文化祭、修学旅行も無事終わり、暦は10月。
外で洗濯物を干すのがちょっと寒くなってきた。
夏休みと違って一日中練習があるわけじゃないから、今はだいぶ洗濯物自体少ないのがありがたい。

「はあー…」

一通り干し終わって、溜め息をつく。
…ちょっと、疲れてるな。そう思って肩を回してみる。
夏休みの前まで授業が終わったらすぐ家に帰ったり、友達と遊んだり。
そんな生活だったのが毎日遅くまで部活があって、朝練もして、休日も一日練習。
それが嫌なわけじゃないけど、やっぱり疲れてしまう。

「体力ないなー」

マネージャーの私よりみんなのほうがハードな毎日なのに、体調崩す人なんてほとんどいないし、みんな文句を言いながらもしっかり練習してる。
…うん、私も頑張ろう。
そう決意したところで、体育館の方から岡村先輩がやってくるのが見えた。

「先輩、どうしたんですか?」
「ちょっと忘れもんじゃ」

そう言って岡村先輩はすぐ隣の部室へ。
私も部室に用があるので先輩と一緒に部室に入った。

「はあ…」
「?大丈夫か?」

部室に入ったとき、また溜め息をついてしまった。

「あ、いや、大丈夫です」
「あまり無理するなよ」

岡村先輩はそう言って私の頭をぽんと叩く。
岡村先輩も、福井先輩も、監督も、氷室も、ほかの部員も、みんなそうやってよく私に対して「無理するな」と声を掛けてくれる。
…心配してくれるのは嬉しい。嬉しい反面、寂しくもなる。
夏休みの頃から、何も変わっていないようで。
その上、心配してくれているのに、こんな気持ちになるなんて、申し訳なくなって。
頭をぶんぶんと振って気持ちを切り替える。

「ま、今度の金曜は休みじゃろ」
「え?」
「毎年恒例の校内清掃があるからの。校内全部立ち入り禁止になるから、当然部活も禁止じゃ」

あ、そうだ。私立のいいところというか、土日学校があったりする分、休みの日があったりする。
今年は来週の金曜か…。

「たぶん今日あたり監督からも話出るじゃろ。ゆっくり休めよ」
「…はい」




「ひ、氷室」

その日の帰り道。
学校も部活もない日なんて滅多にない。
ちょっとドキドキしながら、氷室に話しかける。

「ん?」
「あのね…」

付き合ってるんだから別に恥ずかしがる必要はないと思うんだけど。
でも、なんだか…。

?」
「…えっと」

言い淀んでいる私を見て、氷室はくすっと笑った。

「今度の休み、どこか行こうか」
「え…」

そう言われて、少し顔が赤らむのが分かった。

は本当に、恥ずかしがり屋だね」
「…だって」
「いいよ、の赤くなった顔、可愛いからね」

そう言われると、また顔が赤くなるのを感じる。
氷室はそんな私を見てまた笑う。

「どこに行こうか」
「あ、あのね。この間映画の試写会の券当たったの」
「試写会?」
「うん。部活あるから友達にあげようかと思ってたけど、行けるし」
「そうだね。楽しみだな」

そう言うと氷室は繋いだ手をより一層強く握った。
…うん。すごく、楽しみ。






金曜日、緊張してちょっと早めに起きてしまった。
ドキドキしながら昨日選んだ服を着て、待ち合わせ場所へ向かった。

「氷室」

まだ待ち合わせ時間の前なのに、氷室はそこにいた。
慌てて駆け寄ると、「大丈夫だよ」と声を掛けてくれる。

それだけのやり取りで、心臓が高鳴る。
だって、こうやって一日デートするのは初めてだから。
今まで部活が終わった後にどこかに寄ったりはしていたけど、一日一緒に遊びに行ったことはない。

どうしてもドキドキしてしまう。


「ん?」
「その服、可愛いね」
「…っ」

氷室はにっこり笑ってそう言った。
ま、漫画みたいだ…。

「あ、ありがとう…」

この状況でそんなことを言われたら、どうしても顔が綻んでしまう。
ドキドキが止まらない。

「じゃ、行こう」
「うん」

手を繋いで、前に一緒に行った映画館へ向かう。
繋いだ手からドキドキが伝わってしまうんじゃないかと思うくらい、心臓が高鳴っている。

、そんなに緊張しないで」
「え?」
「顔がね、笑ってるけど、なんだか強張ってるよ」
「!」

思わず左手で自分の顔を抑える。
や、やっぱり顔にも出ちゃってたのか…。

「一緒に出掛けるの、初めてじゃないだろう?」
「そうだけど…。でも、こうやって一日デートみたいなことするのは、初めてだよ」
「まあ、そうだけど」
「…だって」

繋いだ右手を強めて、俯きながら話す。

「…ちょっと憧れだったんだよ。こうやって、休みの日に会って、一日デートするの」

氷室はバスケが好きで、楽しんでバスケ部をしている。
私もそれは一緒で、大変だけどやりたくてバスケ部をやっているのからそれはいいんだけど、
ときどきクラスメイトから一日デートしたなんて話を聞いたりすると、羨ましいと思ってしまった。

だから、今、すごく嬉しい。


「え…わっ!?」

氷室は熱っぽい声で私の名前を呼ぶと、ぎゅっと私を抱きしめた。

「ちょ、ちょっと!」
「可愛い」

極め付けにキスをされて、私の顔は真っ赤になった。

「ひ、氷室…!」
が可愛いのがいけないんだよ」
「…っ」

あちらこちらから視線を感じて、恥ずかしさが頂点になって俯いた。

「そ、外でしちゃダメだって…」
「ごめんね?」
「…っ」

周りの視線のせいで怒る気力もない。
も、もう…!

「つ、次したら本当に怒るからね」
「うん、ごめんね」
「…」

氷室は優しい手つきで私の髪を撫でる。
怒っているのと、恥ずかしいのと、…温かくなるのと、いろんな気持ちが一緒になる。

「…オレもね、今日、すごく楽しみだったよ」

氷室の声がすごく優しくて、温かい気持ちがじんわり広がっていく。
氷室も、一緒。


「楽しい一日になりそうだね」







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13.03.28