お正月が終われば、すぐに新学期がやってくる。 とはいえ、私たち三年生は数日登校すれば自由登校期間になってしまう。 すでに進路の決まった私と辰也は自由登校期間にすることもなく、ちょくちょく部活に顔を出していた。 特に辰也はスポーツ推薦で大学進学を決めたのだから、体を鈍らせるわけにはいかないのだ。 「先輩、先輩」 後輩マネージャーが、体育館の隅で私のシャツの裾をちょんちょんと掴んできた。 「どうしたの?」 「先輩、バレンタイン部活来ます?」 「あ…どうだろ。辰也次第かなあ」 基本的にほぼ毎日部活には顔を出しているけれど、バレンタインとなれば話は別だ。 部活にちょっと顔を出してから辰也と二人でバレンタインを過ごしてもいいけど、せっかく休み期間なのだからのんびり一日を過ごすのもいいだろう。 「そっかあ、じゃあ来ることになったらメールしてくださいね!私、先輩の分もチョコ持ってきますから!」 「ありがと」 きらきらした瞳で話す後輩に、胸がきゅんとなる。 後輩にも恵まれてよかった。私も彼女にチョコレートを用意しなくっちゃ。 その日の辰也と手を繋ぎながら帰り道。 後輩と話したバレンタインの件を辰也に聞いてみる。 「ああ、もうそんな季節だね」 「ね。どうしよっか。バレンタインも部活やるみたいだけど」 「うーん……」 バスケバカな辰也のことだから即答で部活に出ると言うと思ったけど、辰也はずいぶんと悩んだ様子を見せる。 「…せっかくだから、今年は二人でゆっくり過ごしたいな。いいかな?」 「うん、もちろん」 辰也がそう言うのなら、私に反対する理由はない。 今年のバレンタインは、のんびり過ごすことになった。 次の日。部活に顔を出した際に、後輩にバレンタインは部活に来ないことを告げた。 だから前日にチョコ渡すねと話すと、彼女は笑った。 「あー、やっぱりですよね。だって氷室先輩バレンタインに学校来たら大変そうですもん」 「え?」 「去年いっぱいもらっちゃって大変そうだったって紫原先輩言ってましたよ」 ふと、一年前の記憶が蘇る。 去年のバレンタイン、辰也はたくさんの女子生徒からチョコレートをもらっていた。 辰也のそんな様子を見て私はひどく落ち込んだのだけれど、辰也はそれを覚えているのだろうか。 それを覚えていて、今年は私が落ち込まないようにと気を遣ってくれたのだろうか。 「先輩?」 「あ……っごめん。部活の準備始めちゃお」 「はーい!」 きっと、そうなんだろう。辰也はいつだって優しいから。 問い質したところで優しい彼はいつものように「そんなことないよ」って言うだろうから、私は何も聞かない。 その代わり、とびきりおいしいチョコレートを用意しなくっちゃ。 ← top → 16.10.30 |