今年もバレンタインがやってきた。
辰也と過ごす二回目のバレンタインだ。
今年も去年と同じく手作りのチョコレートをラッピングして、辰也の家に向かう。


「寒……っ」

冷たい風に身を縮こまらせる。
二月は寒さのピークだけれど、今年はより一層寒さが厳しい。
クリスマスに辰也がプレゼントしてくれたマフラーに顔を埋めて、雪道を歩く。
秋田もすっかり根雪になった。春までこの雪は溶けないだろう。


雪道の中辰也の家に着くと、辰也はすぐに出迎えてくれた。

、いらっしゃい」
「お邪魔します」

玄関に上がると、辰也は私をぎゅっと抱きしめた。
ずっと部屋の中にいた辰也は温かくて、凍った体が心から溶けていく。

「辰也、あったかい」
は冷たい……いつもと逆だね」
「うん」

いつも二人で歩いているときは辰也の手が冷たくて私が暖めているけれど、今日はいつもと反対だ。
辰也に暖めてもらうの、気持ちいい。
……気持ちいい、けど。

「た、辰也」
「ん?」
「そろそろ部屋上がってもいい、かな?」

さすがにずっと玄関先で抱き合ったままというのもおかしいだろう。
そろそろ部屋に上がらせてもらいたい。

「ああ、そうだね。ごめん、つい」

辰也は私から体を離すと、額にキスをした。
ちゅ、と音を立てられて頬が少し熱くなる。

辰也の家ももう慣れたもの。
玄関先から辰也の部屋に上がって、上着を置いたら二人で飲み物の準備をする。
辰也はコーヒー、私は紅茶だ。
辰也はこれから甘いものが出てくるのがわかっているからか、ちょっと濃いめのコーヒーだ。

「辰也、はい、チョコレート」

鞄からラッピングされた包みを取り出すと、辰也は一瞬にして頬を紅潮させ表情を綻ばせる。
もし辰也にしっぽがあったなら、多分今大きく左右にしっぽを振っていたのだろう。

「ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん」

辰也は優しい手つきで包みを開けていく。
最後に蓋をそっと開けて、嬉しそうに目を細めた。

「いただきます」

一口食べると、辰也はじっと私を見つめて、私のことを抱きしめた。

「わっ!」
「おいしい。すごくおいしい」
「も、もう……」

辰也のストレートな褒め言葉、それに加えて私の頭をよしよしと撫でてくる行為にかあっと頬が熱くなる。
辰也はいつもこうやって少し大げさなぐらいに喜んでくれる。
少し恥ずかしいけれど、やっぱり嬉しい。

「ありがとう。喜んでもらえて嬉しい」

私もぎゅっと辰也を抱きしめ返す。
辰也のことを考えて、辰也が喜んでくれるかなって期待して作ったチョコレート。
こんなに喜んでくれて、本当に私は幸せ者だ。

「もったいないけどちゃんと食べないと」
「ふふ、手作りだから傷むの早いだろうし…」
「そうだよね……はあ、食べたいけどずっと取っておきたい……」
「また何度でも作るから」
「うん。ありがとう」

辰也はちゅ、と音を立ててキスをする。
甘い味が、広がっていく。

、オレからもプレゼントがあるんだ」

辰也はそう言うと、棚から小さな包みを取り出した。
可愛いラッピングのそれを受け取って、そっと包みを開いた。

「わ、かわいい」

中身は綺麗なハンカチだ。
薄いピンクの生地にレースがあしらわれていて、少し大人っぽい素敵なデザインだ。

「ありがとう、辰也。明日からさっそく使うね」
「どういたしまして」
「本当にありがとう」

重ねてお礼を言って、ぎゅっと辰也に抱きついた。

「そんなに喜んでくれた? 嬉しいな」

辰也は私を抱きしめ返して、嬉しそうな声で囁いた。

もちろんプレゼントが嬉しいのもあるけれど、このお礼には違う意味も込められている。
辰也が今日部活に顔を出さなかったのは、私に気を遣ったからなのだろう。
今日学校に行けば、辰也は去年のように女子生徒からたくさんのチョコレートをもらうだろう。
それを見た私が嫌な気持ちにならないよう、いつも顔を出している部活に顔を出さなかったのだ。口には出していないけれど、きっとそう。
辰也は優しい。優しくて優しくて、溺れてしまいそうになる。

だから、私も精一杯返そう。
辰也が大好きだよって何度も言って、触れて。辰也がいつもそうしてくれるように。

「辰也、大好きだよ」
「オレもだよ。どうしたの? 今日はずいぶん甘えたがりだ」
「そういう気分なの」

ごろごろと辰也に甘えると、辰也はキスで返してくれる。
本当に本当に、私は辰也が大好きだ。一緒にいられて幸せだと思う。





「寒……っ」

帰り道。辰也が家まで送ってくれるというので私たちは二人並んで雪道を歩いている。

「はあ、寒い……」
「ふふ、辰也さっきからそればっかり」
「だって寒いんだよ……寒いのはあんまり得意じゃないな」

辰也は言いながら私に体を寄せる。
一昨年初めて秋田で冬を迎えたときから辰也はずっとこの調子だ。
本当に苦手なんだろうな。

「雪道歩くのも結局慣れなかったな……」

辰也はぽつりと言葉をこぼした。

「東京ってあんまり降らないんだろ?」
「みたいだね。ウィンターカップのときも全然だったもんね」
「ああ、そうだね。もうすぐあっちに住むのか……」

辰也は目を細めて曇り空を眺めた。
私も辰也も、あと一ヶ月ちょっとで東京へ引っ越すことになる。
この雪とも、もうすぐお別れだ。

「寂しいな、やっぱり」
「辰也も?」
「ああ。だってこっちに来てからいろいろあったし……ここはの生まれ育った場所だろ? だからオレにとっても大切で大好きな場所だよ」

辰也は穏やかな表情で、優しい声で言葉を紡ぐ。
私の大切な場所を辰也が好きだと言ってくれることが、とても嬉しい。

「ありがとう。私もロス行ってみたいなあ。辰也は十年近く住んだ場所でしょう?」
「ああ、暖かくていいところだよ。に見せたい場所がたくさんあるんだ」

オレが住んでた場所はね、と辰也はロスの思い出を話し始める。
その表情は無邪気な子供のようでかわいらしい。
辰也が今思いを馳せているその場所に、私も辰也と一緒に行ってみたい。
夢のような想像が広がっていく。





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17.01.24