クリスマスが終わって年末になったころ、最後の大会を終えた私たち三年生は部の引退式に出ていた。

「先輩…」
「二人とも、後のことよろしくね」

目に涙を浮かべる後輩マネージャー二人にそう告げる。

「先輩がいなくなったら寂しいです…」
「二人なら大丈夫だから」
「大丈夫じゃないです!紫原先輩は先輩と氷室先輩じゃないと手に負えません…」
「あ、あはは…」

確かに二人の言うとおり、敦のことは少しだけ心配だ。
私や辰也がいなくなった後、ちゃんと真面目にやってくれるだろうか。

「アツシはお菓子で釣ればどうにでもなるから、後はアツシのお菓子の趣味を考えることかな…」

隣で辰也は後輩部員に敦の扱い方をレクチャーしているようだ。
辰也も敦のことを心配しているらしい。

「辰也も言ってるけど、敦にはお菓子あげてね。安いので大丈夫だから。あげてばっかちゃだめだけど…その辺りの見極めはきっと慣れてくるはずだから」
「ねー、室ちんもちんも失礼すぎない?」

敦はだるそうな声でそう言ってくる。
その手の中にはやはりお菓子がある。こういうときも敦は敦だ。

「こういうときにお菓子食べてるから心配なんでしょ」
「えー、だっておいしいじゃん」

敦は悪びれる様子もなく、またお菓子をつまむ。
こういう様子を見るとやはり心配になってしまう。
練習こそ真面目にやってくれるけど、部活前や後はいつもこんな調子だ。
きちんと後輩たちに手綱を握ってもらわねば。

「何かあったら連絡してね」
「はい…」

泣き出しそうな二人をなだめながらそう言った。
不安そうな二人の様子を見ると、一年前の自分を思い出す。
先輩たちが引退するとき、あのとき私もとても不安で寂しかった。

あのときの岡村先輩や福井先輩の言葉が今ならわかる。
「お前達なら大丈夫」と言ってくれたこと、私も後輩たちを見て同じことを思うから。

心配なことはたくさんあるけれど、きっとみんななら大丈夫だって、そう思う。

「あーあ、お父さんもお母さんも叔父さんいなくなっちゃうのかー」

敦が大きなため息を吐きながらそう言った。
私がお母さんで辰也がお父さん、劉が辰也の弟で、敦が私と辰也の子供だという、いつかのたとえ話だ。

「そうだよ、ちゃんと独り立ちしてしっかりしないと」
「はーい」

私のお父さんだった岡村先輩、お兄ちゃんだった福井先輩もいなくなり、私と辰也と劉もいなくなるとなれば陽泉家族は解散だ。
そして、私や辰也、劉のいない関係が出来上がっていくのだろう。
やっぱり、少し寂しいと思う。

「みんな、頑張ってね」





「あーあ、終わっちゃったね」

引退式を終えた私は、辰也と二人帰り道を歩いていた。
今日の引退式で私たち三年生の部活動は終わり。
長く濃い練習の日々が終わったのだ。

、泣いちゃうんじゃないかって思ってたけど、大丈夫そうだね」

辰也が心配そうな顔で私を覗き込んでくる。
辰也の言う通り、私も今日になる前は泣いてしまうんじゃないかと思っていたけれど、いざ今日という日を迎えてみると涙を流すことはなかった。
もちろん寂しい気持ちは強いけれど、晴れ晴れとした気持でもある。
涙を流す必要はどこにもない。

「私も泣くかなって思ってたけど…寂しいけど、大丈夫」

一年前、先輩たちの目に涙はなかった。
同じ立場になってみると、涙のない理由がよくわかる。
これ以上なく、晴れやかな気持ちなのだ。

「後悔はあるけどね」
「あるんだ?」
「うん、もっと早くバスケ部入ってればよかったなあって」

後悔らしい後悔は、たった一つだけだ。
もっと早くにバスケ部に入ればよかった。
つらくも楽しいこの時間、もっともっと長く過ごしていたかった。

「オレも、早く日本に帰ってきていたかったなあって思うよ」

辰也は優しい瞳で私を見つめる。
何かを懐かしむ、そんな目だ。

「高校の部活動にこんなに熱くなれるなんて思わなかったな。一年半しかやれなかったの、もったいないと思うよ」
「ね」

こうして、私たちの高校時代の部活動は終わりを告げた。
だけど、きっとバスケットボールとの付き合いはずっと続いていく。
辰也はもちろん、私だって。





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15.08.21