次の日、隣の駅の手芸屋で毛糸をしこたま買ってきた。
目的はもちろん、昨日破れてしまった辰也のマフラーを編むためだ。
一応選択家庭科で編み物はやっているので、そこまでひどい出来にはならいない…はず。

辰也の誕生日までまだ一か月弱ある。
凝った柄にはしない。辰也はシンプルなのが似合うと思うから。
それなら間に合うはず。いや、間に合わせなくては。





「おはよー」
「…おはよう」

あれから一週間。
朝練前、体育館で準備をしていると敦が欠伸をしながらやってきた。

「…ちん、眠いの?」
「え?」
「だってクマすごいよ」
「う…」

敦の言う通り、私の目の下にはクマがしっかり出来てしまっている。
理由は言わずもがな、辰也のマフラーを編んでいるせいだ。
授業で編み物しているから大丈夫、なんて思ったけどまったくそんなことはない。
辰也にあげるものだと思うと、編んではほどき、編んではほどきの繰り返し。
もっともっとうまく編まなくちゃ、そう思って何度も編みなおしてしまってすっかり寝不足だ。

「何してたの?」
「…勉強」

敦に本当のことを言うと辰也にぽろっと言ってしまいそうなので、適当にごまかしておく。
一応、全くの嘘というわけではない。

「受験終わったんじゃないの?」
「まだ終わってないよ。面接はこれからだし…」

推薦は取れたけど、面接は来月だ。
ほぼ受かるものではあるけど、面接練習はしなくちゃいけないし、在学中に成績を落としたら推薦取り消しなんてこともあり得る。
ちゃんと勉強は続けていかないといけない。

ちん真面目だね〜」
「そうかな…?」
「うん」

辰也のマフラーも編みたいし、勉強も続けなくちゃいけないし、もうすぐWC予選が始まるからその準備もしなくちゃいけない。
まだしばらく慌ただしい日々が続きそうだ。






、眠そうだけど大丈夫?」

その日の帰り道、辰也にも敦と同じことを言われてしまった。

「うん」
「あんまり夜更かししちゃだめだよ」
「大丈夫、ちょっと昨日は眠れなくて…」
「そうなの?何かあった?」
「ううん、たまたまだと思うから気にしないで」

辰也にそう言って笑いかける。
辰也の誕生日まで、私がマフラーを編んでいることを知られるわけにはいかない。

「そう?もし眠れなかったらオレに電話してきて。話相手ぐらいにはなるよ」
「ダメだよ、そしたら辰也まで眠れないじゃない」
「オレはいいんだよ」
「ダメ!」

キッと睨み付けると辰也は笑う。
そんな顔をされてしまっては、それ以上言えない。

「…辰也ってば…」

辰也はいつもそう。
私のことばっかりなんだから。

そんな優しい辰也に喜んでもらいたい。
頑張って、辰也のマフラーを編もう。
きっと辰也は優しいからなんだって喜んでくれるだろうけど、そんな辰也にとびきり喜んでもらえるように。





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15.06.26