10月29日。 辰也の誕生日前日。 「…できた!」 ようやく辰也に渡すマフラーが出来た。 シンプルなブルーグレーの無地のマフラー。 きっと辰也に似合うはずだ。 「………」 でもやっぱり、ちょっと編み始めのほうがガタついてる気がする。 …いや、でも今から編みなおしたら絶対間に合わないし…。 「……」 ダメダメ!編み直しはなし! 辰也にはできる限りいいものを、そう思うけど今から編み直して間に合わなかったら元も子もない。 すでに買っておいたラッピングの袋に包む。 …辰也、喜んでくれるかな。 * 今日もバスケ部の練習はある。 練習が終わった後、今年も辰也の部屋でケーキを食べてお祝いする予定だ。 「あれ、二人とももう帰るの?」 ちゃっちゃと身支度を済ませて校門まで歩いていると、敦に会う。 辰也はしょっちゅう居残りして自主練をしているから早く帰るのは珍しいのだ。 「うん」 「ふーん。?あれ、マフラーしてないね」 敦は辰也のマフラーがないことに気付いたようだ。 辰也のマフラーが破れてしまってからしばらく経っているので、辰也がつけてないところ見てるはずだけど、今気付くのは敦らしいと言うか男の子らしい というか。 「うん…」 「うわ、暗い」 敦の言葉を聞いて、辰也はあからさまに落ち込んでしまう。 敦も思わず一歩引いてしまうほどだ。 「不注意で破いてしまってね…」 「?新しいの買えばー?」 「がくれたのはあれだけだよ」 辰也は切ない目でそう言う。 胸の奥が甘く痛む。 「あー、そういやそんなこと言ってたね」 敦はお菓子を食べながらぼんやりとした顔で言う。 私はぎゅっと鞄を握る。 新しいマフラー、喜んでくれるだろうか。 「まーいーや。じゃあねー」 「ああ。また明日」 「バイバイ」 そう言って敦と別れた。 さて、とりあえずケーキを買わなくちゃ。 * 「誕生日おめでとー!」 「ありがとう」 ケーキ2ピースと、ちょっとしたお菓子。小さいけれど誕生日パーティだ。 「あのね、辰也」 そう言って鞄からラッピングされた袋を取り出す。 「これ、プレゼントなんだけど…」 緊張で少し声が震えてしまう。 去年も確か緊張しながらプレゼントを渡したけど、今回はその比じゃない。 「ありがとう」 辰也はうれしそうに笑って受け取ってくれる。 喜んでくれるだろうか。 辰也は優しいから、きっと中身を見ても笑ってありがとうと言ってくれるけど、心から喜んでくれるだろうか。 内心「ちょっと端が汚いな…」とか思われたら死にたくなる。 辰也がラッピングの紐を解く短時間の間にぐるぐるとそんなことを考える。 辰也は中のマフラーを取り出した瞬間、体を硬直させてしまう。 「た、辰也…?」 どうしよう。変と思われただろうか。 …て、手作りは重いとか思われたり…。いや、さすがに恋人同士だし手作りでも「重い」はないよね!? 「…」 「は、はい」 「これ、が編んでくれたの?」 「うん、一応…」 見た目でプロと思えるような作りではない。 私が編んだことはすぐにわかるだろう。 「……」 辰也はじっとマフラーを見つめる。 ドキドキと、辰也の次の言葉を待った。 「」 「わっ」 辰也はぎゅっと私のことを抱きしめてくる。 大切に大切に扱うように。 「辰也…?」 「嬉しい。すごく嬉しい…」 辰也は私と自分のおでこをくっつけると、目を細めて噛みしめるようにそう言った。 「辰也…」 「本当に嬉しい。が作ってくれたんだね」 「う、うん…そんなにうまくないけど」 「そんなことないよ。すごく素敵だ」 辰也はマフラーを大切そうに撫でる。 