遠い意識の中、腕の中で何かが動いた。
ゆっくり目を開けて、ああそうだと思い出す。

「…おはよう」

腕の中にいるのはだ。
そうだね。ついさっき、オレたちは一つになったんだ。

「え、あ、えっと、…おはよう」
?」

は一気に顔を赤くさせると、両手で顔を覆ってしまう。


「ひ、氷室、ちょっと待って」

可愛いな、なんて思って声を掛けると、はひどい言葉を返してきた。
の両手を掴んで、無理やりこちらを向かせる。
真っ赤になったの顔を真っ直ぐ見る。
未だ情事の照れが抜けないには少し酷かなとは思うけど、今の言葉は許せない。


「…え?」

「う、うん」


何度も何度も名前を呼ぶ。
大好きなの名前を。
これで気付いてほしいんだ。

「あの、た、辰也…?」

そう。それだよ。
そう呼んでほしかった。

「正解」

ぎゅっとを抱きしめる。
愛しい人が、オレの名前を呼んでくれる。
幸せなことだな、と実感する。

「う、うん」
「いきなりオレが『』なんて呼んだら嫌だろ?」

そう言うとは表情を一気に曇らせる。
たとえで言ってみただけなのに、そんな反応されたら、もう絶対に呼べないな。

「…嫌」
「オレだって同じだ」
「…うん、ごめんね」
「いいよ。でも、次はもう許さない」
「許さないって…」
「許さないよ。どうなるか、わかるだろ?」

の唇をなぞると、はまた顔を赤くした。
どういう意味か、わかってるんだね?

「可愛い」
「ま、またそれ」
「しょうがないじゃないか。が可愛いから、思わず言っちゃうんだよ」

は本当に可愛い。
いつも、どんなときも、何をしていても。

「さっきのも、すごく可愛かった」
「え」

さっきのは特別可愛かった。
恥ずかしいと言いながらも快感に染まっていくの顔は本当に…

「あ、あんまり思い出さないで…!」
「どうして?」
「だ、だって…」
「嫌だよ。だってオレは嬉しかった」

が恥ずかしいという理由もわかるけど、それでも思い出さずにはいられない。
大切な大切な思い出だ。
これからずっと、きっと何度でも思い出す。

「誕生日にと一つになれたんだ。今までで一番幸せだった」
「わ、私もその、幸せだったけど」
「だろ?」
「でも、やっぱり恥ずかしくって…それに、なんか、辰也意地悪だったし」

思いもよらない言葉に、目を丸くしてしまう。
あれで、意地悪か…抑えたつもりだったんだけど。

「あれでも抑えたつもりなんだけど」
「バカ!」
「あはは、ごめん」
「も、もう…」
「幸せなのは本当だよ。幸せすぎて、死にそうなくらい」

噛みしめながら言うと、はオレの顔を覗き込んでくる。

「…死んじゃダメだよ?」
「わかってるよ。今死んだら、もったいなさすぎる」

ぎゅっとを抱きしめる。
きっとこれから何度でも、といる限りこんな幸せが訪れる。
今死んでしまったらもったいない。

「…辰也、誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
「…あのね、来年も、その次も、ずっとお祝いするよ」

は優しい顔でそう言ってくれる。
今年の誕生日は何て幸せなんだろうと思ったけど、きっと来年もそう思うんだろう。
そして、その次も。

「…ありがとう。オレも、ずっとの誕生日を祝うよ」

がオレの誕生日を祝ってくれたように、オレもを祝おう。
に精一杯の幸せを送ろう。

「…辰也、好きだよ」
「オレも好きだよ」
「うん、あのね、…私、初めてが辰也で嬉しかったよ」

の言葉に、胸の奥が締め付けられる。
の初めての男になれたという事実が、こんなにも嬉しい。
少し恥ずかしげに告げるにキスをした。

の初めても最後も、オレでいいよ」

を知る男は、一生オレだけだ。
他の男になんて渡すはずもない。
これからずっと、ずっと一緒だ。








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14.10.30














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