春の合宿は2泊3日と短めだ。
明日の午前中練習をしたら、バスで陽泉高校まで帰ることになる。
だからこそ密度の高い練習…という名の鬼練習。
特に朝から夜まで練習できると今日は一段と。


「あ、敦。もう大丈夫なの?」

夕飯のために食堂へ行く途中、敦に会う。
敦は至って普通にスタスタと歩いているから、きっと風邪は大丈夫なんだろう。

「うん。もう微熱。お腹空いたしご飯食べる」
「よかった」
「でも明日練習しなきゃなんだよね〜。もうちょっと風邪引いてても良かったかも」
「もう」

もしかしたら合宿途中で帰るかも…なんて話もあったくらいだから、こうやって軽口を叩けるようになってよかった。
さて、晩ごはんだ。
合宿所のごはんはなかなかおいしいのでちょっと楽しみだ。

「!」

うきうきしながら食堂に入って、その光景に戦く。
そこはまさに死屍累々。
部員たちが机に突っ伏して死んで…いや、倒れこんでいる。

「うわあ、悲惨」

敦は食堂を一瞥すると棒読みでそう言った。
…今日練習に参加していない敦は無事だけど、今日の鬼練習でみんな屍にようになってしまっている。

「劉、大丈夫…?」
「無理アル。死ぬアル」

一番近い席に座っている劉に話しかける。
劉は絞り出すような声で答えた。

「もうすぐご飯だよ!」
「食える気がしないアル…」

…確かにあまりに疲れすぎると食べる気を失くすことはある。
だけど、食べるのも練習のうちって監督言うんだよね…。
みんな大変だ…。

?」
「あ、辰也」

劉の様子を心配していたら、辰也が続いて入ってくる。
辰也の声に心を弾ませたけど、また辰也の顔を見て弾んだ心がすーっとしぼんでいく。

「た、辰也大丈夫?」

辰也の顔は少し青く、まさに「疲れています」という表情だ。
辰也はこういうことはあまり顔に出ないタイプなのにパッと見てわかるということは、相当疲れているんだろう。

「と、とりあえず座って」

敦の前の席の椅子を引いて、辰也を座らせる。
私もその隣に座った。

「疲れてるんだね…」
「うん…春の合宿がこんなにきついなんて…」

私と同じく辰也も春の合宿は初体験だ。
夏の合宿も厳しいことは厳しいけど、5日間あるし熱中症も怖いということで、今回よりだいぶマシだと思い知らされた。

「よしよし」

少しでも辰也の疲れが緩和できれば、と思い彼の背中を撫でる。
辰也は少し笑顔を見せた。

「ありがとう」
「うん…今日は夜更かししないで早く休んでね」
「うん」

辰也はお返しを言わんばかりに私の頭を撫でる。
私に触れる辰也の手はいつだって優しい。
優しく撫でられて、心が溶けていく。

も疲れたろ?一日中動き回ってたし」

そう言って辰也は私の頬を撫でた。
私のことを心配してくれているんだ。
その気持ちはとても嬉しいけど、絶対辰也のほうが大変なはずだ。

「私は大丈夫だよ」
「いや、だめだよ。も今日はゆっくり休んでね」

大丈夫と主張したら、間髪入れずに首を横に振られてしまった。
菜美ちゃんと笙子ちゃんも疲れているみたいだし、今日は昨日みたいにおしゃべりが長引くことはないだろう。

「うん。大丈夫」

笑ってそう答えると、辰也は私の手を優しく握った。

「無理しないでね」

辰也の言葉に大きく頷いた。ら、敦の大きなため息が聞こえてきた。

「はあーあ」
「?敦?」
ちんってさあ、昔はもっとさ〜」
「うん」
「……やっぱ何でもなーい」
「えっ?」
「トイレ行ってくる〜」
「ああ、行っておいで」

辰也は敦に笑顔で手を振る。
敦はもう一度大きなため息を吐いて食堂から出ていった。

「どうしたんだろうね、敦」
「さあ?アツシは気まぐれだから」
「そうだね…。あ、辰也ご飯食べれる?あんまり疲れてると食欲ないかもしれないけど」
「大丈夫。ま、が作ってくれたものの方が食欲わくんだけど」
「もう」






「紫原、どうしたアルか大きいため息吐いて」
ちんってさ〜昔はちょっと室ちんがくっついてくるだけで『人が見てるでしょ!』って言ってたのに、今そのハードルめっちゃ下がってるよね」
「…みんなわかってるアル」
「今それ言おうとしたら室ちんめっちゃ睨んでくるし。こえー」
「まだ慣れてない新入生が気の毒アル」
「やっぱ二人一緒に部屋にすればよかったのに」










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15.01.23