「すごい人混みだね」
「うん。この辺りで一番大きいお祭りだから」

お祭りがやっている神社に着くと、そこはもう人で溢れ返っている。
はぐれないよう辰也と手をつないで、神社の鳥居をくぐった。

「最初にお参りね」
「うん」

おいしそうな屋台がたくさん出ているけど、とりあえずはお参りだ。
人混みをくぐって境内へ。
賽銭箱に五円玉を入れて、手を叩いて目を瞑る。


「辰也、もう終わった?」
「うん」

目を開けて横を見ると、辰也はすでにお参りを終えたようだ。
もう一度手をつないで屋台へ向かう。

「何か食べたいものある?」
「お腹にたまるのがいいな…お腹空いちゃって」

辰也はお腹を押さえながら苦笑する。
確かに部活の後だとお腹が空いているだろう。

「さっきお好み焼きあったよね」
「うん。あと焼きそばとかもあるよ」

ざっとのぼりを見るだけで多くの出店が出ている。
私もお腹空いてるし、せっかくだからいろいろ食べたい。

「せっかくだし分け合いっこしよ。辰也はどれ食べたい?」
「お好み焼きかな。お腹たまりそう」

辰也の希望通りお好み焼きを一つ、あと隣のお店のじゃがバターを買った。
参道から少し逸れた場所にある石に二人で座った。

「いただきます」

じゃがいもをお箸で割ると中から湯気が出てくる。
熱そうなので息を吹きかけて冷ました。

「可愛い」
「えっ」

辰也は持っているお好み焼きに手を付けず、じっと私を見ながらそう言った。
辰也はよくそう言ってくるけど、さすがに今のは突然だ。

「ふーふーしてるの可愛い」
「あ、そこ…だってするでしょ、熱そうだもん」
「うん。可愛い」

辰也は暗がりでもわかるぐらいにニコニコうれしそうな顔をしている。
そんなにうれしそうな顔をされると、こっちまでうれしくなる。

はなにしてても可愛いんだけど」
「そんなこと」

ない、そう続けようとして言葉に詰まる。
だって、私も辰也に対して同じことを思っている。
辰也はいつだってかっこよくて、少し可愛くて、すごく素敵だって、そう思ってる。

「…ありがとう」

だから否定せずに、お礼を言った。
辰也に可愛いと言ってもらえて、うれしいから。
それに、辰也の言葉を否定したくない。

「辰也もね、すごくかっこいいよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「そっか」

辰也は私の頬を撫でてはにかむ。

にそう言ってもらえてうれしいよ。ありがとう」

辰也が笑うので私も笑う。
これからもずっと、辰也に可愛いと言ってもらえる自分でありたいなと思う。




お好み焼きとじゃがバターを食べ終えて、参道に戻った。
さて、次はなにをしようか。

「あ、輪投げやってる」

歩いていると食べ物以外の出店も目に付く。
その中でも辰也は輪投げが気になるようだ。

「やりたい?」
「いや、懐かしいなって。去年文化祭でやったろ」

辰也の言うとおり、去年の文化祭で敦のクラスが縁日をやっていて、私たちはその中から輪投げをやった。
辰也はそのとき取ったアシカのぬいぐるみを私にプレゼントしてくれた。

「アシカのぬいぐるみね、いつも枕元に置いてるよ」
「そうなんだ?いいな、ぬいぐるみになりたい」
「え…」
「毎晩と一緒に寝てるんだろ?うらやましい」

冗談かと思いきや、辰也は本気でため息をついている。
本当にうらやましいと思ってるな、これ…。

「辰也ってば…」
「でもぬいぐるみになったらと手も繋げないか…」

辰也は私と繋いでいる手を見て、笑いながらそう言った。
繋いだ手が少し熱くなった。

「やっぱりこのままが一番だな」
「そうだよ」

体を少し辰也に寄せる。
服越しの温もりが、辰也がここにいることを感じさせてくれる。
人間っていいなあと、そう思う。

、この中で欲しいのある?」

辰也が輪投げの景品を指してそう言うので、眺めてみるけどあまりピンとくるものがない。

「うーん…」
「ない?」
「あんまり…」
「そっか。じゃあいいや、違うところ行こう」
「いいの?」
「うん。が欲しいのやろう」
「辰也が欲しいのないの?」
「オレはやりたいだけだから…景品はいいかな。でもせっかくだからちゃんと景品持って帰りたいし」

辰也はあまり景品に興味がなく、ただ単にゲームの類がやりたいようだ。
何か目についたものがあれば教えてあげよう。

「じゃ、歩きながら探そうか。気になるの合ったら言ってね」

そう言ってまた二人で歩き出す。
ゲームもいいし、まだ少しお腹も空いている。
どこの屋台に行こうかな、そう思いながら辰也と神社の中を歩いていく。



「あ、辰也!あれやらない?」

歩いていて目に入ったのは射的の出店。
景品に小さめの可愛いぬいぐるみがある。
少し惹かれるし、辰也も楽しめそうだ。

「いいね。どれが欲しい?」
「あの真ん中のうさぎの」
「そっか」

そう言って辰也は鞄から財布を出そうとする。
慌ててその手を抑えた。

?」
「いいよ、お金払うから」
「え?」

だって辰也は景品を取ったら私にくれようとしている。
だったらお金は私が払うのが普通だと思う。

「いいよ、やるのオレなんだから。そもそも取れるかもわからないし」
「でも」
「いいから。ほら、浴衣着せてくれたお礼にね」

そう言って辰也は私の出した財布を無理矢理仕舞わせる。
そう言われたら私はもう何も言えない。

「じゃ、やってくるね」
「うん」

辰也はおじさんに200円渡して射撃の道具を受け取る。

「やったことある?」
「いや…父さんがやってくれたのを見た覚えはあるけど」

そう言って辰也は構える。
頑張れ、辰也。そう思いながら辰也を見つめる。



「すごい!」
「よかった、取れた」

最後の一回で辰也は見事うさぎのぬいぐるみを取ってくれた。
文化祭でやった輪投げのときと同じだ。
辰也はいつも、私の願いを叶えてくれる。

「はい」
「ありがとう」

辰也はうさぎのぬいぐるみをくれる。
大切にしよう。アシカのぬいぐるみと一緒に飾っておこう。
ぎゅっと抱きしめると心が温かくなる。

「大切にするね」
「うん」

小さいぬいぐるみなので、鞄にも入る。
家に着くまでちょっと苦しいかもしれないけど我慢してもらおう。

「次、どこ行こうか」
「またちょっとお腹空いてるかな…」
「そっか、食べたいのあったら言ってね」

そう言って辰也とまた歩き出す。
お祭りはまだまだ回り切れていない。もっともっと楽しみたいな。









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15.03.27