「ここだ」

地主神社に着いた。
さっそくお参りだ。

「お参りなんて久しぶりだ」
「あ、そっか」

アメリカにいた時間が長かった氷室は神社に来るのも久しぶりだろう。

「やり方わかる?」
「…なんとなく。前の人の見て覚える」

氷室はお参りしている人たちをじっと見つめる。
なんだか私も緊張してきちゃった。

「あ、順番だよ」

二人で境内に行ってお賽銭を入れる。
氷室ともっと仲良くなれますように。
ずっとずっと、一緒にいられますように。
どうか、叶いますように。


「お守りも買おう!」

お参りが終わり、お守りが売っている場所に向かう。
恋のお守りだ。

「どれ?」
「これかな」

赤と青の、お揃いのお守り。
愛が育つお守りだ。

「お揃いだね」
「うん」

その言葉に胸が弾む。
氷室との、初めての「お揃い」だ。

「お参りもしたし、お守りも買ったし、きっと叶うよ」
「うん!」

ドキドキして、胸が痛くなって、苦しくなる度に、私はこの人が好きなんだと実感する。
氷室のことが大好きで、もっと近づきたい。氷室とずっと一緒にいたい。
そう思うのに。

「あ、おみくじ。引こうかな」
「そうだね」

お守りが売られている隣ではおみくじが置いてある。
せっかくだし引いてみたいけど…。

「……」
「どうしたの?」
「悪い結果が出たらどうしよう…」

おみくじで悪い結果だったらショックだ。
そう言うと氷室は笑った。

「あ、ひどい!本気で思ってるのに!」
「ああ、ごめん。違うんだ」
「?」
「かわいいなって思ったんだ」

氷室の言葉にぽっと顔が赤くなった。

「ま、またそう言うこと言うんだから…」
「本当だよ」
「…もう」

赤くなった顔が戻らない。
かわいいと言ってもらえるのはうれしいけど、恥ずかしい。

「引かない?」
「…ううん、引く!」

せっかくの機会だし、引こう。
悪い結果でも結んでおけば大丈夫なはず!

「……」
「わ、大吉だ!」

おみくじの結果は大吉だった。
うれしくなって氷室に見せてみる。

「よかったね。『素直になると吉』だって」
「素直…」
はもう素直だから大丈夫だね」
「そう?」
「うん。それにすぐ顔に出るし」
「…う」

図星を突かれて口をつぐんでしまう。
確かにわかりやすいって言われるけど…。

「氷室のおみくじは?」
「…あんまりよくない、んだよね?これ」
「え」

見せてもらうと、氷室のおみくじは末吉だ。
確かに、末吉ってあんまりよくない。

「でも内容よかったりすることもあるから…ええと、『時には我慢することも大切です』だって」
「我慢?」
「これ絶対今朝みたいなことだよ!」

今朝ふつうに公道で抱きついてきたし、いつも通行人がいようとお構いなしにキスしてくるし、きっとそういうことだ。

「我慢するの大切だって。わかった?」
「……」
「返事!」
「…努力します」

努力止まりですか、そうですか…。

「もう!」
「……」
「氷室?」

氷室はずいぶんと寂しそうな顔をしている。
心配になって声をかける。

「あんまりよくないね、結果」
「…氷室…」

悪かったらどうしようと言ったのは私の方なのに、氷室の方が落ち込んでしまった。

「あ…ほら、結べばいいんだよ。さっきも言ったでしょ?」
「あそこ?」
「うん。結んじゃおう」

氷室とおみくじが結ばれている場所に移動する。

「高い方がいいんだよ」
「じゃあ思い切り」
「うん」

氷室は一番高いところにおみくじを結ぶ。

のは?」
「私のは持ってるよ」

もう一度自分のおみくじを見る。
「大吉」の文字が、輝いて見える。

「これでね、末吉がなくなったから、私と氷室は大吉だよ!」

これでもう大丈夫。
高い声でそう言うと、氷室が私をぎゅっと抱きしめてきた。

「ひ、氷室!」
「そうだね」
「『そうだね』じゃない!が、我慢大事って書いてあったでしょ!」
「あのおみくじは闇に葬っただろう?」
「結ぶのってそういう意味じゃないからね!?ていうかなんか怖いよそれ!」

神社の中に私たちの声が響く。
ずっとずっと、こんな日々が続きますように。
もっともっと、氷室と仲良くなれますように。
…氷室が少しは我慢を覚えますように!










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14.08.08