「あ、岡村先輩!」

商店街で部の備品の買い出し中、岡村先輩に会った。
もう放課後ではあるけど、制服を着ているからこれから学校に行くんだろう。

「おう、。買い出しか?」
「はい。岡村先輩は部に顔出すんですか?」
「いや、ちと担任の先生に用があってのう」

そうか。部には来ないのか。
ちょっと寂しいな。

「それ重いじゃろ。持つぞ」
「あ、大丈夫ですよ!」
「いいんじゃいいんじゃ、力だけが自慢だからの」

岡村先輩は私の手にあるレジ袋を持ってくれる。
優しいな。

「先輩、学校に何の用なんですか?」
「卒業式のことでな」

卒業式。
その響きに、胸の奥が痛んだ。

「?、どうした?」
「…もうすぐなんですね、卒業式」

もう暦は3月。
陽泉の卒業式は周りの学校より遅めではあるけど、それでももうあと少しだ。

「そうじゃな。寂しいの…」
「…はい」
「卒業したらそうそう来れなくなるからのう」

岡村先輩はじめ、進学組の先輩たちはほとんど秋田から離れる。
就職する人たちは地元の人も多いけど、忙しくなるだろうし卒業した母校に来るチャンスはそうそうないだろう。

「先輩たちがいないと不安ですね」

今でもときどき顔を出してくれるから、未だ部で最上級生という自覚は正直あまりない。
よくないことだとわかっているけど、ついつい優しくて頼りになる先輩に甘えてしまう。
でもこれからそんな先輩たちはいなくなる。
部の人たちは個性的な人が多いから、不安が大きいことを漏らすと岡村先輩は笑った。

「お前らなら大丈夫じゃろ」
「でも」
「ワシはなんも心配しとらんぞ」

岡村先輩は私の頭をクシャリと撫でる。
大きくて、安心する手だ。

「手のかかるやつらだったがのう、やるときはやることを知っとるし、お前らなら大丈夫じゃ」

岡村先輩が優しい目で私を見つめてくる。
胸の奥が締め付けられた。

「…すみません、弱音吐いちゃって…」
は入部して半年ぐらいしか経っとらんし、女子一人じゃからのう。不安になるのも仕方ないじゃろ。ま、どうしても不安になったら連絡して来い。相談くらい乗ってやるぞ」
「はい!」

本当に優しい先輩だ。
からかわれることも多いけど、優しくて、包容力があって、いつも私たちを支えてくれる。
頼りになる、素敵な先輩だった。

「頑張りますね」
「おう」







「暖かくなってきたね」

部活が終わり、辰也と歩く帰り道。
秋田の3月はまだまだ寒いけど、それでも真冬に比べればまだマシだ。

「そうだね…桜咲くかな?」
「ふふ、まだ早いよ」

よく卒業式や入学式は桜の季節というけど、この辺りの桜はもっと遅い。
4月の終わりか…遅いと5月に入ってしまうかな。

「そっか…桜が咲いたら一緒にお花見しよう?見てみたいんだ」
「うん」

辰也はずっとアメリカにいて今年の夏から日本に来ているから、桜は久しく見ていないだろう。
お花見するときは、お弁当を作っていこう。
きっと辰也は桜もお弁当も楽しんでくれる。
そのときがとても楽しみだ。

「……」
?」

辰也と先の約束をすること、それはとても嬉しいことなのに。
今は、なんだかとても切ない。

「…春になるのが、寂しくて」

「今日ね、買い出しの時岡村先輩に会ったの」

今日のことを辰也に話す。
なんだか最近、とても寂しいということも。

「…先輩たち、本当にいなくなっちゃうんだよね」
「うん…」
「私、先輩たちがいなくなってやっていける自信が全然なくて」

まだ卒業式になっているわけでもないのに、涙が出てくる。
こんなことで、本当にやっていけるんだろうか。



辰也は私の頭を撫でる。
胸の奥が温かくなる。

「オレも不安だけど…きっと大丈夫だ」
「辰也…」
「岡村先輩が大丈夫って言ってくれたんだ。きっと大丈夫だよ」

辰也は優しく微笑んでくれる。
私は辰也に抱き付いた。

「うん」
「一緒に頑張ろうね」
「…うん」

辰也の手をぎゅっと握る。
卒業式は、もうすぐだ。








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14.11.07