、福井先輩も付いてくる。 「…福井さん、何ですか?」 「いや、暇だから」 「………」 「お前らそれ岡村んとこで買って来たやつだろ?他はどこ行ったんだ?」 「敦のところに行きましたよ」 「ああ、なんだっけあいつのとこ…射的?」 「お祭りですよ。射的とか、ヨーヨーとかいろいろ。私たちは輪投げやりましたけど」 「なんか取ったのか?」 「…マリモのキーホルダーを…」 「へえ。どんなのだ?」 「これですよ」 福井先輩は私の方に身を乗り出すけど、キーホルダーを持ってるのは氷室の方。 「なんで氷室が持っ…ああ」 「…先輩、納得するの早いですね」 「さすが福井さんですね」 「じゃあ氷室は何取ったんだ?」 そう言って福井先輩は私の方へ向きなおす。 「アシカのぬいぐるみです。今はロッカーにありますけど」 「へえ。ベタだねえ」 福井先輩はにやにやしながら私たちを見る。 …食べにくい。 「じゃあ次はあれか?劉のとこ。お化け屋敷だろ」 「………」 「?」 「い、いや、なんでも…」 お化け屋敷。そう。お化け屋敷。 「怖いのか?」 「い、いや、別に」 「じゃあ、急いで行こう」 「え」 氷室は気のせいかさっきより生き生きした顔をしている…ような…。 「え、もうちょっとゆっくりしてっても…」 「別に怖くないんだろう?」 「べ、別に…」 「なら早く」 「…氷室、お前楽しんでるだろ」 「さあ?」 できるだけゆっくり食べようとする私を余所に、氷室はちゃっちゃと箸を進める。 怖くはない。うん、文化祭のお化け屋敷だし、そんなに怖くないだろう。 …うん。多分、大丈夫。 そう信じて焼きそばを食べ終えた。 ← top → 13.02.22 |