文化祭二日目、最終日。
今日は私も氷室も昨日以上に忙しい上に、休憩時間も完全にバラバラ。
氷室と一緒に回れないのは残念だけど、友達と回りたいのも本当だし、クラスの子たちと文化祭を見て回った。
そしてあっと言う間に文化祭終了の時間に。
慌ただしく後片付けを終え、クラスの大半は打ち上げに向かった。
少数だけど校庭でやっている後夜祭に向かう人もいる。

、打ち上げ行かないの?」
「んー、明日早いし今回はパス」
「そっか。じゃあ、またねー」
「うん、バイバイ」

昇降口で打ち上げに行くクラスメイトを見送った後、氷室の姿が見えないことに気付く。

「あれ…」

どこに行ったんだろう。後夜祭に行ってるのかな。
そんなことを考えていると、ポケットの中の携帯が震えた。

「あ、氷室…」

受信したメールの差出人は氷室。
メールと開くと「教室に来て」と書かれていた。

「教室?」

なんで教室にいるんだろう。
そう思いながら階段を上って教室に向かった。





「氷室?」
「あ、

教室の中で氷室は窓の外を眺めていた。

「どうしたの?」
「なんだか、名残惜しくて。楽しかったから、文化祭」

窓の外では後夜祭がやっている。
これを見ていたのか。

「だったら、後夜祭行く?」
「いや、ここで見ていたい」

氷室がそう言うから、私も氷室の前の席に座って外の様子を眺めた。

「氷室も打ち上げ行かないの?」
「明日早いから」
「だよね」

3日間体育館が使えなかったこともあって、明日の練習は朝早くから。
打ち上げは遅くなるだろうから、去年は参加したけど今回はパスした。

、もう機嫌直った?」
「え?」
「昨日の」
「あ…」

昨日のことを思い出して顔を赤くする。

「うん、その、大丈夫」
「本当?」

昨日一緒に回ったおかげかどうかはわからないけど、氷室は昨日より女の子に注目されていなかったような気がする。

「それに、なんか言いたいこと言ったら軽くなったって言うか…」

勝手だけど、自分の気持ちをさらけ出したらずいぶんと心が軽くなった。
おかげで、昨日みたいにもやもやすることは少なくなった。

「そう?」
「う、うん。昨日はごめんね」
「どうして謝るの?謝ることなんて何もないよ」
「でも」
「オレは嬉しかったよ。が妬いてくれたのも、キスしてって言ってくれたのも」

氷室は優しく微笑むから、私は胸がきゅんとなる。

、こっち来て」
「え?」
「いいから」

氷室が私を手招きするから、席を立って氷室の座る席の隣に立つ。

「こっち」
「わっ!?」

ぐい、と手を引っ張られて、氷室の膝の上に座る格好になった。
わ、こ、これは…。

「ひ、氷室」
「ん?」
「な、なんか恥ずかしい」
「誰もいないよ」
「誰か来るかも」
「じゃあ、誰か来たら、足音がしたらすぐやめるよ」

視線を泳がせると、氷室は自分のおでこと私のそれをくっつける。


「う、うん」
「オレだって、いつも妬いてる」
「いつも?」
「部活で他の男と話すだけでも、オレは妬くよ」
「え、でも話さないわけには」
「わかってるよ。だから、どうしたらいいかわからないんだ」

氷室は私を優しく、だけど強く抱きしめる。

は可愛いから、他のヤツも好きになるんじゃないかっていつもヒヤヒヤしてる」
「わ、私そんなに可愛くないよ」

可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、私の顔はいいとこ平均レベルだと思う…!
そもそも、告白されたのだって氷室が初めてだ。

「そんなことないよ。すごく可愛い」
「そ、それは惚れた欲目ってやつだよ」
「いや、は最初から可愛かった」

あんまり可愛いと言われ続けるものだから、どんどん恥ずかしくなってくる。

「ひ、氷室、あの」
が可愛くて仕方ないよ。が可愛くて、好きで好きで、どうしたらいいかわからなくなる」

氷室の言葉に、心臓がドクンと跳ねる。

「好きだよ、
「…私も」

元々近かった顔と顔が、より近くなる。
目を閉じれば、唇に柔らかい感触。

「私も、一緒だよ」

「氷室が好きで、すごく好きで、どうしたらいいかわからないよ」

写真の氷室を見るだけでドキドキして、当然一緒にいればもっと心臓が高鳴って。
他の子と少し仲良くしてるのを見るだけでモヤモヤして。
どうしようもないくらい、持て余したこの気持ちをどうしたらいいかわからないくらい、氷室のことが好き。
こんなに強く思ってるのは、私だけかと思ってた。

「同じだ」
「うん」
「好きだよ」
「私も、好きだよ」

そう言って、またキスをする。
優しい感触。

「…んっ…」

「…もう一回」
「うん」

またキスをして、唇を離せばまたもう一回。
そんなふうに何度も何度も繰り返す。
ふと気付けば、窓の外からは騒がしいお祭りの音がする。

「…氷室、あの」
「ん?」
「誰か来たら、もうダメだからね」

私の言葉を理解した氷室は優しく笑う。

「わかってるよ」

後夜祭が始まった今、教室になんて誰も来ない。
そんなの、私も氷室もわかってる。
「誰か来たらやめて」は、「誰か来るまでやめないで」という意味。

「好きだよ」

キスをして、唇を離して角度を変えてまた唇を合わせる。
何度も何度もキスをして、頭が溶けそうになる。

後夜祭は、まだ始まったばかり。







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13.03.15