ダーツの景品のお菓子を持って、屋上の続く階段のところまで来た。
自動販売機でお茶も買ってきて、食べる準備万端だ。

「苺の、おいしい?」
「うん。はい」

苺のチョコ菓子を一つつまんで辰也に差し出す。
辰也はそれを一口で食べると、嬉しそうに笑った。

「おいしいね」
「ね」

辰也と二人、幸せな時間だ。
辰也の肩にごろんと体を預けると、辰也は私の肩を抱く。

「…
「ん?」
「何かあった?最近、ちょっと元気がない気がして」

辰也が少し心配そうな顔で覗き込んでくる。
胸の奥がきゅっと痛んだ。

「…あの」

聞くなら今かもしれない。
ぎゅっと膝の上で握り拳を作った。

「…辰也」
「うん」
「進路、のことなんだけど」

少しだけ、震える。
ちらりと辰也を見ると、優しい眼差しで私を見つめている。

「…その…」
「うん」
「ほら、この間推薦申込みしたけど、通るかなって。ちょっと不安で」

咄嗟に嘘を吐いてしまう。
不安を隠した笑顔を見せると、辰也はよしよしと私の頭を撫でてくれる。

「そっか…きっと大丈夫だよ。一学期の成績もよかったろ?」
「うん…」
「大丈夫だよ。…って、オレが言っても気休めにしかならないかもしれないけど」
「ううん。ありがとう」

辰也に嘘を吐いた罪悪感が胸を覆う。
でも、今、どうしても聞けなかった。
怖かった。
もし、肯定されてしまったら、どうしようって。

「なんかごめんね。変な話しちゃって」
「いいよ、全然。話して軽くなるんだったらどんどん話してくれていいから」

辰也は優しく私の頬を撫でてくれる。
少しくすぐったくて、表情を緩めた。

「そういえば、菜美ちゃん浴衣可愛かったね。私も着ればよかったかな。明日とか持ってこようかなあ」
「そうだね、の浴衣…いや待って」
「?辰也?」

話を変えようと、浴衣の話を振ってみる。
菜美ちゃんのように文化祭ではよく女子は浴衣を着ている。
私も着ればよかったかなあと思って言ってみたら、辰也は微笑んだ後すぐに表情を締めてしまった。

、浴衣は着たらだめだ」
「えっ」

辰也は私の肩を掴むと、真剣な顔で言ってくる。
お祭りのとき、あんなに喜んでくれたのに、どうしてダメなんて言うんだろう。

「いや、の浴衣は見たいんだ。すごく可愛いし。でもお祭りと違ってオレがいつでもそばにいられるわけじゃないだろ?危ないよ」
「危ないって…」
「危ないよ!?ナンパとかされたらどうするんだ!」

あ、そういうこと…。

「そんなに心配しなくても…」
「心配するよ。はどれだけ自分が可愛いかわかってないんだ」
「いや、辰也あの」
「いい?は世界一可愛いんだ。本当に天使みたいで」
「わーーー!辰也大丈夫!着て来ないから!」

慌てて辰也を制止する。
このままだと本当にとんでもないことを言い出しそうだ。

「そう?ならよかった」

辰也はほっと安心した顔をする。
私もこれ以上何も言われなさそうで安心した。

「あ、オレ、そろそろ行かないと…」
「あ、そっか」

気付けばもう辰也はクラスのほうに戻らなくてはいけない時間だ。
寂しいけれど仕方ない。

「じゃ、また」
「うん。私も辰也のクラス行くね」

手を振って辰也と別れる。
さて、私は…友達と一緒に回ろうか。

そう思いながら階段を下りていく。
痛む胸をぎゅっと抑えた。







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15.05.22