文化祭二日目、最終日。 今日は私も氷室も昨日以上に忙しい上に、休憩時間も完全にバラバラ。 氷室と一緒に回れないのは残念だけど、友達と回りたいのも本当だし、クラスの子たちと文化祭を見て回った。 そしてあっと言う間に文化祭終了の時間に。 慌ただしく後片付けを終え、クラスの大半は打ち上げに向かった。 少数だけど校庭でやっている後夜祭に向かう人もいる。 「、打ち上げ行かないの?」 「んー、明日早いし今回はパス」 「そっか。じゃあ、またねー」 「うん、バイバイ」 昇降口で打ち上げに行くクラスメイトを見送った後、氷室の姿が見えないことに気付く。 「あれ…」 どこに行ったんだろう。後夜祭に行ってるのかな。 そんなことを考えていると、ポケットの中の携帯が震えた。 「あ、氷室…」 受信したメールの差出人は氷室。 メールと開くと「教室に来て」と書かれていた。 「教室?」 なんで教室にいるんだろう。 そう思いながら階段を上って教室に向かった。 * 「氷室?」 「あ、」 教室の中で氷室は窓の外を眺めていた。 「どうしたの?」 「なんだか、名残惜しくて。楽しかったから、文化祭」 窓の外では後夜祭がやっている。 これを見ていたのか。 「だったら、後夜祭行く?」 「いや、ここで見ていたい」 氷室がそう言うから、私も氷室の前の席に座って外の様子を眺めた。 「氷室も打ち上げ行かないの?」 「明日早いから」 「だよね」 3日間体育館が使えなかったこともあって、明日の練習は朝早くから。 打ち上げは遅くなるだろうから、去年は参加したけど今回はパスした。 「、もう機嫌直った?」 「え?」 「昨日の」 「あ…」 昨日のことを思い出して顔を赤くする。 「うん、その、大丈夫」 「本当?」 昨日一緒に回ったおかげかどうかはわからないけど、氷室は昨日より女の子に注目されていなかったような気がする。 「それに、なんか言いたいこと言ったら軽くなったって言うか…」 勝手だけど、自分の気持ちをさらけ出したらずいぶんと心が軽くなった。 おかげで、昨日みたいにもやもやすることは少なくなった。 「そう?」 「う、うん。昨日はごめんね」 「どうして謝るの?謝ることなんて何もないよ」 「でも」 「オレは嬉しかったよ。が妬いてくれたのも、キスしてって言ってくれたのも」 氷室は優しく微笑むから、私は胸がきゅんとなる。 「、こっち来て」 「え?」 「いいから」 氷室が私を手招きするから、席を立って氷室の座る席の隣に立つ。 「こっち」 「わっ!?」 ぐい、と手を引っ張られて、氷室の膝の上に座る格好になった。 わ、こ、これは…。 「ひ、氷室」 「ん?」 「な、なんか恥ずかしい」 「誰もいないよ」 「誰か来るかも」 「じゃあ、誰か来たら、足音がしたらすぐやめるよ」 視線を泳がせると、氷室は自分のおでこと私のそれをくっつける。 「」 「う、うん」 「オレだって、いつも妬いてる」 「いつも?」 「部活で他の男と話すだけでも、オレは妬くよ」 「え、でも話さないわけには」 「わかってるよ。だから、どうしたらいいかわからないんだ」 氷室は私を優しく、だけど強く抱きしめる。 「は可愛いから、他のヤツも好きになるんじゃないかっていつもヒヤヒヤしてる」 「わ、私そんなに可愛くないよ」 可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、私の顔はいいとこ平均レベルだと思う…! そもそも、告白されたのだって氷室が初めてだ。 「そんなことないよ。すごく可愛い」 「そ、それは惚れた欲目ってやつだよ」 「いや、は最初から可愛かった」 あんまり可愛いと言われ続けるものだから、どんどん恥ずかしくなってくる。 「ひ、氷室、あの」 「が可愛くて仕方ないよ。が可愛くて、好きで好きで、どうしたらいいかわからなくなる」 氷室の言葉に、心臓がドクンと跳ねる。 「好きだよ、」 「…私も」 元々近かった顔と顔が、より近くなる。 目を閉じれば、唇に柔らかい感触。 「私も、一緒だよ」 「」 「氷室が好きで、すごく好きで、どうしたらいいかわからないよ」 写真の氷室を見るだけでドキドキして、当然一緒にいればもっと心臓が高鳴って。 他の子と少し仲良くしてるのを見るだけでモヤモヤして。 どうしようもないくらい、持て余したこの気持ちをどうしたらいいかわからないくらい、氷室のことが好き。 こんなに強く思ってるのは、私だけかと思ってた。 「同じだ」 「うん」 「好きだよ」 「私も、好きだよ」 そう言って、またキスをする。 優しい感触。 「…んっ…」 「」 「…もう一回」 「うん」 またキスをして、唇を離せばまたもう一回。 そんなふうに何度も何度も繰り返す。 ふと気付けば、窓の外からは騒がしいお祭りの音がする。 「…氷室、あの」 「ん?」 「誰か来たら、もうダメだからね」 私の言葉を理解した氷室は優しく笑う。 「わかってるよ」 後夜祭が始まった今、教室になんて誰も来ない。 そんなの、私も氷室もわかってる。 「誰か来たらやめて」は、「誰か来るまでやめないで」という意味。 「好きだよ」 キスをして、唇を離して角度を変えてまた唇を合わせる。 何度も何度もキスをして、頭が溶けそうになる。 後夜祭は、まだ始まったばかり。 ← top (修学旅行編)→ 13.03.15 |