一刻も早く大人になりたいと思っていた。
とにかく大人になりたくて、強くなりたくて、ずっとずっとそう思ってきた。

のことを大切にしろ」

別れ際、アレックスにそう言われる。
そんなことはわかっている。当たり前だと頷いた。

「ホントか〜?」
「疑ってる?」
「…いいや。疑ってるわけじゃないさ」

アレックスは茶化すような表情を、優しいものに変えた。

「お前は好きなものにまっすぐだからなあ。まっすぐ過ぎて、好きなもののためにぶつかっていくだろ。
自分が傷ついてもな。それがな、怖いんだよ。ちゃんと自分を大切にしろ。
お前に何かあったら、家族や友達が悲しむし、私だって悲しい。
それに、お前が一番大切に思ってるが、とても悲しむことなる」

アレックスの言葉に、顔を下に向けてしまう。
優しい口調なのに、お説教されている気分だ。

「そういうことも含めて言ってるんだよ」
「…わかってるよ」

そう答えたけど、実際はわかっていなかった。
アレックスに言われて、初めて気付いた。

いや、きっと、わかっていたはずなのに、空回りしていた。

のことを大切にしたい、守りたい。
そう思っているはずなのに、きっとのことを一番泣かせているのも自分だと、心のどこかで気付いてた。

を悲しませるなよ。ちゃんと大切にしろ」

アレックスはいつも大雑把で適当なくせに、こういうときばっかりは正しいことを言ってくるから困るんだ。
そういうとき、いつも、アレックスは「大人」で、オレはまだ「子供」なんだと思い知らされる。

「でっかくなったなあ」
「うん」

アレックスはオレを抱きしめる。
今はオレのほうが大きいはずなのに、相変わらずアレックスの背中は大きかった。

、タツヤのことよろしくな」
「…はい」
「今度は二人でロスに来い。案内するよ」
「はい!」
「タツヤが迷子になって泣きそうになった道とか教えてやるぞ」
「アレックス!」

アレックスはからかうように笑ってる。
こういう子供っぽいところもある。だからアレックスといると困るんだ。

「じゃあなー!」

アレックスは電車に乗る。
しばらく、さよならだ。


「…辰也、寂しそう」

アレックスを見送った後、がそう言ってくる。

「…そんなことないよ」
「もう」

強がってそう言うと、がぎゅっと手を握ってきた。

「辰也、アレックスさんといると子供みたいだね」
「子供?」
「うん。なんか意地っ張りで、反抗的で、…ちょっと、小さく見える」
「……」

にまで言われてしまった。

「…だから嫌だったんだ、アレックスが来たって聞いたとき」

の顔を見ないで、下を向いて、小さい声で話す。

「もう子供じゃないって言いたいのに、アレックスといると子供だって思い知らされる」

もう子供なんかじゃない。
そう言いたいのに、「大人」のアレックスはそれをさせてくれない。
子供扱いされて、それに反抗して、わがままを言って。
こんなの、ただの駄々っ子だ。

「…一緒に大人になろうね」

の優しい声が、胸に響く。

「私たち、まだまだ子供で…みんなに心配かけてばっかりだから」
「…うん」
「早く大人になりたいけど、きっとすぐにはなれないし…ゆっくり、一緒にね」

の言葉に、涙が出そうになる。

「…

本当に、オレは。
たくさんの人に支えてもらって生きている。
一人じゃ生きられない、小さな子供だ。

「ね」

が微笑みかけてくれる。
心の中が温かくなる。

「…うん」

早く大人になりたい。強くなりたい。
そう思うけど、きっとすぐには、なれない。
だからと、一緒に大人になろう。

一歩ずつ、一緒に。












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14.07.04