「こう?」
「そう。うまいうまい」
「うーん……」

バレンタインまであと一週間。
私はお菓子作りが得意な友人にチョコの作り方を教わっていた。

「そんなに心配?」
「だって失敗したのなんて絶対渡せないし」
が作ったやつなら失敗したやつでも氷室君喜んで食べてくれるんじゃない?」

…まあ、確かにそうかもしれないけど。
でもせっかくなんだからおいしいのを渡したい!

「やっぱり一番おいしいの、食べてもらいたいから!」
「はー…、氷室君幸せ者だねえ」
「?」
「いいわよ、いくらでも付き合ってあげる」
「ありがと!」

その日は友達に付き合ってもらってみっちり特訓した。
これできっと大丈夫!




2月14日。ついにバレンタインデーがやってきた。
鞄の中に辰也へ渡すチョコレートを忍ばせている。
今日も一緒に帰って辰也の部屋に行くだろうし、渡すのは放課後かな、なんて考えながら学校に着いた。

「……!」

昇降口に来て、辰也の下駄箱を見て口をぽかんとあけてしまう。
わりと早い時間なのに、辰也のげた箱の中にはチョコレートが詰められている。

辰也が女の子に人気なのはわかっている。
この寒い中でも、体育館に辰也を見に来る女子が絶えない。

だからって、こんなにもらうなんて…!

、おはよう」
「!」

下駄箱前で立ちすくんでいると、後ろから辰也の声がした。

「お、おはよう」
?」
「わ、私先行くね!」

乱暴に靴を脱いで、上履きはかかとを踏んだ。
普段はこんなことしないけど、ここに長居したくない。
辰也があのチョコレートを鞄に詰めるところなんて、見たくない。





「はあ…」

教室に着いて自分の机に鞄を置く。
多分、辰也の机の中にもチョコレートはあるんだろう。

辰也が私だけを想ってくれているのは知っている。
だけど、そういう問題じゃないんだ。

「…はあ」

もう一度ため息を吐く。
私は、欲張りだ。

まだHRが始まるまで時間がある。
トイレにでも行って、頭をすっきりさせよう。

「あ」
「わっ」

教室の外に出ようとしたら、扉のところに立っていた女子生徒とぶつかってしまった。
たぶん一年生だ。

「どうしたの?何か用?」

そう聞くと、女の子が顔を上げる。
彼女はずいぶんと驚いた顔をした。

「!」
「誰かに用?」
「な、なんでもないです…」

女の子は私の顔を見ると慌てて駆け出してしまった。
まずいことをした。すぐにそうわかった。

彼女は小さなかわいらしいラッピングの箱を持っていた。
誰かにチョコレートを渡しに来たんだろう。

相手が誰かは、嫌でもわかる。

あの子は私の顔を見て、悲しそうな顔で逃げ出してしまった。
私と辰也が付き合っていることは、今や学校中に知れ渡ってる。

「……」

心の中で彼女に謝ろうとして、やめた。
それは何か違う気がした。










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14.08.28