「ここだぜ」 「!」 大我くんに案内され彼の家に着いてたまげる。 ひ、広い…!一人暮らしって聞いてたのに! 「……」 「どうした?」 「大我くん、ここ一人で住んでるの?」 「ああ、いろいろあって…あ、タツヤこっちの部屋な」 「ああ」 一人暮らしだと言うからてっきりワンルームかと思っていたら、いくつも部屋がある。 辰也は荷物を持って案内された部屋へ。 「私のはリビングに置かせてもらっていい?」 「ああ、大丈夫っすよ」 「ありがとう」 リビングの端のほうに荷物を置かせてもらう。 このリビングだって相当広い。 あまりじろじろ見るのはよくないと思いつつ、あまりの広さに観察してしまう。 東京って土地高いんじゃなかったっけ…、なんて余計なことを考える。 「んじゃ行くか」 「ああ」 「うん」 手荷物だけ持って、大我くんの家を出た。 * 「あ、バスケしてる」 駅に向かっていると、ストバス場で私たちと同じ年ぐらいの男の子たちがバスケをしている。 大我くんの家に行くときは誰もいなかったけど。 「……」 「……」 辰也と大我くんは、とてもうずうずした顔をしている。 いかにも、「バスケしたいです!」という顔。 「……」 「……」 二人とも何も言わないけど、バスケがしたいんだろう。 確かに二人でバスケをする機会なんてなかなかないだろうし。 でも…。 「…ね、二人ともバスケしたいんでしょ?」 そう聞くと、大我くんはこっちがびっくりするぐらい慌てた。 「え!?いや、んなこと」 「…そんなことないよ。行こう?」 辰也は優しい声でそう言うけど、きっと二人とも我慢してる。 二人とも、嘘が下手なんだから。 「私のことは気にしないで。…っていうか」 「?」 「東京タワーより、二人がバスケしてるところのほうが見たいの」 辰也と大我くんがバスケする機会なんてそうそうない。 東京タワーは逃げないし、私だって二人のプレーを見たい。 「本当にいいの?」 「私に気を使うんなら、早くプレーして!」 辰也はじっと私の顔を見ると、ふっと表情を緩めた。 私の言葉が嘘じゃないとわかったんだろう。 「…うん、わかった。ありがとう」 「サンキューな!」 「あ、でもその代わりね」 生き生きする二人を呼んで、少し小声で話す。 「部のみんなには内緒ね。うち、草試合禁止だから」 そう、うちの部は草試合禁止なのだ。 だから少しためらってしまったけど、こんな貴重な機会、逃すのはもったいない。 「ああ、そういや前に紫原がそんなこと言ってたな」 「そうだっけ?」 「…タツヤ……」 辰也はとぼけてみせる。 辰也ってば…。まあ、大丈夫だとは思うけど。 …遠いし、みんなにはバレないよね? 「なあ、入れてもらっていいか?」 辰也と大我くんはバスケしている人たちに躊躇いなく話しかける。 多分、彼らにとってはボールが言葉なんだろう。 「おー、いいぜ。ずいぶんでかいやつだな」 「チーム分けどうしてる?」 「んー…今7人いて3on3ローテーションで回してるから…」 「じゃ、適当にローテ突っ込んでくれよ」 二人はバスケしていた男の子たちと簡単に打ち解ける。 さすがだなあ。 私は…そうだ、飲み物買ってこよう! * 「パス!」 「タツヤ、そっちだ!」 飲み物を抱えて帰ってくると、辰也と大我くんが同じチームで試合をしている。 二人とも、とってもうれしそうだ。 「お疲れ」 「ああ、飲み物買ってきてくれたんだ。ありがとう」 時間になったのか、辰也が抜けてこちらに来る。 渡したスポーツドリンクを一気飲みしている。 「うれしそうだね」 「?」 「大我くんとバスケできて」 WCのときはいろいろあったし、敵として対戦する形だった。 アメリカにいた頃も、違うチームで対戦することが多かったみたいだし、同じチームでバスケをすると言うのは本当に久しぶりなんだろう。 