次の日、隣の駅の手芸屋で毛糸をしこたま買ってきた。 目的はもちろん、昨日破れてしまった辰也のマフラーを編むためだ。 一応選択家庭科で編み物はやっているので、そこまでひどい出来にはならいない…はず。 辰也の誕生日までまだ一か月弱ある。 凝った柄にはしない。辰也はシンプルなのが似合うと思うから。 それなら間に合うはず。いや、間に合わせなくては。 * 「おはよー」 「…おはよう」 あれから一週間。 朝練前、体育館で準備をしていると敦が欠伸をしながらやってきた。 「…ちん、眠いの?」 「え?」 「だってクマすごいよ」 「う…」 敦の言う通り、私の目の下にはクマがしっかり出来てしまっている。 理由は言わずもがな、辰也のマフラーを編んでいるせいだ。 授業で編み物しているから大丈夫、なんて思ったけどまったくそんなことはない。 辰也にあげるものだと思うと、編んではほどき、編んではほどきの繰り返し。 もっともっとうまく編まなくちゃ、そう思って何度も編みなおしてしまってすっかり寝不足だ。 「何してたの?」 「…勉強」 敦に本当のことを言うと辰也にぽろっと言ってしまいそうなので、適当にごまかしておく。 一応、全くの嘘というわけではない。 「受験終わったんじゃないの?」 「まだ終わってないよ。面接はこれからだし…」 推薦は取れたけど、面接は来月だ。 ほぼ受かるものではあるけど、面接練習はしなくちゃいけないし、在学中に成績を落としたら推薦取り消しなんてこともあり得る。 ちゃんと勉強は続けていかないといけない。 「ちん真面目だね〜」 「そうかな…?」 「うん」 辰也のマフラーも編みたいし、勉強も続けなくちゃいけないし、もうすぐWC予選が始まるからその準備もしなくちゃいけない。 まだしばらく慌ただしい日々が続きそうだ。 * 「、眠そうだけど大丈夫?」 その日の帰り道、辰也にも敦と同じことを言われてしまった。 「うん」 「あんまり夜更かししちゃだめだよ」 「大丈夫、ちょっと昨日は眠れなくて…」 「そうなの?何かあった?」 「ううん、たまたまだと思うから気にしないで」 辰也にそう言って笑いかける。 辰也の誕生日まで、私がマフラーを編んでいることを知られるわけにはいかない。 「そう?もし眠れなかったらオレに電話してきて。話相手ぐらいにはなるよ」 「ダメだよ、そしたら辰也まで眠れないじゃない」 「オレはいいんだよ」 「ダメ!」 キッと睨み付けると辰也は笑う。 そんな顔をされてしまっては、それ以上言えない。 「…辰也ってば…」 辰也はいつもそう。 私のことばっかりなんだから。 そんな優しい辰也に喜んでもらいたい。 頑張って、辰也のマフラーを編もう。 きっと辰也は優しいからなんだって喜んでくれるだろうけど、そんな辰也にとびきり喜んでもらえるように。 ← top → 15.06.26 |