暦も10月に入った。 秋田はもうこの頃から冷え込んでくる。 「、おはよう」 通学路を歩いていると、後ろから辰也の声がする。 心を弾ませて振り返った。 「おはよ。…あ」 辰也の首にはマフラーが巻かれている。 去年の誕生日、私がプレゼントしたマフラーだ。 「つけてくれてるんだ。ありがと」 「もう寒いからね」 「ふふ」 辰也が寒がりなことを考慮しても、まだマフラーを巻くほどの寒さじゃない。 でも、嬉しい。 「二人ともおはよー」 辰也と並んで歩いていると、後ろから敦の声が聞こえてきた。 「おはよ」 「室ちんもうマフラー巻いてんの?暑くない?」 「いいだろ?去年がくれたんだ」 「あーあーあー。はいはいはい」 辰也の言葉を聞いて敦は呆れたような声を出しながら、手を振って私たちを追い抜いた。 「ふふ」 誰に呆れられても、何を言われても、辰也が私のプレゼントをつけてくれているという事実が嬉しい。 自然と笑顔になってしまう。 * その日の放課後、今日も部活を終え辰也と二人で帰っている。 商店街から少し外れた道に入ると、揉めている男の子二人が見えた。 小学生ぐらいだろうか。少し年が離れているようなので兄弟だろう。 「だーかーらー!取れないよどう考えても!」 小さい方…弟と思しき男の子がそう話す。 「登れば取れるって!」 「危ないってば!」 二人の男の子が指さす先には大きな木。 その枝にバスケットボールがうまい具合に乗ってしまっている。 「引っ掛けちゃったのかな」 「ね」 「、ちょっと待ってて」 辰也は私にそう言うと、小走りで兄弟のもとへ向かった。 「あのボールだろ?取るよ」 やっぱり。辰也ならそう言うと思った。 バスケをしている子たちで、お兄ちゃんのほうが無理をしようとしている。 やっぱり、放っておけないんだろうか。 「でも」 「大丈夫。ジャンプすれば行ける」 辰也の言う通り、男の子たちの身長では登らないと取れない高さだけど、辰也ならジャンプすれば届くだろう。 うまいバランスで乗ってしまっているだけなので、少し触れるだけでも落ちそうだし。 「よ…っ」 辰也は高くジャンプする。 指先がボールに触れた。 「あっ!?」 低い枝に辰也のマフラーが引っかかる。 辰也の首が絞まってしまう、そう思って思わず声を上げる。 「…っと」 心配したけど、辰也は無事着地する。 ボールも一緒に落ちてきた。 「辰也、大丈夫?」 「うん、ちょっとひやっとしたけど」 「すみません!ありがとうございました」 男の子たちはボールを持ってぺこりと頭を下げた。 「気をつけて。もう帰りな、暗くなってきたから」 「はい!」 そう言って男の子たちは笑顔で家路についた。 よかった、けど…。 彼らの姿が見えなくなった途端、辰也は表情を暗くする。 やっぱり…。 「、ごめん」 「辰也、大丈夫だから」 「でも、マフラーが」 辰也はマフラーの先を手に取る。 10cmほど切れてしまっている。 枝に引っかけたとき、切れてしまったのだ。 さっき何も言わなかったのは、男の子たちに気を使わせないためだろう。 「ごめん…」 「辰也のせいじゃないよ」 「せっかくがくれたのに…」 辰也はがっくり肩を落としてしまう。 そこまで落ち込まなくても…と思ったけど、私が同じ立場だったらきっと、同じことを言っていただろう。 「辰也、本当に気にしないで。大丈夫だから」 「でも」 辰也は何を言っても落ち込んだままだ。 だけど、辰也の気持ちもわかる。 辰也がクリスマスにくれたこのペンダントを壊してしまったら、私もきっとひどく落ち込むだろう。 「私、ああいうの放っておけない辰也が好きだよ」 「…ありがとう。でも、マフラー取って飛べばよかった…」 「もう。あんまり気にしないで」 「…うん」 辰也はそう言うと笑顔を作り。 無理しているのがバレバレで、少し胸が痛んだ。 「…あ」 ふと、一つ妙案が思いつく。 いや、妙案というほど突飛な考えではないけれど。 「?」 「な、なんでもない」 まだ辰也にバレるわけにはいかない。 首を横に振ってごまかした。 もうすぐ辰也の誕生日だ。 落ち込む辰也を励ますには、これしかない。 ← top → 15.06.18 |