「…そうだね。楽しいよ」 辰也はまぶしそうな目で大我くんを見る。 その目を見て、私は半ば無意識に辰也の手を握った。 「バスケすることにしてよかった。こんな辰也、なかなか見られないもの」 「…うん。懐かしいな…同じチームでバスケするのなんて何年ぶりだろう」 辰也は首にかけたリングに触れる。 「…久しぶりの感覚だ」 辰也は一回瞬きをする。 そうこうしている間に、大我くんがやってきた。 「あー、疲れた」 「お疲れ、これどうぞ」 「おー、ありがとッス」 大我くんはドリンクをごくごくと飲み干してしまう。 「タツヤ、あれすげーな!どうやってやんだ!?」 「夏にはまた戦うかもしれないのに言うわけないだろ」 「あ、そっか…」 大我くんはしょんぼりした顔になる。 WCのときに見たときとは少しイメージが違う。 なんというか、素直な子だ。 「あ、オレもう交代だ」 「おお」 辰也は伸びをしながらコートに戻っていく。 大我くんは私の隣に座った。 「大我くん」 「ん?」 「ね、辰也って昔どんな感じだったの?」 大我くんと二人きりになったら聞きたいと思っていたことだ。 アレックスさんから少し聞いたけど、きっと大人から見たものと同年代から見たものでは違うだろう。 「タツヤはな、すっげーんだよ!」 大我くんはまたさっきのきらきらした笑顔になる。 眩しい、太陽みたいな笑顔だ。 「バスケもうまいし、頭もいいし、いろんなこと知ってんだ。すげーんだよ!」 大我くんはうれしそうにそう話す。 皮肉ではなく、純粋に本心でそう思っているんだろう。 なんとなく、辰也の気持ちが分かった気がする。 「辰也のこと、大好きなんだね」 「ああ、だって兄キだし!」 「そっか」 大我くんは辰也のことを純粋に慕っている。 それはきっと、辰也も同じだろう。 だけど、辰也は大我くんの才能に嫉妬したり、悔しくなったり、だけど、それでも大我くんのことを大切な弟だと思っているから、複雑な気持ちで、苦しくなってしまった。 …辰也…。 「あー、疲れた!全員ちょっと休憩しようぜ」 私たちが来る前からいた人たちと一緒に辰也がコートから引き上げてくる。 ちょっとお休みのようだ。 「辰也、また飲み物買ってこようと思うんだけど一緒に来てくれない?」 先ほど買ってきた飲み物はあっという間になくなってしまった。 一人で持つには限界があるし、辰也に手伝ってもらおう。 辰也と話したいこともあるし。 「いいよ」 「うん、ありがと」 「宜しくっす〜」 大我くんたちにそう言われながら、辰也と二人でコートを出る。 私はぎゅっと辰也の手を握った。 「?」 「大我くんは辰也が大好きなんだね」 そう言うと、辰也は笑った。 少し、寂しそうな顔で。 「そうだね。タイガはわかりやすいから」 大我くんの話を聞いて、少しだけ辰也の気持ちがわかった気がする。 「辰也、あのね」 大我くんは辰也が大好きで、羨んでいて、彼はそれを素直に言う。 辰也も大我くんが大好きで、羨んでいて、でも辰也はを言えない。 「何かあったら、いつでも聞くからね」 ぎゅっと辰也の手を握る力を強めた。 「ううん、何にもなくてもいいよ。いつでも頼ってね。私はいつも、辰也の傍にいるから」 さっきの大我くんを見る辰也の眩しそうな目を思い出す。 「、大丈夫だよ」 辰也は私に優しく笑いかける。 「が隣にいてくれるなら、オレは大丈夫だから」 辰也は私の額にキスをする。 それならいいの。 「じゃ、どれにしようか」 コンビニについて、飲み物の棚の前で物色する。 「これ買おう。タイガが好きなんだ」 そう言って辰也はペットボトルを一本手に取る。 辰也の表情がとても嬉しそうな顔だから、私も思わず嬉しくなった。 ← top → 14.10.10 |