3月14日、ホワイトデー。
今日も平和にバスケ部の活動だ。

「よー、お前ら久しぶり」
「福井先輩」

部活が始まって15分ほど経ったとき、福井先輩が体育館に入ってきた。

「久しぶりじゃないでしょ〜しょっちゅう来てるくせに」
「うるせ」
「先輩、部活やってかないんですか?」

いつも部活着でくるのに、今日は制服だ。
部活をやっていくつもりじゃないんだろうか。

「今日登校日だったからな。これ渡しに体育館寄っただけ」

そう言うと福井先輩は私に小さなピンクのラッピングを渡してきた。

「ホワイトデーだからな」
「わ、ありがとうございます」
「どーせ部の連中からはもらってねーだろ。な、敦?」
「あ、オレ練習行かなきゃ〜」
「あはは」

敦は話題を振られてさっさとコートに戻っていった。
確かに部の人たちからお返しはもらってないけど、そもそも渡したチョコも大層なものじゃないし、福井先輩律儀だなあ。

「まー氷室に豪勢なお返しもらったろうけど」
「豪勢って…」
「あー、これからもらうのか。イチャつきながら」
「福井先輩!」
「うお、こえ!」

そりゃ、何かお返しはくれるだろうけど、イチャつきながらって…!

「わりーわりー」
「…もう!」
「……」
「…先輩?」

福井先輩は急に寂しそうな顔になってしまった。

「わり。もうこういうのも終わりなんだなと思うとな…」
「あ…」

福井先輩は噛みしめるように言う。
三年生はもうすぐ卒業だ。

「…寂しいですね」
「そうだな…一年なんてあっという間だからな。ちゃんと満喫しろよ」

福井先輩はくしゃりと私の頭を撫でた。
涙が出そうになるのを必死にこらえる。
泣くのはまだ早い。

「やべっ」
「どうしたんですか?」
「氷室がめっちゃ睨んできてる」

コートのほうに目をやると、確かに辰也は私たちのほう…というか福井先輩を睨んでる。

「あいつ本当嫉妬深いよなー。も大変だな」
「そんなことは…」
「そうか?」
「…私も結構、妬きますし…」

確かに辰也はヤキモチ妬きなほうだと思うけど、私もよく妬くし、そんなには…。

「…
「はい?」

福井先輩は真剣な声で私の名前を呼ぶ。

「バレンタインのときも言ったけどよ、あんまり溜め込むなよ」
「え…」

溜め込むって、何を。

さ、ヤキモチ妬くとめっちゃ自己嫌悪に陥るだろ」
「!」

福井先輩に指摘されて、胸のあたりをぎゅっと抑えた。

「…そんなこと」
「なんかなあ、見てて痛々しいっつーか。ヤキモチの一つや二つして当たり前だろ。好きで付き合ってんだから」
「…そうですけど…」
の悪いとこだな」

福井先輩は呆れたように言いながら、私の頭を軽く小突いた。

「別にいーじゃねえか妬いたって。ほれ、氷室のほうがよっぽどひでーぞ」

福井先輩の目線の先に目をやれば、コートの隅で練習の順番を待つ辰也がいる。
相変わらず福井先輩のことを睨んでいる。
私は思わず笑ってしまった。

「…そうですね」
「やーっと元気出たか」
「ありがとうございます」
「あんま悩みすぎんなよ。もうオレも話聞いてやれなくなるし」

思えばバスケ部に入ってから福井先輩にはいろんな話を聞いてもらった。
福井先輩に何度励まされたかわからない。

「福井先輩はなんだろ…お兄ちゃんみたいで」
「あー、わかる。お前妹みてーだもん」
「…敦の言った通りですね」

いつか敦が言っていたことを思い出す。
うちの部活は家族みたいだと。
私はそんなバスケ部が大好きだ。

「もう行くわ。さすがに長居しすぎた」
「お疲れ様です」
「おう、じゃーな」

福井先輩は手をひらひらさせて体育館から出ていった。





「はい、。バレンタインはありがとう」
「わ、ありがとう!」

放課後、辰也の部屋に行くと、辰也は鞄から可愛い包みを取り出した。
ピンクのラッピング。ホワイトデーのプレゼントだ。

「開けていい?」
「もちろん」
「わ、クッキーだ」

可愛らしい包みを開けるとそこにはクッキーが。
一つ取り出して口に運ぶ。
甘い味が口の中に広がった。

「おいしい!ありがとう」
「いいえ」
「あのね、私もお返しあるの」
「え?」
「だって私もバレンタインにもらったから」

一か月前のバレンタイン、辰也は小さな花束をくれた。
アメリカでは男性から女性に贈るのが主流だから、と。
だったら、今日は私もお返ししなくちゃと思ったのだ。

「そんなの、よかったのに」
「でも、気持ちだから。ね?」
「うん。ありがと」

辰也は丁寧な手つきでラッピングを解く。

「あ、マフィンだ」
「うん。うまくできたと思うけど…」

だけどやっぱりドキドキしてしまう。
…おいしくできたよね?

「おいしいよ、ありがとう」
「よかった。…あ、そうだ。これ、福井先輩からもらったの」

そういえば福井先輩からもお返しをもらったんだ。
思い出して鞄から取り出した。

「一緒に食べよう?」
「…ふうん。おいしそうだね」

福井先輩からもらったのはマシュマロだ。
最近はあまり食べていなかったから嬉しい。

「うん、おいしい!」
「…おいしいね」

辰也はそう言いつつぱくぱくとマシュマロを口に運ぶ。
もらったマシュマロはあまり多くないからたくさん食べられるとなくなってしまう。

「辰也!食べ過ぎ!」
「……」
「辰也?」
はオレのだけ食べてればいいんだ」

辰也は拗ねた顔でそう言ってくる。
子供っぽい口調で、なんだかおかしい。

「もう。ただの義理のお返しだよ?」
「知ってる」
「それでも妬くの?」
「うん」

きっぱりと言い切る辰也がいっそ清々しい。
…そうだよね。

「…辰也、あのね」

ぎゅっと辰也の手を握る。
冷たい手だ。

「私も、いっぱい妬くの」
「うん」
「…いつも、ヤキモチ妬いてるよ」
「同じだね」

辰也は私の頬を撫でてくれる。
くすぐったい。

「…福井先輩に言われたの。ヤキモチなんて妬いて当たり前なんだから、あんまり考えすぎるなって」

私の頬を撫でる辰也の手を取る。
辰也も私の手を握り返した。

「そうだよね。同じだもんね」
「そうだよ」
「…妬いても、いいんだよね」
「うん」

辰也にぎゅっと抱き付く。
心が軽くなっていく。

「そうだよ。がヤキモチ妬いてくれるの、オレは嬉しいよ」
「…うん」

そっか。そうだよね。
好きだからヤキモチ妬いたり、妬かれたり、そういうのは、変に自分を責めるようなことじゃないんだよね。

「だからこれはオレが食べます」
「あっ!」

そう言って辰也は福井先輩からもらったマシュマロを高く持ち上げる。

「ダメ!私ももうちょっと食べたい!」
「オレのクッキーあるだろ?」
「クッキーとマシュマロは全然味違うよ!」

そう言って辰也とマシュマロを取り合って小競り合いをする。
結局あれから一個しかマシュマロは食べられなかった。
もう、辰也ってば!








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14.11.14