「えっと…色紙と、花束と…」 今日は卒業式。 空は綺麗に晴れた。 式も穏やかに終わり、今は外で先輩たちに渡す色紙と花束を確認している。 「ちん、間違えないようにね」 「間違えないよ!敦こそ大丈夫?」 「ん?オレはあっちに任せちゃった〜」 色紙と花束を先輩に渡すのは二人一組でやることになっている。 敦はペアになっている同じ一年生の男子を見やった。 彼が花束も色紙も持っているようだ。 「敦ってば」 はあ、とため息を吐く。 ま、確かに間違えられたりしても大変だし、彼なら間違えないだろうし、いっか…。 それにしても、敦に感慨はないんだろうか。 そういえば、前にそう聞いたとき、「また会えるでしょ。死ぬわけじゃないんだし」って言われちゃったっけ。 「ちんと室ちんはゴリラに渡すんでしょ?」 「ゴリラって…最後ぐらい名前で呼んであげようよ」 私のペアは辰也だ。渡す相手は岡村先輩。 岡村先輩宛の色紙を眺める。 こうやってからかわれることも多いけど、色紙に書かれた餞の言葉を見ると岡村先輩はみんなに慕われているということがよくわかる。 「、ごめん遅くなって」 「辰也」 辰也が小走りで私のもとにやってくる。 「先輩たち、もうすぐ出てくるみたい」 「そっか…あ、本当だ」 昇降口から3年生が出てくる。 バスケ部の人たちは…なんて探さなくても、あの高身長の団体はパッと見ただけですぐにわかる。 「岡村先輩!」 「おお、お前らか」 「卒業おめでとうございます」 岡村先輩に色紙と花束を渡す。 色紙を見た岡村先輩は涙ぐんだ。 「ありがとうなあ」 「…先輩」 そんな先輩を見て、私も涙が出そうになる。 「……」 きゅっと唇を噛んで泣くのを堪える でも、ダメだ。泣いてしまう。 「先輩…」 よしよしと辰也が頭を撫でてくれる。 でも、やっぱり涙は止まらない。 「泣きすぎだ」 「わっ」 後ろから背中を軽く叩かれる。 福井先輩だ。 「別に二度と会えねーってわけじゃねーんだから」 「でも…」 「やっぱり寂しいですよ」 辰也も眉を下げている。 当たり前だ。今日が終われば、しばらく会えないのだから。 「そーだよー。またふつーに会えるって」 「中国よりは近いアル」 敦と劉がやってくる。 二人はあっけらかんとした表情だ。 「お前らは可愛げねーな」 「泣いたほうがいい?」 「男の泣き顔なんて見たくもねーわ」 福井先輩の言葉に、思わず笑いが漏れてしまう。 「…先輩、私頑張りますね」 ぎゅっと拳を作って宣言する。 大丈夫。私たちは頑張れる。 「おう」 「今年こそ全国制覇してくれ」 先輩たちに真っ直ぐな瞳で見つめられ、決意を新たにする。 頑張ろう。 先輩たちが叶えられなかった夢を叶えよう。 「頑張ろうね!」 「もちろん」 「負けっぱなしは癪アル」 「負けるの嫌いだし〜」 辰也たちに向かってそう言えば、それぞれ個性あふれる答えが返ってくる。 また、笑みが零れる。 「あはは」 「全国、応援に行くからな」 「はい!」 頑張ろう。それがきっと一番の餞だ。 「じゃーな。頑張れよ」 くしゃりと頭を撫でられて、私は涙を拭った。 * 「卒業しちゃったね…」 「うん」 卒業式も終わり、辰也と帰路につく。 やっぱり、寂しいな。 「そろそろ新入生来るし、きっと騒がしくなる」 「そうだね…」 新入生が来ればきっと寂しさも紛れるだろう。 そうして、あっという間に時が経って、私たちも卒業する。 「…ね、辰也。私、前に『もしバスケ部入ってなくても』って話したの覚えてる?」 半年ほど前、辰也と付き合い始めたころのこと。 私と辰也が出会った時のこと、辰也が私を野球のボールからかばって、近くにあった洗濯物ごと倒してしまって、それがきっかけで私はバスケ部のマネージャーをやることになった。 「もし、あのときバスケ部入ってなくても、いつか私は辰也のこと好きになってたよ。でもね」 きっと私はあのときバスケ部に入ることになっていなくても、遅かれ早かれ辰也を好きになっていたと思う。 だからバスケ部に入っていてもいなくても関係ないよって、そんな話をした。 「…バスケ部入って、よかったなあって思うの。だから、あのとき誘ってくれてありがとう」 あの時誘われていなかったら、バスケ部に入ることはなかっただろう。 こんな思いを知らないまま、私は過ごしていたんだろう。 「みんなに会えて、よかったよ」 ぎゅっと辰也の手を握る。 バスケ部に入ってよかった。みんなに会えてよかった。 心の底から、そう思うよ。 「オレもだよ」 「辰也」 「日本に来て、入ったのがここでよかった。に会えて、みんなに会えた」 「うん」 あと一年。精一杯頑張ろう。 後悔のないように。 一年後、笑って卒業できるように。 ← top 3年生編→ 14.11.20 |