今日はいとこのお姉ちゃんの結婚式だ。


ちゃん!」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「ふふ、ありがとう」

ウェディングドレスを着たかなでお姉ちゃんは、とっても綺麗だ。

「お姉ちゃん、綺麗だね」
「ありがとう。ちゃんも綺麗よ。大きくなったわね」

お姉ちゃんは就職と同時に上京してしまったから、会うのは久しぶりだ。
優しく微笑まれるとたくさん遊んでもらったあのときを思い出す。
今思えば、私はあの頃のお姉ちゃんの年齢に近付いているんだ。

「次はちゃんの番かな?」
「あはは、さすがに気が早いよ」
「あら、そうなの?」

お姉ちゃんの言葉に笑って見せる。
…さすがに早いよね?






「辰也!」


結婚式が終わり、駅に着くとそこにはすでに辰也がいる。

「大我くんは?」
「最後に少しバスケしてきた」
「そっか。楽しかった?」
「うん。も結婚式、どうだった?」
「あのね、とってもよかったの!」

少し興奮気味にそう話す。
本当に、本当に良かった。

「もうすぐ電車の時間だから、電車の中で話そう」
「うん!」

そう言って辰也と手を繋いで歩き出す。
電車が来るまでの間、辰也がじっと私を見つめてくる。

「どうしたの?」
「いや、なんか…。ああそうか」

辰也は不思議そうな顔をした後、指で私の頬を撫でた。

「少し化粧してる?」
「あ、うん」

まさか気付いてくれるとは思わなかった。
今朝おばさんに手伝ってもらってやったけど、あまり濃いメイクじゃない。

「素顔も可愛いけど、こっちも可愛いね」
「ありがと」

校則で化粧の類は禁止だから、今までメイクをしたことはほとんどない。
辰也に変に思われないかが一番心配だったけど、そう言ってくれて安心した。
卒業したらもっとちゃんとやってみたいし、辰也が気に入ってくれるのなら嬉しい。

「あ、来た」

待っていた電車が来る。
辰也と一緒に電車に乗って、指定の席に着く。
カバンから携帯を出して、今日の写真を見せた。

、ドレス姿可愛いね」
「ありがとう」

辰也に可愛いと言ってもらえるのは少し恥ずかしいけど、とても嬉しい。
普段しない格好を見せるのは照れるけど、辰也はいつも恥ずかしさを全部なくすような、私を喜ばせる言葉をくれる。

「お姉さん、とっても幸せそうだね」
「うん!」

とても幸せなお式だった。
幸せな空間で、思わず泣いてしまった。

「?辰也?」

辰也は私をじっと見つめる。

「…が、ウェディングドレス着てるところ想像したんだ」

辰也の言葉に顔が赤くなる。
その想像の中の二人は、当然「私と誰か」じゃない。
「私と辰也」だ。

「きっと、世界で一番綺麗な花嫁さんになるね」
「辰也は世界で一番かっこいい花婿さんだね」

そんな日が来るのはいつなんだろう。
すごく近かったりするのかな。

「結婚式、大我くんも呼ぼうね」

そう言うと辰也は嬉しそうな顔をした。

「そうだね。きっと自分のことみたいに喜んでくれる」
「辰也、嬉しそう」
「?」
「やっぱり、大我くんは大切な弟なんだね」

そう言って辰也の手を握る。
大我くんの話をするとき、辰也は複雑そうな顔をすることが多い。
だけど、いつもどこか優しさを秘めた表情だ。

「…そうだね。タイガはいいやつだから。そういうのすごく喜ぶんだよ。まっすぐで、がむしゃらで、バス ケに対してもいつだって真剣で。オレとは全然違う」
「そう?そっくりだよ」
「そうかな…」
「辰也だってまっすぐだもの。がむしゃらで、真剣で…結構似てるよ」

もちろん似ていないところだってたくさんあるけど、似た部分もたくさんある。
二人とも優しくて、まっすぐで、がむしゃらで、真剣で、バスケが大好きで…数え上げればきりがないほどだ。

「もちろん、違うとこもあるけどね」

そう言うと、辰也は目を伏せた。
ほんの少し、悲しさを含めた表情で。

「…タイガは本当に一直線でさ。オレがいろいろ考えている間に、タイガは難しいこと何も考えないでオレを飛び越えていくんだ。そういうところが、うらやましい」

辰也の手をもう一度強く握りなおした。
考える前に言葉が溢れる。
辰也に言いたいことが、自然に零れるように。

「辰也はいろんなこと考えて行動するもんね。自分にも周りにも何が一番いいか考えてる。私は辰也のそういうところ、好きだよ」

辰也は少し驚いた顔をして、私の肩を抱き寄せる。
そして囁くような声で言った。

「ありがとう」

辰也。私はね。他の誰でもない、氷室辰也が好きだよ。
まっすぐで、がむしゃらで、真剣で、不器用で、優しくて、自分の好きな人を優先してしまう。
そんな辰也が、好きなの。

「好きだよ」

辰也と大我くんは、とても似ている。
バスケが大好きで、まっすぐで、がむしゃらで、優しくて、負けず嫌いで。
一見正反対な二人だけど、よく見るととても似ている。
似ているからこそ、余計に差を感じてしまうんだろう。

私はね、辰也が好きだよ。世界中の誰よりも。
ううん、比べるなんてできないぐらい、特別なんだよ。












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14.10.24