「わっ、もう冷えるね…」

辰也の家を出て、辰也と私は並んで歩き出す。
10月ももう終わり、寒くて当然と言えば当然だ。

「あったかいよ」

辰也はご機嫌顔でマフラーを巻いてみせる。
暖かいと心の底から思ってくれているんだろう。

「ありがとう」
「?お礼を言うのはオレのほうだよ」
「でも、私も喜んでくれて嬉しいから」

笑ってそう言うと、辰也はますます顔をほころばせた。

「いいね、そういうの。オレも嬉しくて、も嬉しい」
「ね」

私がプレゼントしたものを辰也が喜んでくれて、その様子を見て私も嬉しくなる。
幸せの循環だ。

「もう雪降るかな」
「どうかな…去年はずいぶん早かったからね」
「そうなんだ。いつもはあそこまでじゃない?」
「うん」

雪の話をしながら空を見上げる。
去年雪が降り始めたのはずいぶん早かった。その上によく降ったので、辰也や敦は驚いていたようだった。

「今年はどうかな」
「雪だるまは作れそう?」
「それなら余裕だよ。嫌って言うほど作れるから」

雪だるまぐらいなら何個でも作れるだろう。
それこそ春が近づくころには飽きるほどに。

「…」

そう、もうすぐ冬がやってくるんだ。
私と辰也、三年にとっては最後の大会はもう目前なのだ。

「辰也、WC頑張ろうね」

ぎゅっと辰也の手を握ってそう言った。
最後の大会、優勝して笑顔で終わりたい。

「もちろん」

辰也はそう言うともう一度空を仰いだ。
私たちの高校生活は、あとたった数ヶ月で終わってしまうのだ。

「…引退したら」

辰也はマフラーに少し顔を埋める。
辰也の瞳はわずかながらに揺れている。

「暇になっちゃうね」

辰也の言葉に思わず笑みをこぼした。
きっと辰也は違う何かを言おうとしたのだろう。
だけど彼がごまかすから、私もごまかされたままにしておいた。

「そうだね、毎日部活ばっかりだったから」
「まあ先輩たちもちょくちょく部には来てたけど…今みたいに毎日部活、ってのはなくなるんだ」
「うん…そういえば、辰也、1、2月にアメリカ行きたいって言ってなかった?」

少し前、辰也がそんな話をしていたのを思い出す。
…まあ、そのときは敦が「室ちん卒業したらアメリカに帰る」なんて言い方をしたせいで一悶着あったのだけど。

「いや、さすがに無理みたいだな。親に聞いたら忙しくて一緒には行けそうにないし、さすがに未成年だけで海外旅行はダメって言われて」
「あ、そうなんだ…」
「うん。お金だって親に出してもらわないといけないし…アメリカに行くのはしばらくお預けかな」
「そっか」

確かに高校生で一人で海外旅行、というのはちょっとまずいだろう。
親にお金を出してもらう立場で我がままを言うわけにもいかない。

「いつか一緒に行けたらいいね」

辰也が笑顔でそう言ってくる。
私はその言葉に目を丸くした。

「え、二人で?」
「?うん」

辰也は私に顔を寄せる。
からかうような笑顔でも、子供っぽい笑顔でもない。
優しく甘く語り掛けるときの笑顔だ。

「オレが10年近く育った場所を、に見てもらいたいんだ」

辰也は昔を懐かし表情でそう言った。
ロスは辰也が10年近く育った場所、そこはきっと辰也が成長するにあたってたくさんの影響を受けた場所なんだろう。

「うん、私も行きたい!」

私も辰也が育った場所を見たいと思う。
そこを知ればきっと辰也のことをもっと深く知れるだろうし、そしてきっと辰也をもっと好きになれると思うから。

「そうだ。暇になったら、この辺り歩こうよ」

辰也がここに引っ越してきて約一年半が経っているけど、部活に忙しかったのであまりこの辺りを巡ってはいないだろう。
そう思い辰也に提案する。

「私もね、私の生まれて育った場所、辰也に見てもらいたいの」

18年間私が育ってきたこの地を、辰也に見てもらいたい。
田舎だけど、たくさん素敵な場所があって、素敵な人がいて…私の大好きなこの場所を。

「そうだね、それいいな」

辰也は少し辺りを見渡す。
その後、にっこり笑って私を見た。

の育った場所を見てみたい。もっともっと、のことを知りたいと思うよ」

辰也も私を同じ気持ちでいてくれることが嬉しい。
笑顔で向かい合って、キスをした。





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15.07.24