「あー、疲れた」
「お疲れさま」

あれから日が沈むまでバスケして、辰也と大我くんはもうくたくただ。

「あー、もうこんな時間か」 「お腹空いたね」
「どこか入る?」
「んー…この時間どこも混んでんだよな」

大我くんの言うとおり、ぱっと見た限りどのお店も満席のようだ。

「どうする?ちょっと待つか?それともオレん家で食ってもいいけど。なんか作るし」
「えっ?」
「?」
「大我くんがご飯作るの?」

見た目で人を判断するのはよくないけど、大我くんは料理できるように見えない…。
素っ頓狂な声を出すと、辰也が口を開いた。

「タイガ、料理うまいんだよ」
「そうなんだ…」
「アメリカいたときも結構やってたけどな。今は一人だからやんなきゃまともな飯食えねーし」

そっか、一人暮らしだからできないとまずいのか。
それにしてもすごいなあ。

「でもいいの?大我くん大変でしょ?」
「別に。いつも自分のためだけに作ってっからたまにはこういうのも」
「そっか。じゃあタイガにご馳走になろうか」
「うん。ありがとう、大我くん」

ということで、夕飯は大我くんの家でご飯だ。




「なんか苦手なもんとかあるか?」 「大丈夫」
「んじゃ…ハンバーグ作れっかな」

大我くんは冷蔵庫の中身を吟味しながらそう呟く。

「大我くん、手伝おうか?」

荷物も置かせてもらってご飯も全部やってもらっては申し訳ない。
そう思って声をかけてみる。
大したことはできないけど、足手まといにはならない…はず。

「ダメだよ」
「え?」

大我くんに言ったのに、なぜか今答えたのは辰也だ。

「なんで?」
「やだなあ、二人で台所に立つなんて許すわけないだろ」

辰也は笑顔で、でも笑っていない目でそう言う。
そ、そういうこと…。

「あー、いい平気」
「なんかごめんね…」
「大丈夫だって」

大我くんは半ば呆れたように言う。
仕方ないのでリビングに戻ってソファに座った。
辰也は大我くんに断りなくテレビをつけて、棚を物色する。
…なんか、いいな。昔からの付き合いって感じだ。

「タイガの部屋って何もないよな」
「そうか?よく言われるけど」
「バスケバカって感じだ」
「バカにしてねーか!?」
「褒めてるよ。タイガのいいとこだ」

二人が楽しそうに会話しているので、私はテレビを見ることにした。
秋田じゃやっていないバラエティだ。





「できたぜー」

キッチンからいい匂いがしてくると思ったら、ご飯ができたようだ。
できあがったハンバーグは、とてもおいしそう。

「すごいね…」
「そうか?いただきまーす」

いい匂い、見た目もばっちり。
いくら一人暮らしだからって、これはすごいよ…。

「いただきます」

そう言って一口食べる。
…!!

「……」
「あれ、どうした?もしかしてまずかったか!?」
「いや、あの、おいしいの…」
「…?」
「…タイガ、彼女いる?」
「へ?いないけど…」

固まる私の隣で、辰也が苦笑する。

「できても料理作ってあげないほうがいい。少なくとも、付き合ってすぐはね」
「は!?なんでだよ!やっぱまずいのか!?」
「おいしいからだよ」
「…?」
「女の子にもプライドがあるから。相手が自分より料理得意だったらショックだよ。だからだってフリーズしてるんだ」
「…?プライド?」
「タイガにもあるだろ?男のプライド。女の子にだってあるんだよ」

辰也と大我くんの会話をフリーズした頭で聞く。
…料理、がんばろう……。






「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま」
「お粗末さん」

フリーズしたりもしたけど、大我くんの作ってくれたご飯を無事完食。
とってもおいしかった!

「片付けするよ」
「オレも」
「え?いいって二人とも」
「ご馳走になったし、オレは泊めてもらうんだし」
「あー…じゃ、よろしく」

辰也と二人で食べ終わったお皿をキッチンに持っていく。
二人で片付けだ。

「ね、大我くん。どうやってそんなに料理うまくなったの?」

お皿を洗いながら、リビングにいる大我くんに聞く。
コツがあるなら是非ともご教授願いたい。

「どうって…ふつうに作ってたらこうなったけど」
「うーん…」
「大丈夫だよ。のご飯は世界で一番おいしいから」

大我くんとの会話に辰也が唐突に割り込む。
いや、そういうこと言ってるんじゃないの!

「辰也!」
「あーあー、いいって。ごちそうさん」

大我くんは呆れた声で話す。
…辰也ってば…!

