お祭りも大体見て回った。 そろそろいい時間だし、帰らなくては。 「そろそろ帰ろっか。名残惜しいけど…」 「そうだね…。お祭り、また来ようね!」 繋いだ手に力を込める。 辰也と回ったお祭りはとても楽しかった。 また何度でも辰也と来たい。 「再来週、また花火大会あるから」 「ああ、去年も行ったやつだよね?」 「うん」 去年も花火大会は一緒に行った。 …というより、行く途中に偶然会ったんだけど、ともかくその花火大会が再来週に控えている。 「花火大会のときも浴衣着付けるね」 「やった、ありがとう」 辰也は嬉しそうに微笑んだ。 私も笑ったけど、その笑顔が引きつってしまう。 「?」 「な、なんでもない」 「…。ほら、こっち」 辰也が私の手を引いて、帰り道から逸れる。 すぐそこにある公園へ私を導いて、ベンチに座らせた。 「足、痛いんだろ?」 そう言って辰也はハンカチを濡らして来てくれる。 辰也は何でもお見通しだ。 「ん…ごめんね」 「本当だよ、もう。ちゃんと痛いって言わなきゃだめだよ」 「ふふ」 そっちの意味の「ごめんね」じゃなかったんだけど、辰也の優しさに笑みが零れる。 辰也が右足の下駄を脱がせて指の間にハンカチを当ててくれる。 「気付かなくてごめん」 「ううん、私もはしゃぎすぎちゃって」 ついつい夢中になって疲れていてもお構いなしに歩き回ってしまった。 ちゃんと自己管理しなくっちゃ。反省。 「少し休んで行こう」 「うん」 辰也は私の隣に座って、私の肩を抱き寄せる。 その肩に体を預けた。 お祭りのやっていた神社は近く、ここでもお祭りの喧騒が聞こえてくる。 さっきまでそこにいたはずなのに、二人きりになると遠い世界のことのように感じる。 「夜でも暑いね」 「じゃあ離れる?」 そう呟くと、辰也は悪戯っぽい笑みを浮かべた。 私がなんて答えるかわかってる表情だ。 「やーだ」 そう言ってぎゅっと抱き付くと辰也は私の頭を撫でた。 くっつくと暑いけど、それでも辰也に触れていたい。 「ふふ」 公園には誰もいないから、思う存分辰也に抱き付くことができて幸せだ。 いつまでも一緒にいたいなって思う。 「、もっとこっち」 「きゃっ」 辰也は私を抱き上げると、自分の膝の上に私を乗せる。 辰也の顔がより一層近くにある。 吸い寄せられるように、辰也の唇にキスをした。 「ふふ」 私が笑うと、辰也は斜め上のほうに視線をやる。 首をかしげると、辰也が苦笑した。 「我慢できなくなりそう」 「!」 耳元で囁かれて、少し体を辰也から離す。 「冗談だよ、半分ね」 「…もう」 「疲れてるに無理はさせないよ」 辰也は優しい目でそう言ってくる。 辰也はいつだって私に優しい。 そのやさしさに溺れてしまいそうになるぐらい。 「…あれ」 鞄の中で携帯が鳴る。 恐らくメールだ。ちょっと唇を尖らせながら鞄から携帯を出した。 「お母さん?」 「うん…」 予想通りお母さんからだ。 ちょっと遅くなってしまったから、早く帰ってきなさいということだろう。 「もう帰らなきゃ…」 「…そっか。歩ける?」 「うん」 名残惜しいけれど帰らなくては。 ずっと一緒にいたいけど、それはできない。 「送っていくよ」 「ありがとう」 お母さんに「今から帰るよ」とメールを打って、手をつないで歩き出す。 できるだけ、ゆっくりと。 「…じゃあ、また明日ね」 「うん」 私の家の前に着いてしまう。 明日も部活があるから会えるけど、別れる瞬間というのはとても寂しい。 「」 辰也が私の頬に触れる。 その手をぎゅっと握った。 「…いつか、こうやって別れなくていい日が来る」 「うん」 「いつまでも一緒にいられる日が」 「うん!」 夜が来ても別れなくていい。 夜寝る前に辰也がいて、朝起きたら辰也がいる。 そんな生活が、きっと私たちにやってくる。 「ん…」 辰也が私にキスを落とす。 軽いキスを何度かした後に、長く深いキスを最後に一つ。 「おやすみ」 辰也はカランコロンと下駄の音をさせながら帰っていく。 その姿が見えなくなるまで見送っていた。 ← top → 15.04.17 |