IHが終了し、私たちバスケ部も本格的な夏休みに入った。
…と言っても部活は毎日のようにあるわけだけど。

今日は少し早めに部活が終わった。
辰也と二人、帰りに少し買い物をすることにした。

「辰也、何か気になるものでもあった?」

ショッピングモールの中で辰也が立ち止まる。
何か欲しいものでも見つけたのだろうか。

「いや、今度お祭りやるんだね」

辰也が見ているのは掲示板だ。
そこには近所の神社のお祭りのお知らせが貼られている。

「うん。あの駅の近くの神社だよ」

一年前、辰也はもうここに来ていたはずだけど、帰ってきたばかりで忙しかったのだろう。
あそこの神社でお祭りがやっていることは知らなかったようだ。

「一緒に行こうね」
「うん。、浴衣着てほしいな」
「うん!あ、今度は辰也も浴衣着ない?」

去年、夏祭りの後にあった花火大会で私は浴衣を着た。
そのときは一緒に行こうと約束したわけじゃなく、たまたま道中で会っただけなんだけど、辰也は浴衣をとても喜んでくれた。
今年の夏ももちろん私は浴衣を着るつもりだけど、辰也の浴衣姿も見てみたい。

「浴衣か…」
「あ、持ってない?」
「うん。どんなのがいいかな…。一緒に選んでくれない?ちょうど手持ちもあるし」

辰也はそう言ってショッピングモールの案内を見る。
ここには浴衣を売っているような服屋も入っているはずだ。

「うん。いいよ」

せっかくだし、辰也の浴衣を一緒に選びたい。
辰也一人で選ぶとあまりこだわらなさそうだし…。

「じゃ、行こうか。5階だよね」

エレベータで5階に上がって、お目当ての服屋に入る。
さすがに夏だけあって、浴衣が一番目立つところに置かれている。

きっと浴衣を着た辰也はいつも以上に素敵だろう。
メインに飾られているのは女性用だけど、その横にある男性用浴衣を着ている辰也を見ながらそう思う。

「どういうのがいいかな?何か希望ある?」
「オレはどういうのでも…浴衣よくわからないし」
「そっか」
「たぶんと一緒の時にしか着ないから、が気に入ったのがいいな」

辰也は普段着る服にはそれなりにこだわりがあるようだけど、浴衣はどれを着ていいかわからないようだ。
話を聞くと小さい頃にも着たことがないようなので、「どういうの」とも希望を出しにくいらしい。
じゃあ、私の趣味でいくつか絞ることにした。

早速一つ一つ吟味していく。
グレーみたいに薄めの色も似合いそうだけど、紺色もいいかな。
とりあえず目についたものを辰也に合わせていく。

、そんなに真剣にならなくても…」
「真剣になるよ!辰也の浴衣選んでるんだよ!?」
「あ、ごめん…」

少し大きな声で言うと、辰也は面食らったような顔をしている。
でも、辰也の浴衣姿を想像するとどうしたって真剣にならざるを得ない。
辰也だって立場が逆なら同じことを言うはずだ。

「うーん…やっぱり濃い色がいいかな」
「そう?」
「うん。グレーも似合うけど!」

色は紺か黒に決めた。
後は柄だ。
無地に縞、格子柄…中にはペンギン柄なんてものもある。

「ペンギン柄?」
「うん」
「それはちょっと…」

ペンギン柄は言葉のインパクトに比べて見た目は案外普通だ。
とはいえ、さすがにこの柄は嫌だったようで、今までおとなしく私の要望を聞いてくれた辰也も苦い顔をしている。
辰也なら着こなせると思うけど、当の本人が嫌がるものは着せたくない。

ペンギン柄以外となると格子柄か縞か。無地もいいかもしれない。
辰也は何でも似合ってしまいそうで、あれもこれもと思ってしまう。
なんて贅沢な悩みだろう。

、まだ…?」
「じっとしてて!」
「は、はい」

浴衣を何枚か辰也に宛がって、一つ一つ見比べる。
さすがに何枚も買ってとは言えない。ちゃんと「これ!」というものを決めないと。

「うーん…これかな…」

何度か合わせてみた結果、紺の細めの縞が一番いい気がする。
この柄には生地や細かい柄の違いで金額に違いのあるものがいくつかある。
さすがにここからは辰也に決めてもらおう。

「どれがいい?」
「うーん…」

辰也は見比べた後、一着手に取った。
それにするようだ。

「さすがだね。センスがいいよ」
「そうかな…?」
「うん。着るの楽しみだな。…あ」

辰也はレジに向かう途中、笑ったかと思うとふと困り顔になる。
どうしたんだろうと思って立ち止まった。

、どうしよう」
「?どうしたの?」
「よく考えたら、オレ一人じゃ浴衣着れないや」
「あ」

そういえば、浴衣を着たことないのに一人で着れるはずもない。

「お母さんとかは?」
「母さん…その日いるかな。というか母さんもできるかな…」
「うーん…」

辰也は顎に手を当てて考え込む。
どうしよう…。

「…あの、私、着付けようか?」

そう言うと、辰也は目を丸くする。

「できるの?」
「た、たぶん…」

私も去年浴衣を着たときお母さんに着付けてもらったからできるか不安だけど、夏祭りの日まで時間がある。
それまでに練習すれば着付けられるようになると思う。

「当日までに練習するから!」

そう言うと辰也は顔をパアッと明るくさせた。

がやってくれるの、楽しみだな」

辰也は満面の笑みだ。
こうなると、しっかり練習しないといけない。
お母さんに教えてもらわなきゃ。

ぎゅっと拳を握って、気合を入れた。









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15.03.12