「そういや、タツヤ明日予定あんの?」
「いや、何も」
「えーっと…」

大我くんは私を見る。
多分私の予定を聞きたいんだろう。

「私?私はいとこの結婚式に行くの」
「あー、なるほど。オレ明日部活なんだよなー」
「いいよ、一人で適当にぶらつくから」
「そっか。せっかくこっち来たんだしいろいろ遊びたかったけど…またっつっても秋田遠いし」
「ああ。まあ来年からはこっち来る予定だし」
「そうなのか?」
「大学、受かればね。オレもも」

私も辰也も大学はこっちの学校に進学予定だ。
受かれば二人ともこちらで暮らすことになる。

「へー、二人で住むのか!?」
「えっ!?ち、違うよ!」

大我くんが突然そんなことを言うから、真っ赤になって否定する。
な、なに言ってるの!?

「違うの?」
「!?」

腕をぶんぶんと振って否定していると、隣の辰也までそんなこと言ってくる。
驚いて辰也を見上げた。

「違うでしょ!?」
「オレは一緒がいいな」
「!!」

顔がどんどん真っ赤になっていく。
一緒、一緒って…!

「朝から晩まで一緒だ。夜寝る前に最後に見る顔も、朝起きたとき一番に見る顔も、お互いならきっと幸せだ」

辰也は優しい笑顔でそう言う。
わかるんだけど、でも、でもね…!

「…あのー…」
「!?」
「皿洗わないんなら、代わるッスけど」
「!あ、ご、ごめん…」

完全にお皿を洗う手が止まっていたことを火神くんに指摘される。
今洗ったら割りそうだし、代わってもらおう…。

「タツヤ、あんまやりすぎんなよ」
「なにが?」
「…いや、まあ、いいんだけど…」

キッチンから退散して、リビングで火照った顔を冷ます。
辰也と一緒に暮らす、かあ…。
いつかそんな日が来たらいいなあとは思っていたけど、でも、来年って…。

…毎日、朝から晩まで一緒で、夜寝る前に最後に見る顔が辰也で、朝起きて一番最初に見る顔が辰也で…。
嬉しい、けど。お父さんとお母さんのこともあるし…。


「!」
「そろそろホテル行かないとまずいんじゃないか?」
「あ、そっか…」

リビングでぼーっと考えていると、辰也に話しかけられる。
時計を見ればもういい時間だ。

「ああ、もう行くのか」
「うん。大我くん、いろいろありがとう」
「ああ。またいつでも来いよ」
「ホテルまで送っていくよ」
「帰り迷わねーか?」
「迷ったら電話する」

帰り支度をして大我くんにお別れを言う。
少しの間だけど、楽しかった。

「じゃあね。またきっと来るよ」
「おー」

大我くんに手を振って彼の家を出る。
とても楽しい時間だった。
またきっと来よう。

「こっち?」
「うん」

辰也と手をつないで、地図を見ながらホテルへ向かう。
さっきメールが来たからおばさんたちはもう着いているはずだ。

「結婚式、ドレス着るんだろ?」
「うん。一応ね」
「写真撮ってきてね。のドレス見たいな」 「うん」

ちょっと恥ずかしいけど、せっかく着るんだし辰也にも見てもらいたい。

「辰也、明日は一人なんだよね?」
「ああ、タイガは部活だし仕方ないな。適当にぶらつくよ」
「そっか…明日終わったらメールするね」
「うん。駅で待ち合わせしよう」

明日の帰りも同じ電車の予定だ。
一泊しかできないのは寂しいけど、仕方ない。

「今日本当楽しかったよ。大我くん、ちょっと印象と違ったなあ」
「そう?」

WCで見たときは顔つきの印象のせいかもっと豪快な子かと思っていた。
だけど話してみると優しい子だった。

「優しいね、大我くん。彼女いないって言ってたけど、できたらその子幸せ者だね」

きっと大我くんは彼女のこととても大切にするだろうし、大我くんの彼女はきっと幸せだろうな。
もし彼女が出来たら会ってみたいな。
そんなことを思っていると、辰也が私をじっと見つめてくる。

「辰也?」
「タイガはいいやつだけど」
「うん」
「好きになっちゃだめだよ」

辰也の顔は真剣そのものだ。
まさかそんなことを言われると思わず、思いっきり笑ってしまった。

「あはは!」
「笑い事じゃないよ」
「ごめんごめん」

辰也は確かに真剣なんだろうけど、私からしてみれば冗談みたいなものだ。
だって、そんなことあるわけないのに。

「私には辰也だけだよ」

辰也に寄り添って、噛みしめるように言った。
私には、辰也だけ。
こんなふうに甘い胸の痛みを感じるのは、辰也のことを考えているときだけだよ。

「これからずーっと、辰也だけ」

これから何が起きたって、私には辰也だけだ。
辰也以外を好きになる未来なんて想像できない。
心配することなんて、どこにもない。

「約束だよ」
「辰也もね」
「もちろん」

ぎゅっと手を握りなおす。
ずっとずっと、辰也だけだよ。










 top 
14.10.17