今日はとうとう卒業式だ。
朝早くに目を覚まして、きちっと制服を着た。

三年間通った陽泉高校とお別れの日。
友人たちとお別れの日。
ここで過ごした日々を、思い出にする日だ。

式自体は淡泊に、あっという間に終わってしまう。
さて、校庭に出て、みんなとお別れの時間だ。

先輩!」

駆け寄ってきたのは後輩マネージャー二人だ。
二人の手には色紙と花束がある。
それを笑顔で受け取ると、二人は泣き出してしまった。

「二人とも、泣かないで」
「だって……」

はらはらと涙をこぼす二人の背中を撫でる。
ああ、もうこの二人ともお別れなんだ。
そう思うと視界が滲んでくる。

「部のこと、よろしくね。二人ならきっと大丈夫だから」

一人でマネージャーやってきたから、二人が入ってくれて本当に楽しかった。
二人とは一年だけの付き合いだったけれど、楽しい思い出がたくさんある。
ぎゅっと抱きしめると、余計に二人は泣いてしまった。

「わ〜、ちんめっちゃ泣かせてる〜。ひどーい」

お菓子を食べながら敦がやってくる。
感慨なんてまるでなさそうな敦を見ると、少し涙が引っ込んだ。

「敦、あんまりわがまま言っちゃだめだよ」
「え〜」
「二人のこと困らせないでね」
「はーい」

敦は生返事をしながら、ポケットをごそごそと探る。
取り出したのはまいう棒だ。

「はい、ちんあげる」
「わ、餞別? ありがとう」
「せんべつとね〜、ホワイトデーのお返し」
「え……」

敦からホワイトデーのお返しがもらえるなんて思っていなかった。
目を丸くして敦とまいう棒を交互に見ていると、敦が口を開く。

「ホワイトデーもうこれないんでしょ」
「そうだね……」

ホワイトデーは数日後。いくらなんでも卒業式のあとに顔を出すのは気が引けるし、私も引っ越しの準備など忙しくなる。
部活に出るのは難しいだろう。
去年はホワイトデーをスルーした敦がこうやってお返しくれるなんて、嬉しいな。

「ところで室ちんは? オレ室ちんに色紙渡す役なんだけど」
「辰也? 外にいるはずだけど……」

辰也とはクラスが違うから一緒に外に出てきてないけど、隣のクラスも一斉に出てきているから、辰也もグラウンドのどこかにいるはず。

「あ、あれじゃん?」
「あれって……」

敦が指さす先には女子の集団。
確かにその真ん中には頭二つ分抜けた男子生徒の姿が見える。
遠いけれど、あれは確かに辰也だ。

なにをやっているのか、考えなくてもわかる。
辰也のネクタイをもらおうとしているのだろう。

陽泉は学ランではないから卒業式に第二ボタンをもらう風習はない。
その代わり、卒業生からネクタイをもらうことが習慣になっている。
彼女たちも辰也からネクタイをもらおうとしているのだろう。

「すごいねー。室ちんにはちんがいるのにネクタイもらえるわけないじゃん」
「卒業だからって気が大きくなってるアル」
「わっ」

敦の横に、突然劉が現れる。
彼の手には花束と色紙がある。

「いいアルか? 放っておいて」
「いいもなにも……」
「これが正妻の余裕ってやつ〜?」
「せ、正妻って……もう」

そう言われても私にはどう返事をすればいいかわからない。
曖昧に笑っていると、辰也が私に気づいたのか人混みをかきわけこちらにやってきた。

!」
「辰也」
「はい、これ」

辰也はネクタイをしゅるりと解くと、私の手に預ける。

「去年先輩たちから聞いたときから、に渡すの楽しみにしてたんだ」
「あ、ありがとう……」

きっと辰也はネクタイをくれるだろうと思っていたけれど、楽しみにするほどとは。
辰也らしいと言うか、なんというか。

「じゃあ、私も」

私も自分のネクタイを辰也に渡す。
女子から男子にネクタイを渡す風習はないけれど、辰也にもらってばかりでは申し訳ない。
私も辰也に返したい。

「ありがとう。そうだ、せっかくだから結んでくれる?」
「え?」

辰也はネクタイを手ににっこり笑う。
結ぶって、ここで。
まあでも、せっかくだし……。

「わかった。ちょっと屈んで」

辰也に少し屈んでもらって、私のネクタイを首に回す。
自分のネクタイはこの三年間毎日結んでいたから慣れたものだけれど、人のネクタイを結ぶのは難しい。
まごつきながら、ようやくネクタイを綺麗に結ぶ。

「はい、できた」
「ありがとう」
「やだ〜。もう完全に夫婦じゃん」
「えっ」

後ろで見ていた敦が呆れた声で呟いた。
夫婦って!

「いってらっしゃいあなた〜的な」
「え、え……」
「ああ、いいね。いってらっしゃいのキスもつけてね」
「ええ!?」

辰也までそんなことを言ってくる。
この二人は相変わらずなんだから……!

「してくれないの?」

辰也はしょぼんと眉を下げて落ち込んだ表情を見せてくる。
私がその表情に弱いのをわかっているんだ。

「す、するけど」
「ただいまのキスも、おはようのキスもおやすみのキスもしよう」
「う、うん」
「あとは、そうだな。目があったらキスしよう。ご飯は……が作るほうがおいしいけど、オレも作るよ。掃除と洗濯も分担制で……」
「た、辰也?」
「ん?」
「それって、今すぐの話じゃないよね……?」

辰也は今すぐにでもそれらを実践しそうな勢いだけれど、上京しても私たちは一緒に住むわけじゃないはずだ。
おそるおそる聞くと、辰也はにっこり笑った。

「そうだね。結婚したらの話だ」

辰也の言葉にかあっと頬が熱くなる。
いつか辰也と結婚したら。
そうか。もう高校を卒業するのだから、そんな日はもうきっと遠くないんだ。

、結婚しようね。いつまでも大好きだよ」

辰也は穏やかで優しい笑みを浮かべる。
私の心も頬も熱くなってくる。

「うん!」

大きく返事をしたところで、はっと我に返った。
今、周りにみんないたんだ……!

「わ〜公開プロポーズだー」
「おめでとうございます! なんか涙引っ込んじゃいました!」
「え、ええと……」
「ふふ。ラブラブでいいですね〜!」

敦も後輩マネージャーも、笑顔で私たちを見つめている。
ああ、もう、最後まで私たちこんなだった……。

「結婚式には呼んでね〜」
「もちろん」
「赤ちゃんできたら抱っこさせてくださいね!」
「う、うん」
「なんか卒業式っていうより二人の結婚披露パーティみたいになってきたアル」
「まーこれが二人のいつものことでしょ。東京行っても変わらないんじゃん?」

先ほどまでのしんみりとした空気はどこへやら。
卒業式とは思えないほど明るく朗らかな雰囲気に包まれる。

ああ、本当に楽しい時間だ。
私がこの学校で過ごした三年間は、つらいこともあったけれど、本当に笑顔に包まれた毎日だった。

楽しい思い出の詰まった、生まれ育ったこの場所を離れるのは寂しいけれど、大丈夫。
だって私の隣には、いつだって辰也がいてくれるから。
これからもきっと、楽しい毎日が続いていく。





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17.02.07

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