とても喜んでくれたのだとわかって、嬉しくなる。 「……」 辰也はじっとマフラーを見つめる。 愛おしそうな目だ。 「大切に取っておくね」 「え…っ」 辰也はそう言うと丁寧にラッピングの袋にしまってしまう。 前のマフラーのようにつけてはくれないのだろうか。 「あの…」 「ん?」 「…つけてくれないの?」 おずおずとそう聞くと、辰也は眉を下げて口を開く。 「また破いちゃうかもしれないからさ」 辰也は月初めにマフラーを破いてしまったのをまだ気にしているのだろう。 その気持ちは分かるけど、もう落ち込まないでほしい。 「辰也、あのね」 ぎゅっと辰也の両手を握る。 一つ一つ、大切なことを伝えるために、はっきりと言葉を話す。 「辰也、聞いて」 じっと辰也の目を見つめると、辰也も見つめ返してくれる。 「私がプレゼントしたものを大切にしてくれるのはすごく嬉しいよ。だけど、できれば使ってほしいなって」 「でも、また破いたりしたら」 「そしたらまた私がマフラー編むよ」 「」 「ぞんざいに扱われたら嫌だけど…大切に使ってくれて、それで壊れたりしたら仕方ないよ。物なんだからいつかは壊れるんだし…。使えなくなったらま た私がプレゼントするから」 もう一度袋を手にとって、辰也に渡す。 「だからね、できれば使ってほしいな」 そう言うと、辰也はふっと笑顔になる。 「そうだね、ありがとう」 「辰也」 「せっかくがオレに作ってくれたんだから、ちゃんと使わなくちゃもったいないね」 辰也はそう言うと、マフラーを巻いてみせる。 「似合う?」 「うん!」 この色は辰也に似合うだろうと思っていたけど、想像以上だ。辰也にとてもとても似合っている。 「毎日つけるよ。大切に使う」 「うん!」 やっぱり、そうしてくれるのが一番嬉しい。 辰也がこれをつけてくれるのを想像して、毎日編み進めていたんだから。 「辰也、誕生日おめでとう」 「うん、ありがとう」 「約束、ちゃんと守ってるよ」 「?」 「去年約束したでしょ、毎年辰也の誕生日お祝いするよって」 去年の辰也の誕生日、これからずっと、毎年辰也の誕生日をお祝いすると言った。 とりあえず、あの約束から一回目だ。 「そうだね、これからもずっと」 「うん」 そう言って小指を絡める。 この一年、早かったような短かったような。 …辰也と初めて一つになってから、一年だ。 「?」 「なっ、なに?」 「顔が赤い」 辰也はずいと顔を寄せてくる。 より一層、私の顔が赤くなる。 「何考えてる?」 「な、なにも」 「そう?」 辰也が私の頬をなぞる。 くすぐったくて身を捩る。 「オレと同じこと考えてるかと思った」 辰也はおでこを合わせてそう言ってくる。 「…同じ?」 「うん。去年のこと」 辰也は優しい目で、幸せそうな声でそう話す。 それは恥ずかしいことではないと教えるように。 「すごく幸せだった。今もね」 「…うん」 「、もう一つ約束だ」 辰也は私の胸の真ん中に人差し指を当てる。 「の体を知っているのは、今までもこれからもオレだけだ」 胸の奥が締め付けられる。 ぎゅっと辰也に抱きついた。 「もちろん」 「うん」 「辰也以外なんて、絶対嫌」 辰也以外にさわられるなんて、想像しただけで嫌だ。 これから一生、辰也だけでいい。 「ずっとずーっと、私は辰也だけだよ」 辰也の胸に頬を寄せる。 辰也の心臓の音が聞こえて来て、自分の鼓動と一緒になって、一体になっていく感覚。 「愛してるよ」 「私も」 ← top →#26.5 ※R18 18歳未満の方はご遠慮ください →#27 15.07.03 |