今日はいとこのお姉ちゃんの結婚式だ。 「ちゃん!」 「お姉ちゃん、おめでとう!」 「ふふ、ありがとう」 ウェディングドレスを着たかなでお姉ちゃんは、とっても綺麗だ。 「お姉ちゃん、綺麗だね」 「ありがとう。ちゃんも綺麗よ。大きくなったわね」 お姉ちゃんは就職と同時に上京してしまったから、会うのは久しぶりだ。 優しく微笑まれるとたくさん遊んでもらったあのときを思い出す。 今思えば、私はあの頃のお姉ちゃんの年齢に近付いているんだ。 「次はちゃんの番かな?」 「あはは、さすがに気が早いよ」 「あら、そうなの?」 お姉ちゃんの言葉に笑って見せる。 …さすがに早いよね? * 「辰也!」 「」 結婚式が終わり、駅に着くとそこにはすでに辰也がいる。 「大我くんは?」 「最後に少しバスケしてきた」 「そっか。楽しかった?」 「うん。も結婚式、どうだった?」 「あのね、とってもよかったの!」 少し興奮気味にそう話す。 本当に、本当に良かった。 「もうすぐ電車の時間だから、電車の中で話そう」 「うん!」 そう言って辰也と手を繋いで歩き出す。 電車が来るまでの間、辰也がじっと私を見つめてくる。 「どうしたの?」 「いや、なんか…。ああそうか」 辰也は不思議そうな顔をした後、指で私の頬を撫でた。 「少し化粧してる?」 「あ、うん」 まさか気付いてくれるとは思わなかった。 今朝おばさんに手伝ってもらってやったけど、あまり濃いメイクじゃない。 「素顔も可愛いけど、こっちも可愛いね」 「ありがと」 校則で化粧の類は禁止だから、今までメイクをしたことはほとんどない。 辰也に変に思われないかが一番心配だったけど、そう言ってくれて安心した。 卒業したらもっとちゃんとやってみたいし、辰也が気に入ってくれるのなら嬉しい。 「あ、来た」 待っていた電車が来る。 辰也と一緒に電車に乗って、指定の席に着く。 カバンから携帯を出して、今日の写真を見せた。 「、ドレス姿可愛いね」 「ありがとう」 辰也に可愛いと言ってもらえるのは少し恥ずかしいけど、とても嬉しい。 普段しない格好を見せるのは照れるけど、辰也はいつも恥ずかしさを全部なくすような、私を喜ばせる言葉をくれる。 「お姉さん、とっても幸せそうだね」 「うん!」 とても幸せなお式だった。 幸せな空間で、思わず泣いてしまった。 「?辰也?」 辰也は私をじっと見つめる。 「…が、ウェディングドレス着てるところ想像したんだ」 辰也の言葉に顔が赤くなる。 その想像の中の二人は、当然「私と誰か」じゃない。 「私と辰也」だ。 「きっと、世界で一番綺麗な花嫁さんになるね」 「辰也は世界で一番かっこいい花婿さんだね」 そんな日が来るのはいつなんだろう。 すごく近かったりするのかな。 「結婚式、大我くんも呼ぼうね」 そう言うと辰也は嬉しそうな顔をした。 「そうだね。きっと自分のことみたいに喜んでくれる」 「辰也、嬉しそう」 「?」 「やっぱり、大我くんは大切な弟なんだね」 そう言って辰也の手を握る。 大我くんの話をするとき、辰也は複雑そうな顔をすることが多い。 だけど、いつもどこか優しさを秘めた表情だ。 「…そうだね。タイガはいいやつだから。そういうのすごく喜ぶんだよ。まっすぐで、がむしゃらで、バス ケに対してもいつだって真剣で。オレとは全然違う」 「そう?そっくりだよ」 「そうかな…」 「辰也だってまっすぐだもの。がむしゃらで、真剣で…結構似てるよ」 もちろん似ていないところだってたくさんあるけど、似た部分もたくさんある。 二人とも優しくて、まっすぐで、がむしゃらで、真剣で、バスケが大好きで…数え上げればきりがないほどだ。 「もちろん、違うとこもあるけどね」 そう言うと、辰也は目を伏せた。 ほんの少し、悲しさを含めた表情で。 「…タイガは本当に一直線でさ。オレがいろいろ考えている間に、タイガは難しいこと何も考えないでオレを飛び越えていくんだ。そういうところが、うらやましい」 辰也の手をもう一度強く握りなおした。 考える前に言葉が溢れる。 辰也に言いたいことが、自然に零れるように。 「辰也はいろんなこと考えて行動するもんね。自分にも周りにも何が一番いいか考えてる。私は辰也のそういうところ、好きだよ」 辰也は少し驚いた顔をして、私の肩を抱き寄せる。 そして囁くような声で言った。 「ありがとう」 辰也。私はね。他の誰でもない、氷室辰也が好きだよ。 まっすぐで、がむしゃらで、真剣で、不器用で、優しくて、自分の好きな人を優先してしまう。 そんな辰也が、好きなの。 「好きだよ」 辰也と大我くんは、とても似ている。 バスケが大好きで、まっすぐで、がむしゃらで、優しくて、負けず嫌いで。 一見正反対な二人だけど、よく見るととても似ている。 似ているからこそ、余計に差を感じてしまうんだろう。 私はね、辰也が好きだよ。世界中の誰よりも。 ううん、比べるなんてできないぐらい、特別なんだよ。 ← top 卒業編→ 14.10.24 |