「はい、敦チョコあげる」
「わーちんありがと〜」

部活の前、部員の皆にチョコを配る。
チョコと言っても、本当に小さいもの。
昨日、辰也へのチョコを作るときに一緒に作ったものだ。
その辰也は今監督と話していていないけど。

「劉もね」
「……」
「どうしたの?」

劉にもチョコを渡そうとするけど、劉は黙ってしまって受け取らない。

「これ受け取ったら氷室に殺されそうアル」
「え」

劉は真剣な眼で私の手の中のチョコレートを見つめる。

「いや、さすがにそこまで…」
「あー、確かにそうかもね」
「それなのに食べるアルか」

敦は劉の言葉に賛同しつつも、私のチョコレートを早速食べている。

「お菓子食べたいし。それに室ちん今日はちんに文句言えないでしょ」
「?」
「自分だっていっぱいチョコレートもらってんじゃん。ちんにさびしそーな顔させて」

敦の言葉に、私は思わず下を向いてしまう。

「…別に…」
「いいの?」

よくはない、けれど。
でも、辰也のせいじゃないし…。

「ふうん」
「それもそうアルね。ワタシももらうアル」
「ん、どうぞ」

そう言って劉にもチョコレートを渡す。
先週友達に特訓してもらったし、それなりに自信はある。

「ようお前ら」
「先輩」

劉たちと話していたら、部室のドアが開いた。
岡村先輩と福井先輩だ。

「よく来るね〜ほかにやることないの?」
「うるせ」
「進路の決まった3年じゃ暇なんじゃ」

二人とも二学期のうちに進路は決まっていたから、今は暇を持て余しているようだ。
体がなまる、なんて言ってしょっちゅう部活にも顔を出している。

「お二人とも、これどうぞ」
「おお!さすがじゃ!」
「サンキュー」

二人とも嬉しそうに受け取ってくれた。
よかった。

「ちょっとゴリラ喜び過ぎアル。義理どころか氷室のおまけアルよ」
「うるさいわい!0と1じゃ天と地ほど違うんじゃ!」
「落ち着けよゴリラ」

いつものみんなのやり取りに思わず笑みがこぼれる。
さて、そろそろ部活の準備をしないと。





「……」

部活中も、私の気は晴れない。
晴れないどころか、どんどん曇って行く。
というのも、体育館の入口にたくさん出来たギャラリーだ。

「すげーな、氷室」
「!」

下を向いていると福井先輩が話しかけてきた。

「すげーチョコもらってんじゃん。いいのか?」
「……」
「よくねーんだな」

福井先輩は私の頭をぽんと叩いた。

「…よくないです、けど」
「おう」
「…直接渡してくるのは断ってくれてるし、これ以上は何も言えないです」

例えば呼び出されたりして直接渡されたものは全部断ってくれているようだ。
そこまでしてくれているんだから、それ以上は辰也には言えない。
ただちょっと、もやもやするだけ。

「あんまり溜めこみ過ぎんなよ」
「…ありがとうございます」

福井先輩は優しく笑ってくれる。
本当に、大したことじゃない。
ほんの少し、黒い気持ちがよぎるだけ。

「先輩、どこ行くんですか?休憩終わっちゃいますよ」
「鞄教室に置きっぱなしでよ。財布入ったままだし取って来るわ」

そう言って福井先輩は体育館から出ていく。
彼の背中に向かってもう一度心の中でお礼を言った。










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14.09.05