地主神社のほかにもいろいろ回って、2日目終了。 たくさん歩いたから、今日はぐっすり眠れそうだ。 明日は体験学習がメイン。 私は八つ橋の他お菓子作り、氷室は陶芸をするらしい。 一日掛かりだから、明日はあんまり会えないな。 そんなことを思いながら眠りについた。 * 「おいしい!」 「ね、おいしく出来たね!」 友達と作った生八つ橋。 思っていたよりずっといい出来だ。 「わー、全部食べちゃいそう」 「いやいや、お土産の分もあるんだから」 家族の分と、あと、氷室の分。 そっと袋に取り分けた。 「氷室くんに全部あげちゃわないの?」 友達が悪戯っぽい笑顔で聞いてくる。 「全部はあげないよ」 「ほんと〜?」 「だ、だってお父さんもお母さんも楽しみにしてるし」 確かに食べてほしいけど、さすがに全部はあげられない。 …氷室もそんなに食べないよね? * 「あー今日も楽しかったね」 「ね。明日はもう帰るのかあ…」 早いもので、もう修学旅行3日目が終わろうとしている。 楽しい時間はあっという間とは本当だ。 「あれ、メール…」 机に置いてあった私の携帯が震える。 氷室からのメールだ。 そこには「少し出てこられる?」と書かれている。 「大丈夫だよ、と…」 まだ消灯時間まで大分時間があるので、そう返信する。 すぐに「旅館の入り口で待ってる」と返ってきた。 「ちょっと行ってくるね」 「氷室くん?いってらっしゃ〜い」 せっかくだから作ったお菓子も持っていく。 きっと喜んでくれるだろう。 * 「氷室!」 入り口へ行くと、氷室が笑顔で迎えてくれた。 「どうしたの?何かあった?」 「に会いたくなったんだ」 恥ずかしげもなく言う氷室に、顔が赤くなる。 「わ、私も…会いたかったよ」 精一杯の声でそう言うと、氷室は嬉しそうに笑った。 「少し外に出ようか」 「え、でも…」 当然、自由行動の時間以外旅館から出ることは禁じられている。 戸惑っていると、氷室は私の手を握った。 「大丈夫。旅館の敷地からは出ないし、ちゃんと消灯時間も守るよ」 そう言われれば、行かない理由はない。 私も氷室の手をぎゅっと握り返りした。 「寒くない?」 「ん、平気…」 「そう」 平気だと言ったのに、氷室は上着を肩に掛けてくれる。 「ありがとう」 「いいえ」 氷室には全部お見通しだ。 少し、くすぐったい。 「綺麗だね、星」 「うん」 備え付けられているベンチに座る。 上を見上げれば、綺麗な星空だ。 「秋田も綺麗だけど…こっちはまた違うね」 「秋田も綺麗?」 「うん」 そう言われると嬉しくなる。 私の育った街を、好きな人が好きだと言ってくれる。 「あ、そうだ。これ今日作ったの」 手に持っていた小包を渡す。 氷室はぱあっと表情を明るくした。 「が作ったの?」 「うん、今日の体験学習で」 「やった。食べてもいい?」 「いいけど…夕飯食べたばかりじゃない?食べられる?」 「あれじゃ足りないよ」 氷室はひとつ取り出して、大きく口を開けて食べる。 ドキドキする。 「おいしい!」 「本当?」 「うん。とっても。もったいなくて食べられないないかも」 「ふふ」 嬉しいことを言ってくれるから、自然と笑顔になる。 氷室はそっと私の肩を抱いた。 「可愛い」 「ひ、氷室」 「は笑った顔が一番可愛いね」 抱き寄せられる。 体がぐっと近くなって、心臓が跳ねる。 「…っ」 氷室の腕の中で目をぎゅっと瞑る。 心臓の音が、うるさいくらいに鳴っている。 「…?」 氷室は私の顔を見ると、少し体を離す。 「どうしたの?」 「え…?」 「苦しそうだ」 氷室は心配そうに私を見つめてくる。 私は自分の胸を抑えた。 「違う、違うの」 「」 「苦しいのは、本当だけど…でも、そうじゃないの」 氷室といると、胸がドキドキして、苦しくなる。 苦しくなるけど、違う。 「苦しいけど、すごく嬉しくて…近くにいるの嬉しくて、でも」 「」 「近くにいると、ドキドキして苦しくなって…でも、近くにいたくて、どうしたらいいか、わからなくなるの」 苦しくなる。胸が痛い。 苦しいから、離れなくちゃとそう思う。 だけど、離れたくない。 たとえ苦しくても、もっともっとそばにいたい。近付きたい。 「」 氷室は私の背中を優しく撫でる。 優しい感触に、心が少し落ち着く。 「苦しいけどね」 胸を抑えながら、必死に言葉を紡ぐ。 ちゃんと気持ちを伝えたい。 「嫌な苦しさじゃないの。嬉しいの。…わかる?」 氷室は優しく微笑む。 私の手をぎゅっと、優しく握った。 「わかるよ」 「…わかる?」 「オレも同じだから」 氷室は真っ直ぐ私を見つめる。 「といると、ドキドキして、苦しくなる。でも、嫌じゃない。すごく嬉しいんだ」 氷室の眼は真剣だ。 その眼で、ウソをついていないとわかる。 「…一緒だね」 「うん」 苦しいけど、決して嫌な気持じゃない。 ドキドキするたびに、この人が好きだと実感する。 「」 氷室の顔が近付く。 私はゆっくり目を閉じた。 唇に、温かい感触。 一番ドキドキして、苦しくて、幸せな瞬間。 ← top → 14.08.15 |